第168話、二手に分かれて
国に入るなり冒険者ギルドへ向かい、専用駐車場に居住車を止めた。
町並みを特に観察せず、オルトリンデは言う。
「アタシとライオットは遺跡を調べる。エレオノールとヴァルトラウテ、オメーらは買い物しとけ」
「え……か、買い物?」
「おう。エレオノール、血がなくなりそうだろうが。それにピー助のエサも少なくなってきたし、オメーの替えの下着もねぇだろ? やれることを済ませてから調査に参加しろ」
「あ……」
エレオノールは、オルトリンデが自分を見てることが嬉しかった。
確かに、血とピーちゃんのエサは少なくなってる。
「ふふ、エレオノールちゃん。一緒に町でお買い物しましょうか」
「は……はいっ!!」
「んじゃ、アタシらは行く。ライオット」
「うっす!!」
オルトリンデは、ライオットを連れてさっさと行ってしまった。
残されたエレオノールとヴァルトラウテは、さっそく町に出る。
「まずは、エレオノールちゃんの血と、ピーちゃんのエサを買いましょう。それから服や下着を買って……」
やることはたくさんある。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オルトリンデとライオットは、2つ目の遺跡を調査していた。
照準を合わせることは得意だが、探知能力は戦乙女の中でも低いオルトリンデ。ライオットも同様だ。
だが、遺跡内に入れば索敵は可能。周囲を検索し、この時代にそぐわない物質や痕跡を調査する。
「…………見つからねーな。ライオット」
「うっす、自分もダメっす……」
センサーには、それらしき反応は検知されない。
どうやらこの遺跡も、アンドロイドや軍や人類軍が崩壊した後に建てられた、純粋な遺跡ということだ。
オルトリンデはライオットの頭をパシッと叩く。
「ハズレハズレ、ここもダメか」
「残念っす。姐さんの妹さんを見つけられなかったっす……」
「気にすんなって。そう簡単に見つかるとは思ってねぇよ」
バッチンとライオットの頭を叩くオルトリンデ。
すると、オルトリンデの顔がピクッと歪む。
「っつ」
「姐さん?」
「ああ、何でもねぇ。ちと痛覚神経を入れたままだった」
「痛覚神経?……姐さん、まさか『痛み』を感じるっすか?」
「まーな。普段はシャットアウトしてるけど、痛覚神経のスイッチを入れると索敵範囲が上昇するんだ」
「おお、すごいっす」
「ま、オヤジの趣味だろうな。よくわかんねーけど、戦乙女型には人間と同じ機能が備わってんだと。さすがに子を作るのは無理だけどな」
「ほぇ~……」
「ったく、なんでこんな機能があるんだか……」
ブリュンヒルデもジークルーネも、もちろんヴァルトラウテやアルヴィートにも五感神経は搭載されている。だが、この機能は乙女たちにとって特に重要ではなかった。なので、普段はシャットアウトしている。
「よし、次行くぞ」
「うっす!!」
オルトリンデたちは、次の遺跡に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エレオノールとヴァルトラウテは、町で買い物を済ませた。
ピーちゃんのエサと血、それと新しい服や下着など。さすが王国と言うべきか、店の数も品揃えも、コモリの町とは大違いだ。
ヴァルトラウテが荷物を抱え、エレオノールはピーちゃんを抱っこしながら歩く。
買い物が終わったので、荷物を居住車に戻してオルトリンデたちと合流する予定だ。
「ヴァルトラウテさん、荷物は……」
「この程度、問題ありませんわ。こう見えてわたくし、力持ちですの」
その言葉はウソではない。
ヴァルトラウテは、人間や獣人とは比べ物にならない腕力を持っている。
メインウェポンが『盾』であり、あらゆる攻撃に耐えられるように、パワーだけなら戦乙女型でも最強レベルなのだ。
「あの、オルトリンデさんたちは……」
「現在、3つ目の遺跡を目指しているようですわ。わたくしたちはお姉さまと反対側の遺跡を調査しましょうか」
「はい。それと、その……」
「ええ。この町にある遺跡ですわね?」
「はい。王国が管理している遺跡は、サタナエル様の許可が必要なはずです」
この町には、大きな遺跡がある。
吸血鬼の間ではそこそこ有名だ。何故なら、その遺跡はヴァンピーア王国にあり、魔王であるサタナエルが管理しているからだ。
その場所は、夜王城の地下。立入にはサタナエルの許可が必要になる。
エレオノールは、聞いたことがあった。
「その……噂があるんです」
「噂?」
「はい。夜王城の地下遺跡に踏み込んだ者は、誰も帰ってこなかったと……噂では、古代の吸血鬼に食べられたとか、地下の迷宮でのたれ死んだか、とか……」
「ふむ? そこは王様に管理されてるのでは?」
「そうですが、サタナエル様は、遺跡に踏み込む者を一切拒まないそうです」
「なるほど……きな臭いですわね」
「はい。その……本当に行くんですか?」
「ええ。外の遺跡に何もなければ、行くことになるでしょうね」
「…………」
エレオノールは思った。
なんとなく、外の遺跡には何もない。夜王城の地下遺跡に踏み込むことになるような気がすると。
「さ、荷物を置いたら行きましょうか」
「……はい」
結論から言おう。
エレオノールの勘は、当たっていた。
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