第51話みんなで無双!
飛び出したコヨーテは、門番でもあるゴブリンに向けて吠えた。
「こ、怖くない怖くない……あ、アルシェを返せ!!」
『ギャウギャウガ!!』『ギャギャギャ!!』
「チッ!!」
ゴブリンの1体が洞窟内へ走り、ルーシアは矢を射った。
狙いは洞窟内へ向かったゴブリンではなく、コヨーテに襲い掛かろうとしたゴブリンの眉間。
矢は一直線に飛び、ゴブリンの眉間を貫いた。
「アルシェッ!!」
「待てコヨーテ!! 1人で行くなっ!!」
ルーシアが叫ぶがコヨーテは洞窟内へ向かってしまった。
俺は全く動けなかった。クトネも呆然としていた。
すると、ルーシアがブリュンヒルデに向けて叫ぶ。
「ブリュンヒルデ、なぜコヨーテを止めなかった!!」
『質問の意味が理解出来ません。私たちの任務は《ゴブリン退治》です。コヨーテは戦略としてゴブリンをおびき寄せる行為を行っただけです』
「違う、あいつはアルシェを救おうと無茶な行動をしただけだ!! あんな子供に戦闘など出来るはずがない、あのままでは死ぬぞ!!」
『………』
「あの、そんなこと言ってる場合じゃないですよ!! すぐに応援のゴブリンがここに押し寄せてきます、こうなったらここで迎撃するしかありません!!」
「くそっ!! ブリュンヒルデ、責任はとってもらうぞ。セージ、矢はもういい、剣を抜いて迎撃だ!! クトネ、チートを持っているなら出し惜しみするな、ゴブリンの大群が押し寄せるぞ!!」
「わ、わかったぁっ!!」
「はい!! こうなったら、あたしの切り札を見せちゃいますよ!!」
『洞窟内部から大量の熱源感知。戦闘準備』
俺たちは武器を構え、茂みから飛び出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
洞窟内部から、緑色の小鬼がワラワラと飛び出してきた。
手には槍や剣を装備し、防具を着けてる個体もいる。ルーシア曰く、これらは全て冒険者から奪った装備らしい。
「ふん、雑魚共がっ!!」
ルーシアは鉄の剣を構え、ゴブリンの群れに突っ込んだ。
さすが騎士団長というべきか、太刀筋から身体の使い方などが洗練されている。視界が360度あるんじゃないかってくらいスキがない。
ゴブリンが突き入れる槍を躱し、剣を受け止め、投石を躱す。
驚いたのは、剣技だけでなく体術のレベルが高いことだ。
「ふ、『爪先刃(トゥ・エッジ)』だ!!」
ルーシアは、つま先に仕込まれた刃を出し、片足を軸にして一回転した。するとルーシアを囲んでいたゴブリンたちの首から鮮血が吹き出す。
「ふん、数だけなら【異能(チート)】を使うまでもない」
結論、ゴブリンなんてルーシアの敵じゃない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クトネは、無詠唱で魔術を放っていた。
「火球(ファイアボール)、火球(ファイアボール)、火球(ファイアボール)」
消費魔力を押さえるため、魔力を調節してゴブリンの頭部ほどの大きさの火球を放つ。
D級認定を受けているので、F級までの魔術は詠唱破棄できる。詠唱破棄の技術はD級認定を受けるのに必須条件だ。
クトネは、接近するゴブリンに対しても慌てない。
「四方より立ち上がれ、『土障壁(プロテクション)』」
『ギャゥ?』『ギャギャギャ!!』『ギャウギャウ!!』
クトネを囲うように石の壁が現れ、その周りをゴブリンが囲む。
クトネは慌てず騒がず、静かに詠唱をした。
「炎の円よ広がれ、『炎円波(ファイアサークル)』」
石の壁を中心に炎の輪が広がり、集まったゴブリンたちを焼き尽くす。
クトネは岩の壁に魔力を流して穴を開け、周囲の様子をうかがう。
「うーん、かなりいますね……50、70、80くらいかな?……エーテルもあるし、1回だけ使いますかね」
クトネは詠唱を始める。
発動させる魔術は『火』属性のD級魔術である『|爆発する炎(エクスプロージョン)』で、D級では最も高威力の爆発呪文だ。
普通の魔術師ならゴブリンを10匹同時に吹き飛ばす威力はある。だがクトネは違った。
「炎よ叫べ、『爆発する炎(エクスプロージョン)・四重奏(カルテット)』!!」
次の瞬間、普通なら1つの魔方陣が現れるが、4つの魔方陣が展開。50体以上のゴブリンを巻き込み大爆発を起こした。もちろん味方を巻き込まないように計算済みだ。
これにはセージもルーシアも驚いた。
「な、なんじゃこりゃ!?」
「これは『|爆発する炎(エクスプロージョン)』……こんな規模で放てるとは……そうか、『異能(チート)』を使ったのか」
クトネは岩の壁の中で、ミントのような味のするエーテルをゴクゴクと飲む。
ルーシアの言ったとおり、これはクトネのチート能力だ。
********************
【名前】 クトネ
【チート】 『魔奏者(マジックコンダクター)』 レベル4
○二重奏(デュオ) 消費魔力・威力・規模2倍
○三重奏(トリオ) 消費魔力・威力・規模3倍
○四重奏(カルテット) 消費魔力・威力・規模4倍
○五重奏(クインテット) 消費魔力・威力・規模5倍
********************
クトネは、使用魔術にチートを重ねることで威力や規模を増大させることができるチートを持っている。だが、消費魔力も激しく多用は出来ない。仲間がいるからこそ使う事が可能になったチートだ。
「さて、あとは細かく行きますかね」
ゴブリンは、まだまだ湧いて出て来た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブリュンヒルデは、レアメタルソードで無双していた。あのアルヴィートと渡り合ったブリュンヒルデだ、ゴブリンの群れが国家規模で押し寄せようと無双しそうな気がする。
ルーシアもブリュンヒルデほどではないが、迫り来るゴブリンを切り払ってるし、クトネもとんでもない魔術を使いゴブリンをふっ飛ばした。
さて、俺はというと。
「おぉぉあっちゃあッ!! っしょぉぉぉッ!! セイヤーーーッ!!」
ゴブリン相手に剣を振り、ゴブリンの首を両断していた。
ゴブリンの動きはそれほど速くない。ガードも甘いし、冷静に対処すれば俺でも殺せる。
最初の一匹を殺した瞬間に腕が重くなった。
俺がモンスターを殺した。その事実がゾワリとのしかかる。だが、ここは戦場だ。油断すれば死ぬのは自分。
そう思い、ひたすら剣を振る。
そのうち、腕の重さもなくなった。
「ホォォォーーーッ!!」
『ギャウ!!』『ギャオオッ!!』『ギャハハッ!!』
ゴブリンはまだまだ湧いてくる。
コヨーテの姿はない。どうやら洞窟に入ってしまったようだ。
視線を洞窟に向けた一瞬だった。
『ギャウーーーッ!!』
「うっおぉっ!?」
ゴブリンフェンサーの振り上げた剣に反応が遅れ、慌てて刀で受け止めた。
こいつ、普通のゴブリンじゃない。
普通のゴブリン子供みたいなサイズだが、こいつは大人と同じくらい大きい。しかも力が強い。
『ハッハッハァァーーーッ!!』
「むぅぅぅっ!!」
ギリギリと鍔迫り合いをする。
こう見えて基礎トレはしてたから筋力には自信があったが、こいつは俺よりパワーがある。つーかやべぇ。
一歩一歩押され、もし打ち負ければ両断される。
声を出す暇もない。ブリュンヒルデ、ルーシア、クトネが助けて······いや、この程度のピンチ、乗り越えて······あ、そうだ。いいこと思い付いた!!
「る·····『錆取(ルストクリーン)』っ!!」
俺はゴブリンの剣の刀身を掴みチートを発動させる。
すると、ゴブリンフェンサーの剣が刀身から錆び始め、掴んでいた部分がポキッと折れた。
俺も驚いたがゴブリンフェンサーはもっと驚いていた。
俺は篭手に内蔵されたブレードを展開し、ゴブリンフェンサーの喉を思い切り突き刺した。
「俺の勝ち······だっ!!」
『く、カカ······っ!?』
ゴブリンフェンサーは倒れた。
思いつきだけど成功してよかった。
『錆取(ルストクリーン)』の新しい能力は触れた金属を腐蝕させる。つまり、機械限定じゃないんだ。これはかなり使えるかもしれない。
武器は大抵が金属だし、どんな強豪の武器だろうと腐蝕させてポキッと折れる。ぶっつけ本番だったが成功してよかった。
ゴブリンはまだまだいる······よし!!
「ブリュンヒルデ!! ここは俺たちに任せて洞窟内へ!! コヨーテとアルシェちゃんを助けに行くんだ!!」
『センセイ、私はセンセイを守ります』
「駄目だ。いいかブリュンヒルデ、俺を守りたいなら身体だけじゃなくて尊厳も守れ!! 少しはカッコつけさせろ!!」
『·········』
「お前のセンセイは、こんなゴブリン如きに殺られるようなヤツじゃない。行け!!」
『······はい、センセイ』
ブリュンヒルデは、ゴブリンを薙ぎ払い洞窟内へ。
すると、ルーシアが俺の背後に来た。
「セージ、なかなかやるじゃないか」
「ルーシアとクトネの特訓のおかげだよ」
「それもあるが、ブリュンヒルデに助けに行かせたこともだ。挽回のチャンスというわけか」
「ま、それもあるけど、あの子には命の重さを知って欲しいからな。アルヴィートがあそこまで人間らしい感情を見せたんだ、ブリュンヒルデだってきっと······」
「······ふ、そうか」
ルーシアはアルヴィートのことを知らない。けど、ブリュンヒルデと同じアンドロイドがいることは伝えてある。
「そこの二人ーっ!! ちゃっちゃと終わらせますよーっ!!」
「おーうわかった!!」
「ああ、行こう!!」
さぁ、ゴブリン共は皆殺しだ······なーんてな!!
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