第153話、進路設定

 オルトリンデは、今の光景を見て一つの結論を出した。

 

「チート能力か」

「そうみたいですわね」


 二人は、特に驚いていない。 

 それに、二人のボディを修復したのもチート能力だし、セージのパーティーメンバーは殆ど能力者だ。

 オルトリンデは、申し訳なさそうにしてる女の子に近付いた。

 

「助かったぜ、さんきゅーな」

「い、いえ、その······よかったです」

「おう」


 そして、自分より小さな少女の頭を撫でようと手を伸ばし······。


「だっ、ダメですっ!! お姉さんまで」

「ありがとな」

「えっ······」


 柔らかく、ポンポンと少女の頭を撫でた。

 精神や肉体に作用するチート能力は、アンドロイドに効かない。これはセルケティヘトが実証済みであり、データとしてオルトリンデたちは知っている。

 

「お姉さま、地図を手に入れましたわ。騒ぎが大きくなる前に、ギルドから出ましょう」

「そうだな。じゃあな」

「ごきげんよう」

「えっ、あ、あの」


 ヴァルトラウテは、いつの間にか地図を手に入れていた。

 倒れていた男の一人から地図をもらい、変わりに一枚の金貨が頭の上に乗せられていた。

 地図を持ち、ライオットの待つ居住車へ。すると、タンクトップハゲのライオットは、何故か子供たちに囲まれていた。


「おっちゃんすっげー力持ちだな!!」

「ねぇねぇ重くないの?」「すごい硬いー」

「ははは、自分の硬さはすごいっすよー? それにパワーも!!」


 ライオットは、自分にじゃれつく3人の子供を肩車し、両腕に座らせる。すると子供たちはキャッキャッと騒ぎ出した。


「すっげーっ!!」「たかーいっ!!」「おぉぉーっ!!」

「はっはっはっは」


 それを見たオルトリンデとヴァルトラウテは苦笑する。


「あれが拠点防衛・鎮圧兵器の『ティターン・Type-LUKEルーク』とはなぁ……」

「ふふ、いいことではありませんか」

「だな」


 オルトリンデとヴァルトラウテが戻ると、ライオットは子供たちを降ろす。

 そして、1人1人の頭を優しく撫でた。


「じゃ、気をつけ遊ぶっすよ」

「うん!!」「ありがとおっちゃん」「またねー」


 子供たちは走って行った。

 ライオットは、姿が見えなくなるまで見送ると、オルトリンデとヴァルトラウテに頭を下げる。


「うっす。お疲れっす!!」

「おう。さーて中でデータ整理とこれからの行き先を決めるぞ」

「ええ……ふふ」


 オルトリンデはライオットの頭を軽く叩き、ヴァルトラウテはくすりと微笑んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 居住車の中は、4人掛けのソファーとテーブル、簡易キッチン、2段ベッドが3つある。

 最も、アンドロイドに睡眠は必要ない。ベッドは使用した形跡がなく、ソファーとテーブルだけ使っていた。

 テーブルに地図を広げ、3人はデータ入力する。


「やっぱ昔とだいぶ地形変わってるな……こんなことなら、こっちの領土も探索しておくべきだったぜ」

「ですわね。フォーヴとディザード、マジカライズとユグドラシルだけを放浪してましたから……」

「ま、こんなことになるなんて思ってなかったからな。あん時は壊れるのを待つだけだったし……今のアタシ達は、やるべきことがわんさとありやがる」

「そうですわ。まずは……」

「ああ。レギンレイブの捜索だ」


 ヴァルトラウテは、地図にいくつかマーキングをした。


「現在の地図と、わたくしの中にある過去の地図データを照合……人類軍のナノポッド施設があった場所をマーキングしましたわ。データが破損してるので詳しい施設名まではわかりませんが……お姉さま、ご指摘があれば」

「……ねーな。アタシのデータ通りだ。おいライオット、オメーはどうだ?」

「……うっす。申し訳ないっす……自分、戦闘データ以外はほとんどインプットされてないっす」

「だろーな。悪い」


 オルトリンデは、ライオットの頭を優しく撫でた。

 キュッキュッと、ガラス板みたいなツヤがあった。


「よし………手当たり次第に当たるぞ。まずはここから近い場所からだ」

「はい、お姉さま」

「うっす、姐さん」


 オルトリンデたちがわかるのは、過去の地図データにあった人類軍の施設場所だけだ。もし地図データが完璧なら、施設の名称もわかり、レギンレイブがどこに運ばれたかもある程度推測できる。だがそれが出来ない以上、地道に1つずつ潰していくしかない。

 人間なら、そろそろ夕食の支度を始める時間帯だろうか。


「まずはここから南南西158キロにある場所に行く。ライオット、ボディに問題がなければ牽引を頼む」

「うっす!!」

「よし。深夜まで牽引を頼む。そこからはモーガンに牽引させて、その間に簡易メンテをする。ヴァルトラウテ、頼めるな」

「ええ。ジークルーネちゃんから『華』を一輪借りてきましたわ。あの子ほど上手くありませんが、お任せくださいな」


 ヴァルトラウテは、ジークルーネのメインウェポンである『乙女凜華ディアンケヒト・ユリウス』を一輪だけ借り受けていた。

 ナノマシン精製ユニットであり注入器の役割も果たす。一輪だけだとナノマシン精製に時間が掛かるが、メンテナンスが出来るだけでも大違いだ。 


「よし、出発だ」


 ヴァルトラウテは頷き、ライオットは「うっす!!」と返事をした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ライオットは牽引のために外に出た……が、出発できなかった。


「ん?……あの、どうしたんすか、お嬢ちゃん?」

「あ、あの……銀色のお姉さんたち、いますか?」

「姐さんとお嬢のことっすか? いるっすけど……」


 白い少女が、ペンギンのぬいぐるみを抱いてモジモジしていた。

 ライオットは首を傾げ、とりあえず居住車の窓を開ける。


「あの、姐さん」

「あん? どうした?」

「姐さんとお嬢に用事がある子供が来てるっすよ」

「はぁ?」

「……あら、あの子は先程の」


 ヴァルトラウテは、別の窓を開けて白い少女を見た。

 そして、少女が恐る恐る手をかざし、小さく呟いた。


「あの、ごめんなさい………『深く眠れヒュプノシス』」


 手をかざすが、オルトリンデ・ヴァルトラウテ・ライオットは首を傾げる。

 少女は手を下ろし……なぜか泣きそうな顔をした。


「効かない…………効かない、よぉ」

「あの、お嬢ちゃん? どうしたっすか?」

「ヴァルトラウテ、今の?」

「ええ、計測不能な『波』を感知しましたわ。どうやら……能力を使ったようですわね」


 少女は、泣き出しそうな笑顔だった。

 おろおろとするライオットに、オルトリンデは言う。


「ライオット、とりあえず……そいつ連れて来い」

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