第165話、姉妹の可能性
姉妹はいるか? その答えはイエスだ。当然だろう。
オルトリンデとヴァルトラウテは、マリアンヌをジッと見た。
「その目……まるで人形のような、ルビーのような瞳、あの銀髪の少女にそっくりだ」
「詳しく聞かせろ」
オルトリンデの声が、感情の籠もらない無機質なものに変化する。
エレオノールは驚いてヴァルトラウテを見たが、ヴァルトラウテも同じような瞳を向けていたことに驚いた。
マリアンヌは薄く微笑み、再び窓際へ向かう。
ミリアとミルコは武具を拾い集め、そのまま退室した。
「最近、ヴァンピーア領土が騒がしい」
オルトリンデたちは、黙って聞いた。
「それなりの実力を持った冒険者たちが相次いで襲われ重傷を負い、遺跡荒らしが頻繁に起こっている」
「あ?……遺跡荒らしだ?」
「そうだ。その地図にも書かれているが、我々が探しているのはまだ発見されていないダンジョンに、ダンジョン内にあるレア装備だ。何度か遺跡調査を行っているが、そこで似たような報告がいくつも入ってる」
「……なるほど、そういうことですのね」
「ああ。銀色の髪と赤い瞳の少女が、遺跡内を捜索していると情報が入ってくる。声を掛けようとしても無視され、人間とは思えない速度で去って行ったそうだ」
オルトリンデは、ヴァルトラウテに短距離通信をする。
『アルヴィートか?』
『……恐らく。ブリュンヒルデちゃんやジークルーネちゃんはあり得ませんし、レギンちゃんの可能性もありますけど、あの子が遺跡荒らしなんてするわけありませんわ』
『だな。あのお調子者ならそうだな』
『だとしたら、オストローデ王国に『ココロSYSTEM』を書き換えられてるアルヴィートちゃんしかいません。目的は……』
『ああ、間違いねぇ……アルヴィートの狙いは【
『ええ……でも、チャンスですわ』
『ああ。あのバカ妹の頭ぶっ叩いて、正気に戻すチャンスってワケだ』
『そんな簡単にはいきませんわ。そうですわね……一度行動不能にして、粒子分解して亜空間に収納、センセイの能力でSYSTEMを書き換えれば……』
『……それしかねぇな』
オルトリンデとヴァルトラウテは、うなずき合う。
マリアンヌの話は続いていた。
「恐らく、遺跡調査をすれば出会えるだろう。もし会うことがあったら、これ以上クランの活動を邪魔しないように伝えてくれ」
「ああ、わかった……たぶん、アタシらの身内だ」
「そうか……」
マリアンヌは振り返る。
逆光を浴び、表情はよく見えない。
「では、冒険者たちが襲われるという事態に、心当たりはないか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
謎の二人組が、冒険者を襲撃しているらしい。
理由は不明。
突然現れては冒険者に戦いを挑み、圧倒的な強さでねじ伏せ、去っていく。
冒険者からの問いかけには一切応じず、冒険者たちが泣いても叫んでも慈悲を与えずトドメを刺していく。
「それだけじゃない。冒険者の襲撃以外に、原因不明のモンスター集団の壊滅なども報告が上がってる。何か心当たりはないか?」
「······知らねーな」
「わたくしもですわ」
「うっす······」
「そんなことが······」
エレオノールやライオットは心当たりすらない。
なので、知らぬ存ぜぬを通すことにした。そもそも、アルヴィートが行ったという証拠がない。
マリアンヌは目を細め、ゆっくり閉じる。
「······そうか、わかった。私の話は以上だ。ここで会ったのも何かの縁、食事でもどうだ?」
「ワリーな。アタシらにはやることが山ほどある。ここで失礼させてもらうぜ」
「お心遣い、ありがとうございます。お食事はまたの機会に」
「そうか。では再び転移でヴァンピーア領土へ送らせよう」
マリアンヌが手を叩くと、外に待機していたミリアが入ってきた。
「ではこちらへ。ヴァンピーア領土へお送りします」
「頼む」
ミリアの後に続き、オルトリンデたちが退室しようとした。
「······また会おう」
マリアンヌの呟きが、なぜか印象に残った。
◇◇◇◇◇◇
転移魔法陣で再びヴァンピーア領土へ戻ってきた。
もちろん、場所はコモリの町。女神の剣のサブクランホーム。
「改めて、いい取引ができました。ありがとうございます」
「いい。アタシらにとっても悪い話じゃなかったからな」
「ありがとうございます。もし、これからもレア装備を手に入れる機会がありましたら、ぜひ女神の剣をお尋ね下さい」
「へ、ちゃっかりしてやがる」
ミリアと別れ、オルトリンデたちは居住車へ戻ってきた。
ソファに腰掛け、地図を広げ、これからの方針を話す。
「ほぉ、確かにこりゃスゲえな」
「ええ。わたくしたちの知らない地名や場所の名前まで明記されていますわね」
「うっす。これなら調査も楽っす!」
「じゃあ、ダンジョンは終わり、ですね」
少し残念そうなエレオノールを慰めるように、ヴァルトラウテが言った。
「エレオノールちゃん。またいつかここに来ましょう。それに、ダンジョンはここだけじゃありませんわ」
「······はい。ありがとうございます」
『きゅっぴー!』
エレオノールはピーちゃんを抱きしめ、嬉しそうに微笑んだ。
「よし、さっそく出発だ。ヴァンピーア領土中の遺跡を調査してやるぜ」
「ええ。遺跡荒らしも気になりますが······お姉さま」
「そんときゃ叩き潰せばいいだけだ」
「さっすが姐さん!」
「あ、あはは······」
オルトリンデたちは、大事なことを見落としていた。
それに気がつくのは、もうしばらくあとの話。
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