2-7 基礎魔同講座 後編
コーヒーブレイク程度の、短い休憩が終わり、俺と爺さんは再び教室で向かいあった。
「ほいじゃあ、つぎは攻撃魔術を例に、〈火魔法〉と〈火魔術〉の違いを説明しようかの、シンスケくん」
「ショウスケです。引き続きよろしくお願いします」
複合属性を含む各属性の攻撃魔術は《
〈火魔術〉の場合は《
《火矢》ってのは細長い棒状の火を相手にぶつける魔術で、《火弾》は火を凝縮して弾丸状にすることで《火矢》より威力や射程を上げた魔術なんだが、《火矢》しか習得していない術者は、どう頑張っても《火弾》を撃つことができない。
しかし〈火魔法〉をある程度使いこなせれば、矢の形だろうが弾の形だろうが、好きに撃てるんだけど、ものすごい修練が必要な上に、魔法は魔術に比べてコストパフォーマンスが低い。
つまり、同程度の効果でも魔法のほうが、消費MPが大きいとってことだな。
あと、魔術の方が先述した《炎》《雷》なんかの複合属性を使いやすいという利点もある。
例えば浄化施設でおなじみ、あのクソ便利な《浄化》ってのは、8属性を全部使うんだと。
《地》の研磨、《水》の洗浄、《火》の殺菌、《風》の乾燥、その他いろいろって感じで。
それを素材や汚れによって、適切に処理するってんだから、《浄化》ってのは良くできてるよ、ホント。
これをいちいち魔法で処理しようとすると、千年にひとりの超天才大魔法使いが、100年かけて習得できるかどうかってレベルなんだが、魔術として確立されれば簡単に使えるようになるんだとさ。
この“魔法効果を魔術として確立させる”という研究こそ、魔術士ギルドの最も重要な役割だそうな。
ちなみに魔術の習得方法だけど、お金払ってギルドで習得ってのが一般的らしいわ。
くそー、やっぱ世の中金なのかー。
あと、いくら魔術が使いやすいとはいえ、仮に習得しても、使えるだけの能力がなければ、使いこなせないこともあるんだとか。
MPが足りない! みたいなことだろうね、たぶん。
それから、同じ魔術でも、術者の能力や魔力の込め方で、効果を変化させることは可能みたい。
極端な
ただ、それなら《火槍》使ったほうが効率はいい、みたいな。
そして魔道を操る者の呼び方だけど、魔術のみを使う者を『魔術士』、魔術メインで単属性の魔法を使えるのが『魔道士』、複数属性の魔法を使いこなせるのが『魔法使い』、ってな感じになる。
そういや元の世界でやってたゲームに“魔術士と魔法使いじゃ格が違う”みたいな設定のがあったけど、この世界も似たような感じなのかね。
ここじゃ魔術が相当発展してるから、魔法使いはもちろん、魔道士すらほとんどいないらしいよ。
あと、気になるのは属性の競合。
「属性の競合? そらどういう意味じゃフクスケくん」
「ショウスケです。例えば《水》と《火》は相性が悪い、みたいな」
「ふーむ、つまり水をかければ火は消える、みたいなことを言いたいのかの?」
「そうそう、そんな感じです」
「では訊くがショーンくん。油が燃えた火に水をかけると、どうなるか知っとるかね?」
「ショウスケです」
えーっと、そういや天ぷら鍋に火がついたら、絶対水かけちゃダメなんだよな、たしか。
「火の勢いが強くなるんでしたっけ?」
「その通り! なかなか博識じゃのショウキチくん」
「ショウスケです。つまり、属性同士が干渉しあって威力が弱くなったり、みたいなことはないんですね?」
「当たり前じゃな。属性というのはいわば自然現象。自然現象に差異はあっても優劣はないのじゃよションボリくん」
「ショウスケです。じゃあ風が火を強めるから《風》は《火》に負ける、とか大地は水を吸うから《地》は《水》に勝つとか、そういうのはない、と?」
「《風》の力で空気を遮断すれば火は消えるし、水を吸った地面は弛くなるぞい? 強い光は濃い影を作るし、明るいところよりも暗いとろこで
なるほど、この世界はゲームみたいに単純じゃないわけだ。
「もし属性同士を掛け合わせて効果が落ちるなら、それは魔術の出来が悪いか、術者の力不足か、使いドコロを間違えとるかじゃろうな、ミスターヤマガタ」
「ヤマオカです。いや、よくわかりました」
そんなこんなで、俺は無事、基礎魔道講座を修了した。
「ふぉふぉふぉ。おつかれさんじゃったな。いやはや、ゴンスケくんは理解が早くて助かったわい」
「ショウスケです。ありがとうございました」
しかし勉強してみて思ったけど、魔道ってのはなかなか奥が深いよ、ホント。
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