第96話ジークルーネと一緒

 町の中心に来ると、やはり賑わいが違う。

 冒険者パーティーがマップを広げ、商人や露天商が店を開き、住人らしき子供がサッカーみたいな玉蹴りをして遊んでいる。

 すると、見知った建物が目に付く。 

 

「冒険者ギルドかぁ······どこにでもあるんだなぁ」

 

 煉瓦の建物で、冒険者ギルドのマークが彫られた看板が立っている。  

 考え事をしてたせいか娼館に行く気分じゃない。

 どうせヒマだし覗いてみようとドアを開け、依頼掲示板を覗き込む。


「············お、遺跡調査?」


 依頼書の一つに遺跡調査があった。

 俺は羊皮紙を確認する。


***************

【依頼内容】 G級 

○ドルの町近郊にある遺跡調査。

○調査員の同行、護衛


【報酬】

○銀貨2枚。


【達成条件】

○調査完了までの護衛。

****************


 なるほど、調査員の同行か。

 依頼難易度はG級。そんなに危険もないのかね。

 1日で終わる依頼なら受けてもいいかな。遺跡も気になるし小遣い稼ぎにもなる。それに、もしかしたらまた面白いアイテムや戦乙女型が見つかるかも。

 

 帰ったら、みんなに相談してみるか。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夕方。買い物を終えた女性陣が帰ってきた。

 みんな両手に買い物袋を下げてホクホク顔だ。いい感じにリフレッシュできたようで何よりだな。

 宿の食堂で夕食を終え、俺は大部屋に向かい、昼間にギルドで見た依頼のことを話した。


「······ってことで、明日その依頼を受けようと思うんだけど、いいかな?」

「遺跡調査ですか。しかもG級の個別依頼······まぁ、いいと思いますよ。セージさん一人で受けるんですか?」

「それもいいけど、まぁ一人くらい連れて行きたいな」


 すると、ブリュンヒルデが俺を見て言った。


『センセイ、私が同行します』

「ブリュンヒルデ······う〜ん」

 

 俺は三日月をチラリと見る。

 できれば、ブリュンヒルデには遊んでいてもらいたい。俺に付いてくるんじゃいつもと変わらないからな。

 すると、ジークルーネが手を上げた。


「わたしが同行します。索敵探知機能なら、お姉ちゃんよりわたしのが優秀だからね!」 

「······うん、そうだな。じゃあジークルーネに頼むか」

「はい、センセイ!」

『·········』


 というわけで、俺とジークルーネは遺跡調査へ。

 

「悪いなブリュンヒルデ。お前はみんなと町を楽しんでくれ」

『·········はい、センセイ』


 あれ、ブリュンヒルデがそっぽ向いた。

 首をかしげると、三日月がため息を吐く。


「はぁ······せんせ、ばか」

「え?」

「なんでもない。がんばってね」

「お? おう?」

 

 わけわからん。なんだよいったい?


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。ジークルーネと一緒にギルドへ向かい、遺跡調査の依頼を受けた。

 詳細な依頼書に、依頼人の家まで来るように書かれていたので、依頼書に記されていた地図を頼りに向かう。


「お、ここか」


 そこは、煉瓦造りの立派な建物だった。

 ドアは木製で、平屋の煉瓦造りだ。よく見ると周りは似たような建物ばかり、どうやらディザード領土ではこれが普通らしい。

 さっそくドアをノックする。


「こんにちはーっ、依頼を受けた冒険者ですけどーっ!」


 ドアをドンドン叩くと、家の中から何かが倒れるような音がした。

 驚いてジークルーネと顔を見合わせ、俺は再び、今度は力強くドアをノックする。


「こんにちはーっ! あのーっ、冒険者でーす!」


 何か起きたのかと不安になるが、ドアはすんなり開いた。

 そして、依頼主が頭をボリボリ掻きながら出てきた。


「いやいや悪りー悪りー、昼寝しててよ、慌てて起きたんで『|鉄人形(ゴーレム)』をひっくり返しちまった」

「そ、そうですか。大事に至らずよかったです」

「おう! まぁ入れや、依頼の説明すっからよ」

「お、おじゃまします」


 出てきたのは、ドワーフの男性だった。

 髭もじゃ、低身長、だけど筋骨隆々。ラノベとかで出てきそうなテンプレドワーフだ。

 家の中に案内され、凄く凝った装飾のカップに紅茶を淹れて出してくれた。


「オレはダイク。見ての通りドワーフだ」

「冒険者のセージとジークルーネです。今回、遺跡調査の護衛を務めさせていただきます」

「おう、よろしくな」


 荒っぽい口調だが悪い気はしない。むしろ、親しみを感じる。

 紅茶に口を付けると、これまた美味かった。


「依頼は遺跡調査、まぁ簡単に言うと遺跡の構造を調べてる間、周囲を警戒しててくれや」

「わかりました。モンスターはけっこう出るんですか?」

「いや、ほとんど出ねぇ。だがオレは一度集中すると周りの雑音がほとんど入らなくてな。過去に一度、遺跡で調査中にゴブリンの集団に囲まれたことがあるんだよ。あんときはたまたま近くに冒険者がいたから助けられたが、それ以来、遺跡調査には護衛を付けることにしてるのよ」

「なるほど。ダイクさんの職業って、鍛冶屋じゃないんですか?」

「ああ。オレは『建築』に特化したドワーフだからな。名前の通り大工ってわけよ。それと趣味は遺跡発掘さ」

「遺跡発掘?」

「おう。建築関係のドワーフはみーんな遺跡好きでよ、何気ないガラクタもオレらからすりゃお宝よ。そこの『|鉄人形(ゴーレム)』も遺跡の地面を掘り返して見つけたのさ」

「へぇ〜·········え」


 ダイクさんが誇らしげに壁を指さした。

 そして、俺は驚いた。


「な······た、た、『Type-JACK(ジャック)』!?」


 そこにあったのは、ボロボロのアンドロイドだった。

 量産型アンドロイドType-|JACK(ジャック)。以前見たことがある。


「センセイ、あれは完全に機能停止してます。どうやら、この町の近くにある遺跡は、アンドロイド軍側の工場かもしれませんね」

「·········」


 いやはや、驚いた。

 手抜きデザインみたいな胴体と手足、カメラレンズの目は砕け、足も片方ない。テディベアのように床に座っていた。

 自慢なのか、ダイクさんは語る。


「こいつはドワーフの間じゃ『|鉄人形(ゴーレム)』って呼ばれてる。大昔のドワーフが作り出した技術の結晶らしいが、どんなに頭のいい腕利きのドワーフが見ても、どういう技術で出来てんのか、動いてんのかサッパリみてぇだ」

「へ、へぇ〜·······」

「ま、オレは建築のドワーフだからあんま興味ねぇ。でもよ、オレが発見したゴーレムを渡す気はねぇ! ま、優越感だわな」

「はぁ······」

「話が逸れたな。まぁ要は護衛だ。オレが遺跡の構造を調べてる間の護衛を頼むぜ」


 こうして、俺とジークルーネの依頼は始まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 遺跡は、割と町の近くにあった。

 ドルの町から少し離れた林の中に、凝った装飾の施された石造りの家が数軒建っていた。


「これと似たような建物が、この辺りには山ほどある。見ろこの装飾……実に美しい。それに、破損は多いが建物は原型を留めている。こういう過去の技術を徹底的に調べて今の技術と合わせ、新しい技術を生み出す。考えただけでもワクワクしやがる」


 子供のように語るダイクさんは、さっそくスケッチを始める。

 すると、もう俺たちは見えてないのか、超真剣な表情で見取り図のような正確さで建物をスケッチし、破損してる部分は想像で補い、正確無比な建築設計図を起こしていく。


「さて、仕事するか。ジークルーネ、周辺のモンスターを」

「調査済みでーす。現在地より半径5キロ圏内にモンスター反応はありません。現在ホルアクティは周辺の遺跡を調査してます。もしアンドロイドの施設に侵入出来るポイントを見つけたら、報告します」

「お、おお。仕事早いな」


 一応、戦闘準備はバッチリだ。

 キルストレガにはクトネの魔力を入れてある。なぜか俺の魔力にはピクリとも反応せず、クトネが柄に触れて魔力を注ぎ込むとメーターは増えていた。現在『10/100』だ。

 右手の短弓用の矢もあるし、魔力も満タンだから魔術だって使える。

 それからしばらくすると、ホルアクティが帰ってきた。どうやらここはアンドロイドの製造工場なのは間違いないが、入口は見つけられなかったそうだ。


「ま、仕方ないな。アンドロイドの施設なら大したモンないだろ」

「うん。のんびりしましょうね、センセイ」


 ニッコリ笑うジークルーネ。

 うーん、失礼かもだが、パーティメンバーの中で一番癒やされるのはジークルーネだ。この笑顔がなんともたまらない。

 すると、スケッチに夢中なダイクさんを眺めながらジークルーネが言った。


「センセイ、気付いてた? お姉ちゃんがしょんぼりしてたの」

「え……?」

「お姉ちゃん、たぶんだけど嫉妬してたのかな。センセイがお姉ちゃんじゃなくてわたしを選んだから」

「し、嫉妬? ブリュンヒルデが?」

「うん。あのね、センセイ気付いてる? お姉ちゃん、ああ見えてちゃんと『心』は成長してる。今日だって本当はセンセイと一緒にいたかったんだと思うよ」

「…………」


 俺は、とんでもないバカ野郎だった。

 ブリュンヒルデは変わってないなんて決めつけていた。

 誰よりもブリュンヒルデの成長を望みながら、あの子のことを見ていなかった。

 ジークルーネにはわかったんだ。三日月の言っていた『バカ』は、これを指していたのか。

 女の子同士遊べば、女の子の楽しさがわかるなんて決めつけ、あの子の本当の望みを聞いていなかった。ブリュンヒルデを人形扱いしていた。

 

「……はは、そうか。バカだな俺……先生なのに、生徒を見ていなかった」

「ううん、センセイは悪くないよ。ちゃんと思ったことを言わないお姉ちゃんだって悪いんだし。それに、ケンカしてるわけじゃないでしょ?」

「いや、そうだけど……」

「ふふ。センセイもお姉ちゃんも、まだまだだね」

「ぐ……」


 グゥの音も出ない。

 ジークルーネって妙に大人っぽいところを見せるよな。身体は年相応の肉付きなのに。

 よし、帰ったらブリュンヒルデと話そう。

 それから数時間は経っただろうか、数十枚目の羊皮紙に記録を終えたダイクさんは、ようやく手を止めた。


「うし、こんなとこか。町へ帰ろうぜ」

「はい、わかりました」


 満足したダイクさんと一緒に、ドルの町へ帰還した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ダイクさんを家まで送り、依頼は完了した。


「ありがとよ、助かったぜ」

「いえ、お役に立ててよかったです」


 依頼完了の証書を受け取った。

 せっかくだし、ダイクさんに聞いてみるか。


「あの、ダイクさん。実は俺たち居住車が欲しいんですけど」

「居住車ぁ? なんだお前たち、クランなのか?」

「ええ。それで、オススメとかあったら教えてくれたら」

「教えるもなにも、居住車が欲しいならディザード王国へ行け。ここはオレみてぇな住居専門のドワーフや、王国で鍛冶屋を開けねぇ2流のドワーフしかいねぇぞ。本国ならデケェ工場もあるし、居住車専門のドワーフも山ほどいる。お前ら、本国に行ったことねぇのか?」

「はい。ディザード領土自体初めてですね」

「くっくく、それならなおさらディザード王国へ行け。きっと驚くぜ?」

「え?」

「ま、あとは本国で確認しな。この町じゃ居住車なんてねぇからよ」


 そう言って、ダイクさんは家の中へ。

 よくわからんが、本国に行くしかなさそうだ。


「とりあえず、ギルドに報告して帰るか」

「はい、センセイ」


 帰ったら、ブリュンヒルデとお話しするか。

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