第110話BOSS・Type―HYDER①/食事の時間

 町はとんでもない騒ぎだった。

 空から降り注いだ鉄の棒が建物を破壊し、住人を押し潰した。

 それだけじゃない。降り注いだ鉄の棒が『鉄のヘビ』に変形し、逃げ惑う住人たちの喉に食らいつき始めたのである。しかも、老若男女関係なしにである。 

 この事態に、町のドワーフと冒険者は立ち上がった。

 武器を持ち、鉄のヘビに向かっていく。だが、普通の剣では傷1つ付けられない。しかも数がハンパじゃない。1000や2000、3000や4000……数えるのも馬鹿らしくなるくらい、鉄の棒は今もなお降り続いてる。  

 そんな中、エンタープライズ号を守るように、ルーシアたちは立ち回っていた。


「シオン! お前は後部を頼む、私は前部を守る!」

「わかった!」

「クトネ、お前は馬を守ることだけを考えろ! とにかく守れ!」

「わわ、わっかりましたぁ!」


 鉄の棒はヘビに変形し、エンタープライズ号を囲んでいた。

 ルーシアは剣を抜き、ポツリと呟く。


「まさか、こんなに早く試し斬りの機会が来るとはな……」


 三日月の戦闘結果から、このヘビの弱点は関節部。

 胴体と頭を切り離せば死ぬ。いや、機能停止する。

 三日月がエンタープライズ号の後部に移動したのを確認し、ルーシアは叫んだ。


「行くぞ!」

「シャァァァァッ!!」

「よーし、あたしだって!」


 エンタープライズ号と馬を守る戦いが始まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ハイドラ?

 なんだそれ······まさか、オストローデ王国の? オストローデ王国刺客のアンドロイド?


「お前、まさかアンドロイドなのか······」

「お、お兄ちゃんのデータはっけん〜♪ ふむふむ、抹殺対象の一人、センセイだね! おいしいご飯みっ〜っけ♪」


 ハイドラは俺を見て両手の指をワキワキさせる。

 今コイツ抹殺対象とか言ったよな? 


「センセイっ!! 危ないっ!!」

「ッ!?」


 ジークルーネが俺の前に割り込み、12輪の花『乙女凛花ディアンケヒト・ユリウス』を展開し盾のように前方へ。

 だが、花は一瞬で散り、ジークルーネが吹き飛ばされた。

 恐ろしい速度で壁に激突したジークルーネ。


「じ、ジークルーネ······?」

「センセイ、ここから退避を! 姿形こそ違いますが、これは『拠点制圧兵器UROBOROS(ウロボロス)』です!」


 ジークルーネは痛みを感じてない。

 めり込んだ壁から抜け出したジークルーネたが、左腕がメチャクチャに破壊され機械部分が露出、バチバチと放電していた。

 そして、俺はハイドラが何をしたのか理解した。


「ん〜ん〜? データ確認、データ確認。おっお〜、そこのカワイコちゃんはcode06、そして美少女ちゃんはcode04! 最重要危険人物リストに載ってる『戦乙女型』じゃあ〜りませんか〜♪」


 ハイドラの両手が、変わっていた。

 両手指の第一関節がポキっと折れ、指の断面から細いワイヤーのような物が伸びている。師もワイヤーの先端部が蛇のような頭をしていた。

 合計10本のワイヤーは意思を持つかのようにニョロニョロ動き、まるで本物の蛇を思わせる。


「センセ、センセ! センセのお命もらいま〜す♪」


 ハイドラは、右手の人差し指を立てて突き出した。

 『指蛇鞭』とでも呼べばいいのか。まっすぐ俺の顔面を狙って飛んでくる。

 まずい、こんな明確に命を狙われるなんて思ってなかった。剣も抜いてない、銃も構えてない、ジークルーネが吹き飛ばされて完全に呆けていた。

 ヤバい。


『······』


 だが、ブリュンヒルデが俺の真横から手を突き出し、指蛇鞭を掴み取った。

 

「おほっ? code04ちゃん、むふふ強い強いねぇ?」

『·········』

「でもでも、キミじゃボクちんには勝てないよん♪ オイラのボディはキミたちのキャワいい妹ちゃん、『Type-VALKYRIE(ヴァルキュリア)』のアルちゃんデータで大幅パワーアップしてるのだ!」

『·········』

「ぷっぷぺぽ♪ ねぇどんな気持ち? どんな気持ち? きゃわわな妹ちゃんをヤられて、ヤられて、ヤられて? ねぇどんな気持ち♪?」


 な、なんだコイツ······頭おかしいぞ。

 支離滅裂、一人称もはっきりしない。そもそも何しにここに来たんだ。狙いは俺たちなのか? 食事がどうこう言ってたし。

 とにかく、コイツは敵だ!


「あ、お土産いっぱいあるから、みんなで食べてね! 外にいる『拠点制圧兵器UROBOROS(ウロボロス)』ちゃんのきゃわわな子供『サイドワインダー』ちゃん! 数は······いっぱい!」


 すると、再び上空から鉄の棒が雨のように降り注ぎ、謁見の間だけじゃなく王宮全体をメチャクチャに破壊した。

 ハイドラは、楽しそうに笑ってる。


「おっぽぽぽーっ! じゃあcode04ちゃん、そろそろ」


 ブリュンヒルデは、指蛇鞭を掴んだまま言った。

 それは、俺にもはっきりわかった。


「黙りなさい、不快です」


 まるで、人間のようにブリュンヒルデは感情を顕にした。

 掴んだ指蛇鞭を思い切り引っ張り、ハイドラの体勢が崩れる。

 そして、ハイドラの目の前に一瞬で現れたヴィングスコルニルが、とてつもない脚力の後ろ足で、ハイドラを思い切り蹴り飛ばした。


「ぽげーーーーーっ!?」


 マヌケな悪役みたいにハイドラは壁を突き破り、大空へ消えていった。

 ブリュンヒルデは、エクスカリヴァーンを顕現させる。


『センセイ、私には姉妹喧嘩は不可能です』

「·········え?」

『ジークルーネがやられ、code07が弄ばれてると知った瞬間、私の中で理解不明なデータの波がヴァルキリーハーツから発生、対処まで時間が掛かり行動が遅れました。データベースと照合した結果、これは《怒り》と判明』

「ブリュンヒルデ、お前······」


 ブリュンヒルデは、姉妹を傷付けられて怒っていた。

 こんな状況なのに、俺は顔が綻ぶのを止められなかった。

 この子は、ちゃんと感情のある人間だ。


「ブリュンヒルデ、お前はどうしたい?」

『私は、あのアンドロイドを破壊したいです』

「······だな、よし」


 ここまで話すと、ハイドラの置き土産である鉄の棒が、蛇に変形した。

 俺は右手でキルストレガを抜き、左手にビームフェイズガンを持つ。

 

「ここは俺に任せろ。ブリュンヒルデ」

『·········』

「お前は、あのアンドロイドを······ぶっ壊してこい!」

『はい、センセイ』


 ブリュンヒルデはエクスカリヴァーンを着装すると、ブースターを噴射させて天井の穴から飛んで行った。ヴィングスコルニルは俺のために置いていくようだ。


「センセイ、お姉ちゃんは······」

「······お姉ちゃんは、可愛い妹のために飛び出して行ったぞ」

「······」


 俺はジークルーネの頭に手を乗せ、『修理(リペア)』を発動させる。するとジークルーネの腕は綺麗に修復された。パーツも揃ってるし、レベル1のリペアで直ったようだ。


「ジークルーネ、まずはここを切り抜けるぞ」

「はい、センセイ!」


 ワラワラと、鉄の蛇『サイドワインダー』が俺たちに向かって来た。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ファヌーア王は混乱していた。

 突如現れた奇妙な男、そして降り注ぐ鉄の棒、そして変形した鉄の蛇。

 奇妙な男の指先が鉄の鞭になったかと思えば、セージとかいう冴えない男を少女が守り、壁に叩きつけられた。しかも、少女の腕は人間の腕でなく、バチバチ放電し鉄のような部品が見えていた。

 極めつけは、目の前に現れた鉄の馬だ。

 

「なにがどうなっちょる······」

「おうファヌーア、戦え!!」

「っ!?」


 ファヌーアは鉄の蛇を掴み、頭と胴体を引き千切った兄ゼファールドの怒号にビクッと跳ねた。

 ファヌーアの目前に、喉を食い破ろうとしてる鉄の蛇サイドワインダーが迫り来る。


「こんの、ドワーフナメんじゃねえ!!」


 飛び掛かるサイドワインダーを躱し、尻尾を掴んで床に叩きつけた。だが、サイドワインダーは無傷で、再びファヌーア向けて飛び掛かる。


「なっ、この!!」

「このバカたれがぁっ!!」

「むぉっ!?」


 なんと、ゼファールドがファヌーアを庇った。

 ファヌーアを突き飛ばし、サイドワインダーの噛み付きを腕で受けた。


「あ、兄貴!!」

「よく見ろファヌーア、こいつの身体はとてつもなく硬え金属でできてやがる。衝撃はほぼ無効化すると考えてええ。つまり、弱えのは関節部分だ、こうしてっ!!」


 ゼファールドは、腕に食らいついたサイドワインダーの頭を掴み強引に引き剥がす。そして頭と尻尾を掴んでそのまま引き千切った。人間には真似できない、ドワーフのパワーあってこその対処法といえる。


「胴と頭を引き千切れ。これで死ぬ」

「·········お、ぉぉ」

「ボサっとしてんじゃねえ!! 空からこの鉄の蛇が降ってるっつぅことは、街中に降り注いでるに決まってんだろうが!! 動けるドワーフかき集めて対処させろ!!」

「お!? おおっ!!」

  

 ファヌーアは、ここでようやく周りを見る余裕ができた。

 ゼファールド、そしてゼファールドが連れて来たセージと、人間とは思えない銀髪の少女はすでに戦いを始めてる。

 そして、城の戦闘員であるドワーフも、いつの間にか謁見の間に来て戦っていた。

 ファヌーアは戦っているドワーフに向けて叫ぶ。

 

「オメーら聞いたな!! 頭と胴を切り離せ!! ここはワシが受け持つから、町で戦ってるドワーフや冒険者に対処法を伝えろ!!」

「「「「「おうっ!!」」」」」


 戦闘員ドワーフはドワーフ流の敬礼をして出て行った。

 ファヌーアは、コキコキ首を鳴らす。

 

「ここにはドワーフが守り継いで来た遺跡があるんだ······ここを守るのは王であるワシの役目よ」

「ふん、付き合ってやるよファヌーア、オメーとの殴り合いはまた後でだ」

「いいぜ、久しぶりに暴れようじゃねーか、クソ兄貴」


 二人は迫り来るサイドワインダーを素手で掴み、首と胴体を引き千切った。

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