第69話ジェネラルサイクロプス

 ジェネラルサイクロプスとキキョウの戦闘が始まった。

 俺は情けなく下がり、右手の籠手の短弓に矢を番え、念のため深呼吸して魔力を集中する。

 せめて援護くらいはしないとな。


「………っく」

『ガァルルルルルル!!』


 くそ、キキョウの動きが鈍い。

 そりゃそうだ。両腕を打撲したまま剣なんて握れるはずがない。さっきまで平然としていたが、内心辛かったはずなんだ。

 ジェネラルサイクロプスは魔術を操り、両手に炎を纏わせてラッシュを繰り出した。

 キキョウは痛みを堪えながら躱してる。

 俺は右手を構え、矢を放つタイミングを見極める。


「キキョウ、援護する!! 剣は振れるか!!」

「………一度、だけなら!!」

「よし、頼む!!」


 キキョウは、俺を信頼してくれたのか、ちゃんと答えてくれた。

 なら、俺が失敗するワケにはいかない。キキョウの信頼に応え、援護をしっかり務めるんだ。


『フゥォォォォ……』

「な……|炎球(ファイアボール)っ!?」


 ジェネラルサイクロプスは、両手の拳に纏わせていた炎を火球に変え、2発の巨大火球を放ってきた。

 俺はどうしようか悩んだが、その前にキキョウが風を纏い跳躍した。

 火球は木々をなぎ倒しながら進み、上空にホップアップして飛んで行った。


「セージさん!!」

「わかった!!」


 ジェネラルサイクロプスの視線はキキョウを追って上空へ。つまり顔を上に向けている。

 俺のことをまるで見ていない。つまり……大チャンス!!

 魔力を左手に集中させ、右手をジェネラルサイクロプスへ向ける。矢の狙いは……あそこしかない!!


『グゥゥゥゥゥオォォォォォォxーーーーーーッ!』

「はぁぁぁぁっ!!」

「……そこだっ!!」


 ジェネラルサイクロプスは再び拳を燃やし、落下するキキョウにカウンターを喰らわせようと振りかぶり、キキョウは腰の両剣に手を添え、居合いの構えを取る。

 そして、俺の矢が発射された。


『っっぶご!?』

「刻め!! 『|逢魔刃(おうまじん)』!!……っっぐぅぅっ!!」


 ジェネラルサイクロプスの鼻の穴に矢はヒット、体制の崩れたジェネラルサイクロプスの右腕が爆発するように細切れになった。

 そして、ジェネラルサイクロプスの左ラリアットがキキョウを吹き飛ばした。

 キキョウは真っ直ぐ俺の元へ突っ込んできた。

 俺は躱すこともできず、キキョウを受け止めて一緒に吹っ飛ぶ。そしてゴロゴロ転がり、少し開けた場所に着いた。


「も……申し訳ありません、腕が……」

「いや、よくやった……っぐ」


 キキョウの一撃は、本来ならジェネラルサイクロプスを細切れにするはずだった。

 だが、両腕の打撲というダメージはキキョウの一撃を鈍らせ、身体を狙うはずだった剣は右腕に逸れてしまったのだ。

 そして、残った左腕の一撃をモロに食らってしまった。

 キキョウは、もう立ち上がることも出来ない。俺も車に轢かれたような衝撃を受けてクラクラしている。


「っく……あの野郎」


 ジェネラルサイクロプスは、再び|炎球(ファイアボール)を放つつもりだ。

 くそ、ここまでか……なんて言うか。

 俺は身体を起こし、倒れてるキキョウを抱き起こす。そしてそのまま抱きしめた。

 いきなりのことで仰天するキキョウだが、俺は構わず抱きしめる。


「悪いな……あいつの炎から守れるかわからんけど、やってみる」

「え……」


 俺のマントは、魔力を込めればある程度の魔術防御が可能だ。

 キキョウの盾になるくらいはできる。


「ありがとな、キキョウ………ん?」

「せ、セージさん………」

「………」


 キキョウを抱きしめながら、気になった。

 キキョウの腰にある3本目……よく見ると鐔の部分が割れて基板みたいなのが見えていた。

 それだけじゃない。柄の部分からコードがはみ出し、配線が切れているようにも見える。

 これ、やっぱ機械の剣だ。


「………キキョウ」

「ははは、はいぃぃっ!!」

「この剣、貸してくれ!!」

『ブゥゥゥゥオォォォォォォッ!!』


 真っ赤な火球が飛んできた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 確証はなかった。でも、なんかいける気がした。

 キキョウの腰にあった剣を掴み、前に突き出す。


「『|修理(リペア)・レベル3』!!」


 レベル3の効果で破損した部品も新たに修復する。

 すると、やはり『|修理(リペア)』は発動した。この剣が機械で出来ているということが実証された。

 

「『|錆取(ルストクリーン)』!!」


 続いて細かい錆を全て取り除く。

 僅かに腐食していた部分の錆が移動し、俺の右手に吸い込まれていく。


「お次は『|接続(アクセス)』!! ロックが掛かってるなら外れろ、所有者がいるなら初期化、そんで所有者変更!!」

『新規所有者登録完了。【魔吸剣キルストレガ】起動します』


 剣が喋った。

 そして、鞘に刻まれたラインが光り、カチンとロックが外れる音がした。

 鞘だけじゃなく柄も光る。よく見ると柄にゲージような光が灯っている。まるで電源が入ったかのように、剣そのものが発光した。

 迫り来るファイアボール。

 もう迷ってる場合じゃない。俺は柄を握り剣を抜いた。

 そして、ファイアボールを打ち返そうと野球のバッターのように構える。

 俺は全力で叫び、ファイアボールを斬りつける。


「ホぉぉぉぉぉーーーームラぁぁぁぁぁーーーーンッッッ!! あれ?」


 ファイアボールが一瞬で消えた。

そして、ゲージの一部が赤く発光してる。よく見るとゲージにはメモリが刻まれ『1/100』と表示されていた。

 もしかしてこれ………魔術を吸収したのか?

 でも、よく見るとこの剣、刀身がヤバいくらい薄い。まるで理科の実験で使うプレパラートを刀身にしたような感じだ。

 

『ブルルル……? ブオォォォッ!!』

「げっ、もう1発!?……よし」


 もう1発のファイアボールが来たが、俺は打ち返すのではなく刀身を真横に構える。

 命懸けの検証だ。もし違っていたら俺は消し炭になるだろう。

 でも、行ける気がした。


「来い……っ!! っぐぬぬぬぬぬ!! っしゃぁ!! 予想通り!!」


 検証終了。

 刀身に炎は吸い込まれ、ゲージが『2/100』になった。

 これでわかった。これは魔術を吸収する剣だ。ゲージがマックスになればどうなるかわからないが、こいつのファイアボールならあと98発は耐えられる。

 するとジェネラルサイクロプスは、両拳に炎を纏わせて突っ込んできた。


「げっ、ま、魔術じゃなきゃダメだよな……や、やっばい!!」

『オォォォォォォーーーーーーッ!!』

「ひぃぃぃっ!?」


 やべぇ、怖くて腰が抜けてしまった。

 その場でへたり込み後ずさる。

 くそ、せっかく格好つけようと思ったのに。



『センセイを発見しました』



 次の瞬間、ジェネラルサイクロプスが細切れになった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 細切れになったジェネラルサイクロプスの後ろに、ブリュンヒルデがいた。

 近くにはヴィングスコルニルが停まってる。しかもジークルーネが乗っている。


「ぶ、ブリュンヒルデ……?」

『はい。ご無事で何よりです、センセイ』

「………はぁぁ~~」


 一気に力だ抜けた。

 カッポカッポとヴィングスコルニルが俺の傍へ来て、頭を下げる。まるで撫でろと言ってるようだ。

 俺はヴィングスコルニルを撫で、ブリュンヒルデとジークルーネに言った。


「助けに来てくれたのか……ありがとな」

「いえいえ、ホルアクティがセンセイを見つけて、私とお姉ちゃんで先行してきたんです。依頼主たちはもう少しあとできますよ」

「ああ、でも良かっ……あ!! そうだジークルーネ、怪我を治してくれ!!」

「もちろん。そのために来たんです」

「俺じゃなくてあっち、キキョ……夜笠さんを治してやってくれ」

「はい。でも、まずはセンセイが先です!! わたしはセンセイのために来たんですから」

「あーもう、じゃあ超特急で頼む。あっちのが重傷なんだ」

「わかりました!!」


 ジークルーネに怪我を治してもらい、キキョウは復活した。

 俺は機械剣を鞘に戻し、キキョウに返す。キキョウはもう喋らず、黙って受け取った。

 ヴィングスコルニルを戻し、なぜか調子の悪いブリュンヒルデに『|修理(リペア)』を使い、ジークルーネの案内でなんとかルーシアたちに合流できた。


「セージさん!!」

「セージ!! 無事だったのか。よかった……」

「心配掛けた。なんとか大丈夫だ」


 クトネとルーシアに頭を下げる。

 心配掛けたみたいだし、お詫びに今度何か奢ってやるか。

 お次はアリゲイツさんとウルフドッグの連中に頭を下げる。


「アリゲイツさん、ウルフドッグの皆さん、ご迷惑をお掛けしました」

「ぐぁっぐぁっぐぁっ!! 無事で何よりですな!!」

「これで貸し借りなしだ、まぁ……生きてて安心したぜ」


 アリゲイツさんは笑い、ヴォルフさんはフンと鼻を鳴らした。

 どうやら心配を掛けたようだ。重ね重ね申し訳ない。

 俺はキキョウをチラ見したが、既に編笠を深く被り黙り込む。ルーシアたちやヴォルフさんたちも特に気にしていないようだ。


「ではでは、森の出口はもうすぐですぞ!! 出発です!!」


 こうして、ドゥウ樹海を攻略した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 樹海を抜けた先は、平原になっていた。

 街道は整備され、ようやくケツの痛さともお別れできる。

 そして………ついに見えて来た。


「見て下さい、フォーヴ王国です!!」


 クトネが、馬車の窓から身を乗り出して言った。

 俺も窓から身を乗り出し外を見る。するとデカく高い壁に覆われた都市が見えて来た。


「あそこに三日月が……」


 落ち着け、まずは情報を集めよう。

 焦って失敗したら終わりだ。まずは慎重に、慎重に。

 

「おや、停まるみたいですね」

「ん?」

 

 クロコちゃんが停まったので、何かあったのかもしれない。

 取りあえず俺たちも馬車を降り、全員でアリゲイツさんの元へ。するとウルフドッグ全員とキキョウがいた。どうやらキキョウがアリゲイツさんに何かを言ってるようだ。


「ええと……報酬は1割でいいからここで依頼完了ということですか?」

「……………」

「チッ、おい夜笠、依頼は商会までの護衛のハズだ。こんなハンパな仕事をするのか?」

「……………」

「え? じゃあ報酬はいらない? 依頼完了証書だけ欲しいと……?」

「……………」

「ふん、好きにしろ。ったく、S級冒険者のやることはわからん」


 ヴォルフはプンプン怒り、アリゲイツさんは依頼完了の証書と小さな袋を手渡した。どうやら報酬はちゃんと支払ったようだ。

 キキョウは、ここでお別れのようだ。

 ほんの短い間だったが、俺はキキョウに世話になった。

 なので、ちゃんと礼を言う。


「夜笠さん、本当にありがとうございました」

「……………」


 すると、キキョウは腰の機械剣を外し、俺に渡してきた。

 全員が唖然としていたが、俺にはわかった。

 これはきっと、キキョウなりの気持ちなのだ。


「………ありがとうございます、夜笠さん」

「……………」


 剣を受け取り、自分のベルトに吊す。

 これはこれでしっくりくるな。新しい相棒の誕生だぜ。

 すると、キキョウは静かに歩き出し、俺の横を通り過ぎた。



「───────ありがとう、セージさん」



 すれ違いざまに、僅かに聞こえたのは気のせいじゃないだろう。

 黒い編笠を被り、黒い外套を纏ったS級冒険者は、静かに立ち去った。

 S級冒険者『|夜笠(よがさ)』ことキキョウ、本当にありがとう。


 そして……いよいよフォーヴ王国へ。

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