1-2 救いの手
よっしゃ森抜けたー!!
たぶんスキルのおかげだと思うんだが、空腹がマシになったんでとにかく歩き続けたんだわ。
何時間ぐらいたったかわからんけど、しばらく歩いてたら木々の間隔が広くなって、だいぶ周りが見えてくるようになった。
それでようやく森を抜けて、草原っぽいところに出たので、そこからも歩き続ける。
とにかく、少しでも森から離れて、安全な場所へ。
そう思いながらひたすら脚を動かしていたんだが。
――あれ?
急に目眩がして、身体に力が入らなくなった。
やばい……なんだこれ……?
毒……じゃない、よな?
なにかに襲われた覚えはない。
虫とかに噛まれたとかなら、あるかもしれないけど。
せっかく森を抜けったってのに、いったいなんなんだよ……。
だれか……助けて……。
「だれか……」
声がかすれていた。
喉が、カラカラに乾いていた。
これ、たぶんアレだ。
脱水症状だ。
〈空腹耐性〉のおかげで、たぶん喉の渇きもあまり感じなくなっていたんだろう。
でも、実際に水分や栄養を摂取したわけじゃない。
気付かないうちに脱水症状が進んでいたんだろう。
「うぅ……」
どさり、とその場に倒れた。
もうこれ以上、自力では動けそうにない。
今回は、これで終わりか……。
**********
少しずつ意識が薄れていった。
目の前は真っ暗になり、目を閉じているのか、開いていて見えないのかもよくわからない。
「ゲホッ……! ゴホッ……!!」
急に息苦しくなった。
水に溺れたみたいに。
でも、咳をするのが精一杯で、目を開けることもできなかった。
「ん……ぐ……」
しばらくすると、なんだか口の周りが温かくなった。
それから、喉を何かが通っていく。
水、かな?
なんだが凄く心地いい……。
夢でも見てるのかな……俺……。
目が覚めたら……またあのウサ公倒して……。
……………………。
**********
目覚めると、そこにウサ公はいなくて、女の人が俺をのぞき込んでいた。
「目が覚めた? 生きてる?」
金髪で、切れ長の目の、美人さんだった。
ありゃ、まだ夢の途中か?
「ぅ……ぁ……」
声を出そうとしたが、かすれてうまく出ない。
「大丈夫? お水、飲む?」
彼女はそういうと、皮の水筒みたいなものを取り出した。
「自分で飲める? 飲めないなら、しょうがないから、また……」
彼女がなにか言ってるみたいだけど、水筒の口から流れ込んでくる水を、俺はごくごくと飲み始めた。
「あ、今度は大丈夫なのね」
まだなにか言ってるみたいだけど、いまは喉を潤すのが先決だった。
水筒を手に持ち、身体を起こして水を飲み続け、ほどなく水筒は空になった。
「ぷはぁっ!」
水をたっぷり飲んだ俺は、しばらく呼吸を整えたあと、女性と向き合った。
彼女の姿勢と俺の位置関係から、どうやら膝枕してくれていたみたいだ。
視線を落とすと、正座した女性の、むちっとした太ももが目に入った。
くそぅ、もう少し堪能してから身体を起こすんだったよ……。
「もう、大丈夫みたいね」
俺を見てそう言うと、彼女は胸に手を当て、ほっと息をついた。
むちっとした太ももと違って、胸はぺったんこだった。
「あの、ありがとうございます。助けていただいたみたいで……」
「そうね、私がいなければ、あなた、死んでたかもしれないわね」
なんか恩着せがましい言い方だけど、嫌な感じはしない。
実際、彼女がいなければ俺は間違いなく死んでいただろうし。
「おっしゃるとおり命の恩人です。ありがとうございました」
なのでここは素直に感謝の意を述べ、平伏する。
「や、ちょ、そこまでしなくても……」
「いえいえ、命を救っていただいたのですから、いくらお礼を言っても言い足りないのです」
「そ、そんなにたいしたことじゃないわよ。こんなところに人が倒れてたら、誰だって助けるに決まってるわ」
はたしてそうだろうか?
森の中には凶暴な獣がたくさんいるし、ここはまだその森に近い場所なので、危険はあるはずだ。
自分自身の身の安全を優先して見捨てたとしても、非難されるようなことではないだろう。
まして目覚めるかどうかもわからない、俺の意識が回復するまで看病するなんて、どこの聖母だって話だよ。
「重ね重ね、ありがとうございます……!」
「お礼はもういいから! 充分だからっ!!」
頭を上げると、顔を真っ赤にしてうろたえる彼女がいた。
なんつーか、済ましてるとクールビューティーって感じの容姿だけど、こういう姿を見ると、失礼ながらちょっと可愛いと思ってしまった。
「そ、そんなことより、アンタ! なんでこんなところにそんな格好で倒れてたのよ?」
あ、あなたからアンタに格下げされたっぽい。
いや、ここは親密度が上がったと考えよう。
「いや、なんというか、気が付けば森の中にいて……」
「もしかして、記憶喪失なの?」
記憶喪失……いいね。
その設定いただき。
「そう、みたいです」
「そっか……それは大変ね……」
そう言って軽く俯いた彼女だったが、すぐに顔を上げた。
「とにかく、一度街にいきましょう!」
「街……近くにあるんですか?」
「近いってほど近くはないけど、遠くもないわね。案内するからついてきて」
そう言って彼女が立ち上がったので、俺もそれに続いた。
「歩ける?こんなところでぼやぼやしてると危険だから、できればすぐに出発したほうがいいわね」
やっぱり、危険なのか。
それなのに、この人は……。
「大丈夫です、歩けます」
水分補給さえできれば、〈空腹耐性〉のおかげで飢餓感は抑え込めるし、ちょっと寝たのがよかったのか、以外と疲れは残っていなかった。
「そう。じゃあいきましょうか」
歩き出そうとしたところで、俺は手に持っている水筒の事を思い出した。
「あの、すいません、これ……」
「ん? ああ、ごめんなさい、持たせたままだったわね」
貴重な水だろうに飲み干してしまったことを申し訳なく思いながら、彼女に水筒を返す。
「お水、もう大丈夫?」
彼女が水筒を持つなり、ぺたんこだった水筒がパンパンに膨れ上がった。
軽く揺らした水筒の中から、ちゃぷちゃぷという音が聞こえてくる。
「なっ!?」
唖然とする俺を見て、彼女はふっと微笑んだ。
「どうやら、魔術のことも覚えてないのね」
魔術……魔術ってあの魔術? 魔法とか呪文とかそういう感じの?
……ここ、やっぱファンタジー世界なのか。
「ふふ、私もまだ駆け出しみたいなものだけど、《製水》くらいならいくらでもつかえるから、遠慮はいらないわよ?」
《製水》って文字通り水を創り出すってこと?
ってか、“せいすい”って聞いただけで《製水》と直感的にわかったな、いま。
「いえ、水はもう大丈夫です。いきましょう」
これ以上ゆっくりしていると、動きたくなくなりそうだったので、俺は彼女を促して歩き始めた。
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