第126話エルフのアシュマー

 エルフのアルシェが森に消えてから1日が経過した。

 その間、俺たちは誰も居ない静かな森で待機している。なんか淋しい。  

 居住車がなかったら大変だわ……とりあえず、食料や酒は山ほど積んであるから心配ない。スタリオンとスプマドールも馬具を外し、葉っぱをたくさん集めた草のベッドで休ませる。

 ブリュンヒルデとジークルーネが常に馬の傍にいるので安心だ。モンスターが出ても怖くない。

 それに、2頭はモンスターとの混血馬だ。体力はもちろん、抵抗力も普通の馬とは比べ物にならない。10日くらいなら飲まず食わずで走れるし、病気にも強い。だからと言って無理させる気なんて欠片も無いが。

 

 俺たちはというと、のんびり過ごしていた。

 食事に関しては外で調理する必要があるが、それ以外は基本室内だ。

 クトネは読書、ルーシアは武器の手入れ、ゼドさんは酒を飲み、俺も部屋でのんびり過ごす。

 ルーシアと訓練でもいいが、何が起こるかわからないから、体力は温存させておく。いきなり大量のエルフがここを包囲して、「我々と一緒に来てもらおうか」なんて言い出す可能性もゼロじゃない。

 1日くらいなら、のんびり過ごそう。

 部屋でのんびりしていると、ふと思い出す。


「……ごま吉たちの部屋、水やエサは大丈夫かな」


 ごま吉たちの部屋は、常にエサと水を常備している。

 朝・昼・晩とチェックしているが、そろそろお昼前だしな、チェックしておくか。

 俺は立ち上がり、ごま吉たちの部屋へ。


「ごま吉、みんな~っと………げ」

「んん………」


 部屋の中には、三日月がいた………素っ裸で。

 どうやら子猫モードで昼寝をしていたのか、裸でジュリエッタを抱きしめてる。

 今は子猫じゃなくて人間だ。変身が解けてる。

 チラリと餌入れを見るが、エサも水も少なくなっていた。


『もきゅーもきゅー』

「ん、はいはい。エサが欲しいんだな?」

『もきゅ』『にゃぁご』


 俺の足下にじゃれつくごま吉とネコたち。

 ジュリエッタも起きたのか、三日月の胸の中でモソモソ動く。


「ん、んん~………ふぁ、せんせ?」

「あーこらこら、そのまま動くな。子猫モードになれ」

「ん………あ、うん」


 三日月は素っ裸なのを思い出したのか、一瞬で子猫モードに。

 やれやれ。JKのおっぱいは貴重だが、三日月の胸は見ちゃいけない。

 

『せんせ、そろそろお昼』

「そうだな。部屋で着替えてこい」

『うん。ごま吉、ジュリエッタ、みんな、また後でね』

『もきゅう』『きゅう』『にゃご』


 三日月は、自分の部屋に戻った。

 俺もごま吉をひとなでして、餌入れを満タンにして新しい水を汲む。

 さて、次はみんなの食事だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。

 朝食を終えてのんびりしてると、エルフのアルシェが戻って来た·········たくさんのエルフを連れて。

 とりあえず、俺とゼドさん、護衛にブリュンヒルデとルーシアが外に出て対応する。クトネと三日月はごま吉たちと一緒に車内で待機だ。

 エルフの人数は10人。中にはアルシェもいる······けど、なんか俯いて元気がないな。

 ゼドさんが前に出る。


「ワシはエルダードワーフのゼファールド。精霊王オリジンの要請により、巌窟王ファヌーアの命を受けて参上した」


 うーん、ゼドさんが礼儀正しい。

 すると、エルフのリーダーらしき男性が前に出た。


「初めまして。私はユグドラシル王国護衛隊長アシュマー。ドワーフの技術者よ、歓迎しよう」

「感謝する。ではさっそく仕事の話をしたい。アルシェ嬢に頼んだ件だが、どうだろうか」

「············?」


 あれ、アシュマーさんが首を傾げる。

 そして、俺でもわかるような苛ついた目でアルシェを見た。


「何か伝え忘れが?」

「え、あ、その······あ、そうだ! ドワーフの技術者と、同行者の入国も許可して欲しい、って······ごめんなさい」

「············役立たずの忌み子め。伝令すらまともに出来ぬのか」

「······っ」


 な、なんか険悪な雰囲気だ。アルシェが完全に萎縮してる。

 というか、忌み子ってなんだろう?

 エルフの事情などお構いなしに、ゼドさんは続ける。


「で、構わねぇのか?」

「·········暫しお待ちを。風の伝令にて確認を取ります」


 アシュマーさんは耳を手を当てて口をパクパクさせる。これは俺でもわかった。口と耳に魔力が集中してる。たぶん通信魔術とかいうやつだ。

 そして、会話が終了したのかゼドさんに言う。


「我ら精霊王のお言葉を。入国はドワーフ1名、そのドワーフの従者1名のみ許可するそうです」

「わかった。ではワシとこのセージが入国する。仲間はここで待機させよう」

「はい。よろしければ、ユグドラシル王国手前にある広場をお使い下さい。そこならばモンスターも寄らず安全ですし、食事や飲水、補給物資などの手配もさせていただきます」

「そりゃありがてえ。ご相伴に預かるぜ」

「では、そこのエルフをご自由にお使い下さい。それではユグドラシル王国へご案内します」


 そこのエルフって、アルシェだよな。

 なんか扱いが雑だ。嫌われてるのかな。

 

 とにかく、ユグドラシル王国の入国は許可された。俺とゼドさんだけだがな。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ブリュンヒルデたちにあとを任せ、俺とゼドさんはエルフ集団と共に森の奥へ向かっていた。

 見渡す限り森、森、森······こんなところにエルフの国があるのかね。


「大したモンだ。これだけの規模の魔術障壁を保ちながら、隠蔽魔術も同時にかけてやがる。この規模なら普通の魔術師千人分の魔力が必要なはずだ」

「·········え?」

「おいおい、オメーも魔術師ならわかるだろう? これほど高密度の魔力······しかも、魔力で怪しまれないように、魔力そのものを隠蔽してやがるんだ。大した魔力制御······いや、技術だな」


 つまり、もうエルフの王国に入ってるらしい。

 魔力なんて感じな·············いや、感じる。

 なんかこう、超薄い蜘蛛の巣に触れたような、纏わりつくような感じ。

 すると、アシュマーさんが関心したように言う。


「素晴らしい。流石は伝説と呼ばれたドワーフの始祖であるエルダードワーフですね。ほんの僅かな隠蔽魔術の魔力を感知し、尚かつ魔術そのものの正体を見破るとは」

「魔術は専門外だがな。違和感を探っただけだ」

「これは期待できます。我らが王もお喜びになるでしょう」


 今、気が付いた。

 そういえばこのエルフたち、俺をちっとも見ようとしない。

 まるで空気みたいに扱ってる。現に、周りのエルフもアシュマーさんも、一度も俺に話しかけてないし、挨拶もしてない。

 なんか、ちょっと感じ悪いな。

 そして、少し開けた場所に到着した。


「ここが王国入口です」


 そう言って、アシュマーさんは掌を突き出す……すると、空間に波紋が広がった。


「な、なんだ……?」

「空間に入口を作ってんだ。つうかオメー、魔術師のくせに知らねーのかよ?」

「い、いや、そこまで詳しくは……クトネなら知ってると思いますけど」


 うーむ、ゼドさんに呆れられてしまった。

 でも知らないモノは知らない。というか俺にとって魔術は攻撃手段だからな。深く知ることでもない。


「……これだから人間は。得体の知れない能力に頼ろうとする」

「え?」

「さぁ、どうぞこちらへ。王国内を案内します」


 アシュマーさんが何かを言った気がした……気のせいかな?

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