第48話クラン初依頼

 俺のチートはちょっと変わってるらしい。

 まぁ、元々が巻き込まれた上での異世界召喚だったし、変なバグでも発生した結果かも。

 クトネから項目を消すやりかたを教えてもらい、ひとまず落ち着いた。

 

********************

【名前】 相沢誠二 

【職業】 教師(ティーチャー)

【冒険者等級】 F級

【所属クラン】『戦乙女(ヴァルキュリア)』 G級

********************


 これならバレないだろう。

 まぁ、いくらチートが増えても一般的には使えないし、機械がないと何の役にも立たないからな。見られても問題はあまりない。というか見せないけどね。

 というわけで、再び冒険者ギルドへ。

 今度はクラン専用の掲示板を見て、クラン初依頼を受けるためだ。

 ちなみに、残り金貨は70枚。

 ルーシアの装備がバカ高かった。ミスリル製品って金貨100枚もするんだよね。

 俺たちは、クラン専用の依頼掲示板を見ていた。


「えーと、G級だから最高でもE級までの依頼しか受けられないな」

「そうですねー·········あ、これはどうです? 近隣の集落に発生したゴブリン退治!!」

「ゴブリンか······どうする、ルーシア、ブリュンヒルデ」

『問題ありません。センセイは私が守ります』

「私も構わん。武器の慣らしにはちょうどいい」


 待て待て、ゴブリンを舐めたらアカン。

 初心者パーティーの初依頼でゴブリン退治を受けて全滅なんて、どっかで聞いた話がある。ここは慎重に選ばないと。


「報酬は金貨5枚ですね。まぁF級の依頼ですし、こんなモンじゃないですか?」

「······わかった。それでいこう」

「よし、ではリーダー、依頼を受けよう」

「リーダーって、俺?」

「当たり前だろう」


 依頼書を剥がし、受付で処理をする。

 これで、俺たちG級クラン『|戦乙女(ヴァルキュリア)』の初依頼を受諾した。

 何をするにしても金は必要だ。この町で俺のレベルアップも含めて金を稼ごう。


「セージさんセージさん、依頼書によると、期間は一週間あります。今日は道具を揃えて出発は明日にしましょう」

「そうだな。じゃあ今日は宿を取って、久しぶりに美味いメシでも食うか」

「おお、そりゃいいですね!! クラン結成のお祝いといきましょう!!」

「ああ。ルーシア、酒は飲めるか?」

「当然だ。セージ、前祝いといこうじゃないか」

「おう、ブリュンヒルデ、お前も食べろよ」

『はい、センセイ。経口摂取モードに切り替えました』


 久しぶりに、美味い料理が食えそうだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 道具屋でポーションとエーテルを買い込み、厩舎付きの宿を取り、俺たちは俺の部屋に集まっていた。ちなみに部屋は2部屋取り、俺のシングルと女性三人部屋だ。

 夕食にはまだ早いので、少し話をする。

 明日はゴブリン退治に近くの集落へ向かう。場所は地図で確認したし、依頼書に書いてある詳細も確認した。


「依頼書によると、集落の田畑がゴブリンによって荒らされたようだ。足跡の数からして、20匹以上の群れなのは間違いない」

「場所は集落外れにある洞窟······うーん、いかにもゴブリンって感じの場所ですねぇ」


 ルーシアとクトネによる説明だ。

 ありがちな展開だな。この洞窟のゴブリンを全滅させれば依頼達成だ。

 すると、ルーシアが言う。


「セージ、今回はお前の初実戦だ。ブリュンヒルデに頼らず、お前もモンスターを倒せ。ブリュンヒルデ、お前もセージのことを思うなら、セージにもしっかり戦闘をさせろ」

「う······耳が痛いな。わかってるよ」

『············』

「そういうわけだ、ブリュンヒルデ、俺も戦うから、俺を守るのは最低限だ。いいな」

『···········はい、センセイ』


 俺はまだ、ちゃんとモンスターと戦っていない。これはいい経験になる。

 それに、修行の成果を試すいい機会だ。


「出発は明日。今日はゆっくり休もう」

「ああ、じゃあ一階の食堂でメシにするか」

「やたっ!! ブリュンヒルデさん、お肉食べましょお肉!!」

『はい、クトネ』


 宿屋一階は大抵が食堂と酒場になっている。

 俺とルーシアはオススメ定食とエール、クトネとブリュンヒルデはステーキを頼み、食事が始まった。

 

「では、クランの結成に……乾杯!!」

「「乾杯っ!!」」

『乾杯』


 グラスをぶつけ、俺とルーシアはエールを煽る。

 冷たくシュワッとした苦みのある炭酸が喉を通る……はぁぁ~、美味い!!


「ッッかぁぁぁ~~~っ!! 美味いなぁ!!」

「ああ……美味しい」

「う~~ん、お肉おいしい~~~っ!!」

『もぐもぐもぐもぐ』


 久しぶりのエールはスゴく美味い。あっという間に飲み干し、おかわりを二杯大ジョッキで頼む。

 おかわりも飲み干したところで、だいぶいい気分になってきた。だがまだ酔わない。異世界のビールもといエールはちょっと薄味、普段からビールを飲み慣れてる俺にはまだぬるい。

 それに、いくら酒が美味くても酔いつぶれるわけにはいかない。


「ふっふっふ……」

「セージさん、どうしたんです?」

「いや、酒が美味くてな。ははははは」

『…………』

「ひっく……」


 さてさて、夕食後は自室でノンビリしますかね。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 食事が終わり、酒が飲めるとか言ってた割に酔い潰れたルーシアを部屋に運び、自室に戻ってきた。

 俺は部屋にカギを掛け、誰もいないことを確認する。


「………へへへ、チェックチェック」


 俺は右手のバンドを起動させ、町に着いたときに放っておいたホルアクティのデータを確認する。内容はもちろん……大人のお店だ。


「……なになに、会員制娼館、大衆娼館、獣人娼館……おお、すげぇな」


 『娼館』をキーワードに、それっぽい建物をチェック。このジドの町の全体マップにはいくつもの娼館が設置されている。しかも値段や娼館の内容など、まるでホームページのように閲覧できた。

 俺は窓際に停まってるメカフクロウにキスしてやろうかと思った。

 さてさて、金貨を数枚持って夜の町へ。


『センセイ』

「ん? どうしたブリュンヒ……ってどわぁぁぁぁっ!?」


 いつの間にかブリュンヒルデがいた。

 画面に集中しすぎて全く気が付かなかった……って、鍵掛けたよな!?


「な、なんでここに? ってか鍵は?」

『鍵は解錠済みです。センセイの精神状態が高揚していたので、バイタルチェックを行いに来ました。センセイ、体調に変化はありませんか?』

「あ、ああーと、うん。大丈夫だ。その……ちょっと散歩に行ってくる。付いてこなくていいぞ」

『センセイ、どちらへ行かれるのですか?』

「え、あー……」

『推測ですが、娼館へ行かれるのですか?』

「………………………ぅん」


 俺はとうとう白状した。

 くっっっそ恥ずかしい。ちくしょう。誤魔化せなかった。

 

『センセイに提案があります』

「……なに?」

『性欲を発散させたいのでしたら、私がお相手をします。このボディは擬似性交が可能です。センセイの肉体と精神を健康に保つため、ご自由にお使い「ストップ!! もう言うな!!」


 俺は娼館を諦め、枕を涙で濡らした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日、朝食を食べて宿の前に集合した。


「さてみなさん、今日は我ら『戦乙女(ヴァルキュリア)』の初依頼です!! 場所はフォーヴ王国領土にある『デイボの集落』で、依頼内容は近くに発生したゴブリンの退治!! 依頼の難易度はE、冷静にやれば何の問題もない依頼です!! みなさん、気合い入れて行きましょー!!」


 クトネ、朝から張り切りすぎだろ。

 依頼の内容は昨夜のうちに何度も確認した。装備や道具も整えたし、準備は万全だ。


「クトネの言うとおり、初依頼だ。セージにとっては初実戦でもある……油断はするな」

「わかってるよ、ルーシア師匠」

「ああ、それでいい」

「ちょっとちょっとセージさん!! あたしも師匠ですー」

「はいはい、クトネ師匠」


 結局、昨夜は娼館に行けなかったから溜まってる。この鬱憤をゴブリンにぶつけてやるぜ。

 ブリュンヒルデの擬似性交機能とやらの話は忘れることにした。というか、戦乙女型アンドロイドの制作者は何考えてそんな機能を付けてんだよ。娘とか言ってたくせに。

 

「よし、じゃあ出発だ」

「はいっ!!」

「ああ、行こう」

『はい、センセイ』


 こうして、冒険者クラン『戦乙女(ヴァルキュリア)』は、初依頼に出発した。

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