第121話エルフ料理

 エンタープライズ号に戻ると、居住車広場に併設された厩舎で、ブリュンヒルデとジークルーネは馬の世話をしていた。

 ブリュンヒルデがスタリオンの蹄に汚れを取り除き、ジークルーネはマッサージを兼ねたブラッシングを丁寧に行ってる。スタリオンも気持ちいいのか、トロンとした表情をしている。

 俺とゼドさんに気付いたブリュンヒルデが作業を中断しようとしたが、俺は手で制した。出迎えのためにスタリオンの至福の時間を邪魔したくない。

 

「留守番お疲れ、何か変化はあったか?」

「特に何も。お客さんも来なかったし、久し振りにみっちりマッサージしたら2頭とも喜んでたよ!」

『2頭とも健康体です』


 うんうん。この2頭は俺たちの誰よりも働いてるからな。新鮮なニンジンをいっぱい仕入れておこう。

 ブリュンヒルデたちはまだ作業するというので、エンタープライズ号の中に入る。


「あ、おかえりでーす」

『もきゅ~』『うなーご』

「ただいま……って、だらけてるなー」


 クトネは、カーペットの上に土足厳禁のカーペットを敷き、クッションを枕代わりにしてうつぶせに寝そべっていた。背中にはシリカが香箱座りでのんびりし、クトネに寄り添うようにごま吉がキューキュー鳴いてる。

 山積みの本を見る辺り、読書していたのだろう。


「お前な……だらけすぎだろ」

「たまにはいいじゃないですかー、久し振りの町ですし-」

「あのな……まぁいいや」


 少し酒が残ってるのかフラつく。俺はソファに座り、もたれかかった。

 すると、ゼドさんが俺に言う。


「ワシは冒険者ギルドで依頼を受けてくる。それと、ついでにクラン登録もな」

「あ……素材のですか?」

「ああ。早めに準備したいからな、早けりゃ明日には出発するぞ」

「……はい」

「ったく、ドワーフの火酒1杯でこうなるとは、情けねぇぞセージ」

「ははは……ありゃ無理ですよ」


 ゼドさんは笑いながら出て行った。

 もしかしたら、俺をここまで送ってくれたのだろうか。無骨な優しさが感じられた。

 すると、ごま吉が俺の足下に来て、クトネが水を持って来てくれた。


「なーんか酒臭いですよ。それに依頼って、何があったんです?」

『もきゅ?』

「そうだな、説明するよ」


 クトネから水をもらって一気飲みし、ごま吉を抱き上げた。

 うーん柔らかい。でもちょっと重い。皮下脂肪すげぇな。


 ごま吉をモフモフしながら、クトネに事情を説明した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『もきゅ~』『うにゃ』

「………ん」


 ふと、目が覚めた……ああ、寝てたようだ。

 太股に重さを感じ、見てみると三日月とごま吉が乗っていた。

 子猫モードの三日月を抱き上げる。


『せんせ、おはよ』

「ああ、帰ってたのか……」

『うん。みんな帰ってきたよ。もうすぐ夕方』

「そっか……ん、んん~……はぁ」

『せんせ、よく寝てた。クトネから話を聞いたけど、大変だったね』

「あはは、そうだな。今日は酒飲まないでおくよ」


 すると、2階からルーシアとクトネが降りてきた。


「起きたか、セージ。そろそろ夕食に行こうと話していたんだが、大丈夫か?」

「ああ、というか腹減ったよ」

「んふふ、セージさんセージさん、話し合いの結果、今日はユグドラシル区画のエルフ料理を食べに行くことになりました!」

「エルフ料理? なんか美味そうだな」

「ブリュンヒルデとジークルーネも戻ってる。ゼド殿はエンタープライズ号のメンテナンス作業をしてるが間もなく終わる。みんなで食事に行こう」

「そうだな。その前に、ごま吉やネコたちのメシは……」

『もう食べたよ。みんなお腹減ってたみたい』

「シオン、お前も服を着てこい」

『はーい』


 三日月は俺の太股から降りると、2階へ上っていった。

 ごま吉も眠いのか、ソファの上でスヤスヤ眠り始める。


 みんな揃ったら、エルフ料理を食べに行くか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ユグドラシル区画は、エルフが多かった。

 住人もエルフ、店もエルフ。やっぱりエルフは美男美女が多かった。

 そんな中、俺たちがやって来たのはエルフ料理専門店。

 だが、心折れそうな光景が広がっていた。


「………セージさんセージさん」

「言うな………」


 俺とクトネは、顔を青くしていた。

 何故なら、エルフ料理は昆虫がメインだったのである。


「なんだオメーら、食わねぇのか?」

「せんせ、このコオロギと薬草の炒め物おいしいよ」

「うむ、このイモムシの串焼きもなかなかだな」


 ゼドさん、三日月、ルーシアはフツーに食べてた。

 コオロギを香草と一緒に炒め、コオロギのプチプチした食感と香草の香りを楽しむ炒め物や、どう見ても普通のイモムシを串に刺してタレを付けて焼いた物などが食卓に並んでいる。

 ゼドさんはともかく、三日月やルーシアが普通に食べてるのに驚いた。


「わたし、別に気にならないよ?」

「私もだ。騎士団のサバイバル演習で昆虫や薬草は貴重な栄養源として食していた」

「かっかっか。このイモムシはエールとよく合いやがる」


 ごめん、俺には無理だ。

 ブリュンヒルデとジークルーネもフツーに食べてるし、俺の味方はクトネだけだ。

 でも腹が減った。食えそうな物を探す。


「………お、これは」

「ん、そりゃ蛇の丸焼きだな。ちと複雑だがウメぇぞ」


 確かに、機械の蛇に襲撃されたからな。

 見た目は白い肉。タレをかけて焼いたのか、香ばしくいい香りがする。

 俺は串に刺さった蛇の丸焼きを取り、思い切って齧る。


「……………うまい」

「ま、マジですかセージさん? あ、あたしも」


 うん、普通に美味い。

 どんな調理をしたのか、ハラハラほぐれやがる。肉というか魚に近いかも。

 淡泊でおいしい……こりゃ大当たりだ。


「わ、おいしいです」

「だな。これなら俺たちでも食えるぞ」


 俺たちは、エルフ料理を満喫した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 エンタープライズ号に戻り、明日の話をした。


「ワシとセージは素材狩りに行く。オメーらはどうする?」


 ゼドさんの広げた依頼書には、ダイノカリブーとワイルドプラント討伐の依頼が書かれていた。

 ダイノカリブーはユグドラシル領土、ワイルドプラントはラミュロス領土に出現するB級モンスターらしい。B級って何気にヤバくね?

 俺の心の声を代弁したのはルーシアだった。


「B級か······これは全員で受けるべきだろう」

「いんや、ワシとセージだけでいい。討伐はあくまでついで、目的は素材だからな。痛めないように始末してぇから、討伐はワシ1人でやる。セージは援護だけでいい」

「え、で、でも〜、B級ですよー?」

「問題ねぇ。ワイルドプラントとダイノカリブーはソロで何度も狩ってる」


 と、言うことだ。

 頼りになりすぎだろゼドさん。

 

「そこまで言うなら任せよう。私もいくつか気になる依頼を見つけてな、皆に相談しようと思っていたところだ」

「ルーシアさん、どんな依頼ですか?」

「ゼド殿と似たようなものだ。モンスター討伐なのだが、私も援護があると嬉しい。クトネの助けがあれば頼もしいのだが」

「ふむふむ。あたしは別にいいですよー」


 クトネとルーシアはモンスター討伐の依頼。

 残りの予定は?

 

「わたし、ネコたちが情報持ってくるの待ってるね」

「じゃあ三日月は留守番か。ブリュンヒルデとジークルーネは?」

『特に予定はありません』

「わたしも。あ、じゃあネコちゃんやごま吉と遊ぼっかな〜」

「そうだね、みんなで遊ぼう!」

「もちろん、お姉ちゃんもね」

『わかりました』


 三日月たちは留守番、そしてネコとごま吉の世話。

 よし、これで全員の予定が決まったな。

 さて、明日も忙しくなりそうだ。


「うし、ワシはもう少し飲ませてもらおう。ルーシア、付き合うか?」

「そうだな、では少しだけ」

「ゼドさん、ルーシアにもアレを飲ませてやって下さいよ」

「ドワーフの火酒か? やめとけやめとけ、オメーを見てわかったが、ありゃ人間が呑めるモンじゃねえぞ」

「·········面白い、ゼド殿、私にもドワーフの火酒を」

「おいおい、知らねぇぞ?」


 結果、ルーシアは酒を吹き出しぶっ倒れたとさ。

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