3-3 基礎戦闘訓練-型は必要?-

 基礎体力の計測がおわり、いよいよレイピアを使った訓練が始まろうかというとき、犬獣人のアルダベルトが手を挙げた。


「なんだ?」

「型っちゅうのは覚えにゃイカンのっすか? オラとしては実践形式でバシバシやってくれたほうが、ありがたいんすけど」

「馬鹿か君は?」


 アルダベルトの言葉に、ダリルが反応する。


「武術は型に始まり型に終わる。型も覚えずなにをもって武術の習得とするんだい?」

「いやぁ、実戦で戦えればそれでいいっしょ?」

「あのねぇ、その実戦でまともに戦うために必要な技術が、型なんだろうに」


 さらに議論は白熱しそうだったが、カーリー教官が片手を上げてふたりを制した。


「ふむ。世の中には型を覚える必要はない、と思っている者は多くいるようで、私もそういった質問をときどき受ける。アルダベルトは、型など不要というわけだな?」

「へい。強い人と闘って感覚をつかめれば、充分だと思うっす」

「では、ダリル。君はなぜ型が必要だと?」

「なぜもなにも、そんなの常識でしょう? むしろなぜ不要と思えるのか、私には理解できない」

「そうか。ジータ、君はどう思う?」

「……よくわかりません。それを学ぶために、ここへ来ているのだと思います」

「なるほど、殊勝な心がけだな。ではショウスケ」


 あー、流れ的に来ると思ったけど、やっぱ来たな、俺の番。

 俺的には、とりあえず型でもなんでも教えてくれたら、真面目にやりますよーって感じなんだけど。

 とりあえず型やっときゃ、スキルも生えそうだし。

 あ、ちなみに、これまで魔物討伐で散々槍を使ったけど、残念ながら〈槍術〉は習得できなかった。

 我流でスキルを習得するには、もっと経験を積むか、才能が必要なんだろう。

 お稲荷さま謹製の身体で、成長補正はかかってるらしいけど、だからってセンスがよくなるわけじゃないかなら。


「どうした? わからんならわからんで、正直に言えばいいぞ」


 そうだな。

 ここでわかりませんと答えるのもいいんだろうけど、せっかくだしヒキニートらしいことを、適当に言っとくか。


「えーっとですね。型ってのは先人の叡智だと思うんですね」

「ほう」

「実戦っつっても、いろんなシチュエーションがあると思うんですよ。で、考えられるいろんなシチュエーションに対応するために、型ってのがあるんじゃないかなぁ、なんて思っています」

「ふむ。なかなかいい答えだ」


 おおっと、褒められたぞ。

 人が勉強したり働いている時間に、ひたすら読みまくったマンガや、垂れ流しで見続けたアニメなんかの知識を、適当にミックスしただけの答えなんだけどさ。

 センスがないなら、人のセンスを借りればいいじゃない、ってね。


「型と聞くと、どうしても自由を奪うようなイメージを持たれるが、実際は逆だ」


 全員の考えを聞いたところで、カーリー教官が自分の考えを述べ始めた。


「型を覚えずに実戦のみで鍛えていると、自分の思考や、体の動きの範囲内で、行動が制限される。しかし型というのはそれこそ数百年という歴史と、それにまつわる膨大な数の先人が残した、知識の宝庫だ。自分からは出てこないような動き、それに伴う思考を身につけることで、より自由に闘うことができるようになる、と私は思っている」


 うん、マンガやアニメに出てきそうなセリフだよね。

 改めてそれっぽい人から聞くと、大いに納得できる話だ。

 ダリル君は我が意を得たりとばかりに、何度も頷いているし、ジータさんも、感心したように頷いていた。


「はぁ……、そんなもんっすかね」


 ただひとり、実戦至上主義っぽいアルダベルトはまだ、納得できてないようだけど。


「まあ、君たちがなにを望んでいるから知らんが、私の元で学ぶ以上、私のやり方に従ってもらう。嫌なら後日、自己流にでも改変してくれたまえ」


 ちょっとした問答はあったが、ようやく型の練習を始められそうだ。

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