第71話三日月しおん⑤
ずっと寝ていた……気がする。
目が覚めると、部屋は真っ暗だった。
ぼんやりする頭で周囲を見回すと、狭い箱のようなところにいるのがなんとなくわかった。
「んん······ここ、ど······えっ!?」
両手に枷が嵌められていた。
足には腐りが嵌められ、動けないように鉄球が付いている。それに·······わたし、服を着ていない。下着も何もない、生まれたままの姿で拘束されてる!!
「なにこれ、なんで······」
パニックになりそうだ。
それに、ここにいるのはわたしだけじゃない。女の子がわたしと同じように拘束されてる。
「っ!! みけこ、くろこ!!······っ!?」
ここで、初めて首に違和感を感じた。
枷を嵌められた両手を上げ、首に触れる。
「······なに、これ? 首輪?」
わたしの首に、鉄のような首輪が嵌められていた。
冷たく、首にフィットするような感触。なんだろう······ぞわぞわする。
一体、何が起きてるの?
確か······宝石の町へ行く乗り合い馬車に乗ってたら眠くなって······気が付いたらここだった。
服も下着も荷物もない完全な全裸で、両手両足に枷、首には鉄の首輪を付けて、暗い箱のような場所にいる。
まさか······まさか。
「わたし·········捕まったの?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
他の女の子たちも続々と起き始め、自分が裸ということに気がついて声を上げたり、泣いたりする子が出てきた。
わたしみたいに首輪を付けてる子はいない。なんでわたしだけ·········。
「··········チート能力? っ!!」
魔力が練れない。
魔術どころかチートも使えない。みけことくろこの繋がりが切れてる。それにしろすけとの繋がりも······。
この首輪、魔術とチートを無効化する首輪だ。
「そんな······」
しろすけとの繋がり、切れちゃった······。
わたしの能力は、一度繋がりが切れると、もう一度ネコあつめで使役しないといけない。つまり、しろすけとはもう······。
「······っ」
涙が溢れた。
なんでこんな、ここどこ?
すると、外が騒がしくなってきた。
「でよ、やっぱ賭けるならリンドの方だと思うんだよ」
「バカ言え、リンドは連勝中だがデズラのヤツは毎回ベスト8に名を連ねてる。くくく、今回こそ優勝だぜ」
「オメー、もう賭けたのかよ? ははは、今晩の奢りはお前だな」
「言ってろ、吠えヅラかかせてやるよ」
男の人の声。
すると、四方が一気に明るくなった。どうやらわたしたちは檻に閉じ込められ、大きな布を被せられていたらしい。
男の人たちは、トカゲの獣人だった。
「でよ、今日こそキャサリンちゃんとイケそうな気がするんだよ」
「ぷっ······まーだ言ってんのかよ?」
「うるせ、見てろよ? 今日の給金が入ったら花を買って······あぁ緊張してきた」
「バーカ、骨は拾ってやるよ」
なにこれ、なんでこんな楽しそうにしてるの?
裸のわたしたちに目もくれず、二人で軽々と檻に付けられた取っ手を掴んで持ち上げる。
わたしたち、10人はいるのに、重さなんて無いように持ち上げた。
「ねぇ出して!」「ここどこ!?」「お願い、開けて!!」
「はぁ〜、早く終わらせてキャサリンちゃんのところ行きたいぜ」
「お前な、オレと飲みに行く話はどうなったんだよ?」
「ばっか、惚れた女と同僚、お前ならどっちを選ぶよ?」
「開けて、開けて!!」「ちょっと、開けなさいよ!!」
トカゲ獣人は、わたしたちなんて見ていない。
同僚とお喋りしながら、当たり前のように運んでる。
わたしはわかってしまった。
この獣人たち、わたしたちの言葉なんて聞いてない。
わたしも鉄格子に縋り付いて叫ぶ。
「あけて!! 出して!!」
「ッチ、ブーブーやかましいメス共だな」
「さっさと選別所に運んでメシ食おうぜ。愛しのキャサリンちゃんはその後だ♪」
「はいはい……」
せ、選別所?
選別って、何を選別するの……?
「………せんせ」
なんで、こんなことに……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
到着したのは、広い倉庫のような場所だった。
トカゲ獣人だけじゃなく、コウモリ獣人やイタチ獣人なんかもたくさんいる。それに……裸の男女が鎖に繋がれ、連れて行かれてた。
男の人も女の人も、みんな裸。両手が塞がれてるから隠すにも隠せない。
恥ずかしがってる人も居るけど、そんな状況じゃないとすぐにわかった。
「よっと。おう、あとはよろしくな」
「おーうお疲れ。今日はあがりか?」
「ああ、そっちは?」
「もうすぐさ。この『商品』の選別が終わったらあがりだ。メシはどこだ?」
「いつものさ。先に一杯やってるから、後で来いよ」
「おう、じゃあな」
トカゲ獣人とコウモリ獣人が、どこでも聞くような世間話をしている。
おかしいよ、なんでこんな普通にしてるの?
「さーてメス人間か。おい、選別するから手ぇ貸せ」
「あいよー」
鉄格子の扉が開かれ、足枷が外れる。
全裸で隠すこともできず恥ずかしい……他の子たちはみんな泣いてる。わたしも涙が溢れてきたけど耐える。
選別とやらが始まり、わたしたちは1人ずつ身体をチェックされる。そして、男女別に仕分けられ、どこかへ連れて行かれた。
そして、わたしの番になった。
「えーと……ん? ああ、こいつが報告にあったレア物か」
「ああ、指輪持ちの人間だ。どんな能力かは確認……」
「できるかよ。首輪外した瞬間に能力使われてみろ、ただでさえ理不尽な力なのに、対処できるかどうかわかんねぇぞ?」
「だな。とりあえず『レア』で仕分けして、オークションのときに言えばいいか」
「ああ、そうだな」
どうやら、チート能力は『レア』で、オークションとやらにわたしは賭けられるらしい。
ここまででわかった。わたしは人攫いの獣人に攫われ、オークションとやらに賭けられる。もしかしたら、宝石の町ピュアラに向かう馬車そのものがワナだったのかも。
それに、この手枷と首輪のせいで魔術もチート能力も使えない。武器術が苦手だったから格闘技を習ったけど、魔術なしに獣人と渡り合える自信はない。それに……みけことくろことの繋がりも消えた。あの子たちがどうなったのかもわからない。
今は、耐えるしかない。
「よし、お前はこっちだ」
「あうっ」
首輪に鎖が繋がれ、引っ張られる。
この獣人たちにとって、人間の裸なんて興味ないみたいだ。獣人にとって人間は動物と同じ……なにそれ、おかしいよ。
しばらく歩いて連れて来られたのは、牢屋みたいな部屋だった。
「ほら、レア専用小屋だ」
「………あの、オークションってなに?」
「あん? そんなの決まってんだろ。人間オークションだよ」
「人間、オークション?」
「そうだ。この獣人貴族の町シュヴァヴァで開かれる人間オークションだよ。オメェ等、運が悪かったなぁ。この町に入った時点でお前らは人間じゃなくて『商品』として扱われる。このフォーヴ領土じゃ人間の人権なんてないに等しいからなぁ。助けなんて期待しない方がいいぜ」
「………あの、わたしの荷物は」
「はぁ? んなもんとっくに処分したっての」
「あの、ネコは……」
「知るか。ほらさっさと入れ、オークションは明日だからな、エサと洗体は明日だ」
「………」
部屋に押し込まれ、獣人は去った。
部屋は薄暗く四畳半くらいの広さで、隅っこに藁が敷いてあり、排水溝と水の入った樽が置いてあった。
わたしは藁の上に座り、身体を丸める。
「…………っく、う……ひっく」
わたしは、こみ上げてくる涙を止められなかった。
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