1-8 人は簡単に死ぬものよ

 冒険者ギルド登録に際して、俺はこの世界の常識をいくつか質問した。

 どうやらステータス確認にレベルアップ、スキル、SPの割り振りなんかは、この世界の常識にないらしく、これは大きなアドバンテージになりそうな予感がする。


「他になにかご質問はございますか?」

「あー、とりあえずこんなもんで」

「では、冒険者ギルドへの正式登録はどうされますか?」

「えーっと、すぐにできますか?」

「はい、仮登録は終わってますので、後は登録料をお支払いいただきましたら、ギルドカードをお渡しして完了となります」

「あー、でも俺、文なしなんですけど……」

「よろしければ依頼報酬からの天引き、という形で後払いにも出来ますよ。あと、ホーンラビットの角をお持ちのようですので、買い取りも可能ですが」


 なんでも、ホーンラビットの角は、装飾品や武器の素材としてそこそこ需要があるらしい。


「えーと、いくらで買い取っていただけます?」

「見せていただいても?」


 俺は腰紐に差していた、ホーンラビットの角を渡した。


「これといって目立つ傷もないですし、うまく採取できておりますので、規定料金の50Gゴルドで買い取らせていただきます」


 なるほど、ここの通貨単位はGゴルドね。

 新たな常識、ゲット。


「ちなみに登録料っていくらですか?」

「失礼しました。お伝えしておりませんでしたね。登録料は100Gです」


 足らんやないかーい!!

 ……とりあえず50Gは、手元に置いておこう。


「すいません、じゃああと払いで正式登録お願いします。あとこの角は買い取りで」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 エレナさんがカード入ってる台座を操作すると、またカードが淡く光った。

 そしたらカードに、俺の名前と冒険者ランクが表示された。

 エレナさんが台座からカードを外して渡してくれたので、ありがたく受け取る。


「はい、ではこれで登録は完了となります」


 ちなみにこのカード、失くしても他人による不正利用はほぼ不可能なうえ、万が一にも不正使用しようもんなら、すぐにバレて重罪なんだと。

 再発行は可能だけど、紛失記録は残るし、再発行に100Gかかるとのこと。

 絶対になくさないよう、気をつけないとな。


 とりあえず、冒険者ギルド登録は終わった。

 あとは今夜の宿だが……。


「すいません、宿をとりたいのですが、できるだけ安いところはないでしょうか?」

「当ギルドに宿泊施設がありますよ。冒険者の方は無料で利用可能です」

「ホントですか!? ……ちなみに安宿だといくらくらいになるんでしょうか」

「そうですねぇ、安くても10~20Gはかかるかと……。一般的なところで50~100G程度ですね」

「なるほど。では今夜は宿泊施設を使ってもいいですか?」

「かしこまりました。あちらの階段を上ったところが宿泊施設になりますので、209番の寝台をお使い下さい。寝台入り口にカードをかざせば、利用可能となっております。また、宿泊階層には10Gで利用できる浄化施設もありますので、ぜひご活用下さいませ」


 そのあと俺は、ホーンラビットの角の買い取り手続きを済ませた。


「カードを使ってお金を預かることもできますが、どうされます? ギルド内や提携店舗での飲食や買い物、施設利用料などはカード決済出来ますので、便利ですよ?」


 うお、なんかハイテクだな、やっぱ


「じゃあお願いします」

「はい、かしこまりました」


 エレナさんがなんか手続きすると、ギルドカードに50Gの文字が現れた。


「カードに表示されている金額は、ご本人様以外には見えませんのでご安心下さい」


 おお、なかなかの安心設定じゃないか。


「じゃあ、ありがとうございました」


 ……疲れた。

 よくよく考えれば、丸一日歩きっぱなしだったんだよなあ。

 休めるとわかったら、一気に疲れが来たわ……。

 さっきまでのワクワク感の反動も激しいな……。

 指示された場所にある階段へ向かって、俺は重い足を引きずりながら歩き始めた。

 なんかすぐそこなのにすげー遠いぞ、階段。


 「……いてっ」


 あ、なにかにぶつかった……、けどいま止まったら、このままぶっ倒れそう。


「おい、待てや」


 なんか肩掴まれた。

 もしかして人にぶつかった?

 そりゃ悪いことしたなぁ。


「あー、すんませんっしたぁ……」


 振り返ったらでかいオッサンがいたから、とりあえず謝る。

 つかマジでけぇな。

 2メートルくらいあんじゃね?

 肩の筋肉とか、盛り上がり方がハンパねぇな。


「いやいや、人にぶつかっといて無視していくとか、呼び止められたらダルそうに謝るとかよぉ、そりゃちょっとよくねぇんじゃねぇか?」


 おっしゃるとおり。

 すげー顔で睨まれてるから、普段の俺ならジャンピング土下座状態だろうけど、いまはホント疲れてるから勘弁して欲しい。


「すんませんっす……。疲れてるもんで……」

「へええ。お前、俺に睨まれてんのにあんまビビってねぇな」

「はぁ……」

「ちっ……、まあいいや。次からは気をつけな」


 そういって男は軽く俺の胸と押した。

 うん、ホント軽く押すって感じの動作だったんだ。

 車にでもはねられたんじゃねぇか? ってくらいの衝撃が来て、階段の方に吹っ飛ばされた。


「え……?」


 オッサン、唖然としてこっち見てるよ。

 いやいや、びっくりしてんのはこっちだっての。


「お、おい! 大丈夫かよ?」


 オッサン慌てて駆け寄ってきたわ。

 なんか笑える。

 あれ、でも体が全然動かねぇし、声も出せねぇ……。


「ちょっと! ガンドルフォさん! 何してるんですか!?」 


 あ、エレナさんが慌てて飛び出てきた。


「い、いや、ちょっと揉めてよ。軽く押したらよろけて階段で頭打っちまったみたいで……」


 いや、よろけたっつーか、ふっ飛んだよね?


「ショウスケさん! 聞こえます? 大丈夫ですか!?」


 いやぁ、大丈夫じゃないっぽいねぇ、これ。

 あーあ、階段に頭ぶつけて死亡って、どこの2時間サスペンスだよ……。


「嘘だろ……。俺の睨みでビビらねぇから、ちょっとはできる奴と思ったんだが」


 どんな言い訳だよそれ……。

 ああ、来たよ、ゾワゾワ。

 だいぶマシになったけど、やっぱ嫌だなこれ。

 クソ……、せっかく街にたどり着いたってのに、また森からやり直しかよ。

 ……………………。



「ちょっとー、なにキョロキョロしてんのー。うしろついていくから、とりあえずまっすぐ歩いてー」


 ……え?

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