3-4 基礎戦闘訓練-型は必要!-

「ああ、そうだ。型の訓練を始める前に、もうひとつだけ聞いておこうか」


 なんやかんやで、剣を使った訓練が始まろうとしていたのだが、カーリー教官には、まだ確認しておきたいことがあるようだ。


「なぜ細剣術を学ぼうと思ったのかを、知っておきたい。その答え次第では、別の武器にしたほうがいいかもしれないからな。ダリルとアルダベルトは剣術全般だからまぁいいとして、ジータ?」

「私のの場合は、父も冒険者で、父が使っていた武器だからです」

「なるほど、そういういことなら、まず使ってみるのもいいだろう。では、ショウスケは?」


 俺の場合、魔法剣士に憧れたから、とりあえず剣、って感じなんだよな。

 そのなかで、レイピア含む細剣術を選んだ理由となると……。


「なんとなく、自分の戦闘スタイルに合ってんじゃないかなーって思って」

「ほう、具体的には?」


 具体的に!?


「あー、えーっとですね。俺の戦闘スタイルですけど、こっそり近づいて死角から、ブスリとやるんですね。いままでは槍を使っていたんですが、細剣のほうが、小回りがきくかなーと思いまして」

「ふむう、死角からの不意打ちなら、弓術のほうがいいのではないか?」

「いやぁ、矢を買うお金が勿体無いといいますか……」

「たしかにかけ出しの冒険者にとって、矢の消耗は痛いところではあるが、剣もメンテナンス費がかかるぞ?」

「いや、剣だとギルドで借りれますから」

「ほう、なかなかしっかりもののようだな。考えなしに冒険者を目指して、食いっぱぐれて盗賊になるような輩も多いなか、君のように生活設計をしっかりできる者は、我々としても大歓迎だ」


 元の世界じゃ親のスネかじるしか能のないヒキニートが“生活設計をしっかりできる”と褒められるまでに成長したよ!

 いやぁ人から褒められるって、嬉しいもんだねぇ。

 山田くーん! お稲荷さんに揚げさん1枚やっとくれ!!


「よろしい。では試しにやってみたまえ」

「はい?」

「君の言う、そろりと近づいてブスリ、というやつだ」


 えっ、いきなり実践?


「あの……構え方とか、全然なんですけど」

「構わん。この巻藁まきわらを、敵に見立ててくれ」


 なんなのこの流れ……。

 まぁ、やるしかないんだろうけど。


「じゃあ、いきます」


 レイピアを抜き、なんとなく構える。


「プフ……」


 男爵家のボンボンめ、笑うんじゃない。

 他のふたりも、笑ってんだろうなぁ……って、余計なことは考えず、目の前の巻き藁に集中だ集中!

 ええっと、いつもどおりだから、〈気配隠匿〉を全開にして、っと。


「ほう……」


 カーリー教官がなにやら反応したけど、いまは無視だ。

 ちょっと不格好かも知れないけど、レイピアを構えたまま、足音を立てないよう、注意しながら前進する。

 そして巻藁が間合いに入るまで、ゆっくりと近づき……突くべし!!


 ――ドスッ!


 一応レイピアは、巻藁に刺さった。


「ふむ、なかなかのものだな」

「ええ!? どこがですか!!」


 せっかくカーリー教官が褒めてくれたのに、男爵家の坊やが反論しやがった。


「ダリル、君はショウスケの構えがなってないと、言いたいのだろう?」

「ええ、そうです。だからこそ型が重要だと思うのです。正直褒める要素が見当たらないのですが……」

「ふむ。ほかのふたりは、なんとなく察しているようだがな」

「え?」


 ダリルは驚いたように、ふたりを見た。

 俺もつられてそっちを見る。


「そっすねぇ。そのへっぴり腰はどうかと思うんすけど、構えてから攻撃に移るまでの雰囲気は、なんかヤバかったっす」

「私も同感です。物陰に潜まれたら、と思うと、ちょっと怖いですね」


 おお、さすが獣人。

 気配には敏感なのね。


「気配の断ち方は見事なものだ」


 きゃー! 褒められたー!!


「しかしダリルの言もまた、正しい。先ほどの構えは、あまりにひどいな」

「おう……」


 上げて落とすのはやめて!!


「オラ、型の大切さがわかったような気がするっす!!」


 アルダベルトちゃん、変なところで納得しないで!!


「では、型の練習から始めようか」


 アルダベルトの答えに、満足げに頷いたカーリー教官が、訓練の開始を告げた。

 俺のかいた恥は、無駄じゃなかったんだよね……?

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