第123話スティンガー・Type-BISHOP/セルケティヘト

 ユグドラシル領土・薄緑の森。

 キツネ目の女性セルケティヘトと、タンクトップの男ライオットは、森を歩くのに適さない格好でのんびりと歩いていた。

 森の中は涼しく、程よい日差しがとても気持ちいい。


「なんや、辛気くさい森やなぁ……なぁライオット」

「………」


 セルケティヘトは、興味なさそうに顔を歪める。

 人間らしくあり、そうでないともいえる。

 2人が目指す目的の物は、この近くにあるはずだ。

 セルケティヘトは耳に手を当てると、おもむろに話し始めた。


「あーもしもし? 聞こえとります?」

『………なに?』

「お願いしていた情報、見つけました?」

『まだよ。どうもセンセイとやらの周りに、強力な磁場が発生してる………位置の特定にしばらくかかるわ』

「ふぅむ……やはり、code06ですか」

『恐らくね。Type-HYDERの件で、アタシたちアンドロイドが敵だってイヤでもわかったでしょ。アタシらに覗き見されないような対策を取るのが当たり前よ』

「そりゃそうやなぁ……でも、あんさんならできるんやろ?」

『ま、時間があれば。でも、位置を特定してもすぐにバレる。旧式の戦乙女型でも、code06の情報処理能力はすごいからね』

「ほうほう。『Osutorode(オストローデ)シリーズ』最高の情報処理能力を持つ『Type-PAWN(ポーン)』アリアドネちゃんが、そこまで褒めるとは……」

『事実を言っただけ。それより、アンタと話してるとアシュクロフトに睨まれる。位置を特定したら教えるから、アンタはアンタの仕事しな』

「はいはい、ではまた」


 通信が切れる。

 セルケティヘトは、鼻を鳴らす。


「役立たずが……索敵探知しかできねぇ無能の癖に、それすらできねぇカス。使えねぇ使えねぇ」

「………」

「っと、ふぅ………さ、いくでライオット。目的のブツはすぐそこやで」

「………」


 2人は、森を進んでいく。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

  

 目的地までまだまだ遠い。

 ふと、セルケティヘトは何かが近付いてくるのに気が付いた。


「ん……ああ、どうやら冒険者やなぁ」


 ビッグバイソンという凶暴な牛が引く大きな居住車が近付いてきた。

 居住車は、セルケティヘトとライオットの傍まで来ると止まる。

 そして、御者席に座る大柄な熊の獣人が、セルケティヘトに質問した。


「おう姉ちゃん、こんな何もねぇ森に何の用だ?」

「……その言葉、そっくりお返ししますわ」

「へっ、言うじゃねぇか。大方、エルフの遺跡に眠るお宝狙いだろ? へへへ、悪いがそいつはオレらのモンだ。悪い事は言わねぇ。引き返しな」

「………」


 セルケティヘトは、獣人を無視して歩き出した。

 もちろん、森の奥へ。

 すると、クマ獣人はいきなりキレた。


「おい姉ちゃん、オレの話を聞いてたのか!? それとも、まさかエルフのお宝の在処を知ってんのか?」

「………やかましいなぁ、さっさと失せや」

「オイ、待てや!」


 居住車が走り出し、セルケティヘトとライオットの進路を塞ぐ。

 御者のクマ獣人が降り、仲間らしき冒険者の獣人も続々と降りて、セルケティヘトとライオットを囲む。


「オメー、エルフのお宝について何か知ってるな……? くっくく、そいつを吐けば通してやる。ただし、通す方向は帰り道だがな」

「………はぁ?」

「姉ちゃん、悪い事は言わねぇ、知ってること吐きな。目撃者もいねぇ森の中、オメーらをここで埋めることも出来るんだぜ?」

「…………」


 セルケティヘトのキツネ目が、うっすらと開かれた。

 薄く嗤い、空気のように佇んでいる男に声をかける。


「ライオット、任せたで」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 バラバラに砕け散った居住車、身体を真っ二つにされ絶命したビッグバイソン、同じように引き裂かれ臓物を撒き散らして死んだクマ獣人。そして、その仲間たち。

 血と臓物の匂いが充満した森の一角で、セルケティヘトとライオットは返り血1つ浴びずにいた。

 もちろん、この光景を作り出したのはライオットだ。

 居住車には守護獣の守りがあるが、ライオットの力はそれすら容易く粉砕した。


「やーれやれ……余計な時間食ったわ。さっさと行こ」

「………」


 セルケティヘトのレーダーには、目的のブツの位置を正確に示している。

 あと数時間も行けば会えるだろう。


「ライオット、いくで」

「…………」

「ん、どした?」

「…………」

「ああもう、少しは喋れや」

「…………」


 セルケティヘトは、諦めて歩き出す。

 するとライオットは、ピッタリ後を付いてきた。

 やれやれと、セルケティヘトは苦笑した。

 それから間もなくして、2人は目標ブツの近くまで来た。

 

「くふふ、ここからはウチの出番や……」


 セルケティヘトの腰付近から伸びる、サソリのような尻尾。

 先端が針のように尖っている。刺されれば間違いなく死ぬであろう。

 だが、刺さるだけではない。

 殺すだけが、セルケティヘトの能力ではない。


「さぁ……いくで、ライオット」


 2人の目的は、セージの始末なのだ。

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