第17話ブリュンヒルデの宿題
薬草摘みは、15分も掛からず終わった。
束にした薬草を丁寧に袋に入れ、依頼の数である50束をもう一度数える。
「よーし、これで依頼は終了だ」
「お疲れさん、セージ。じゃあメシでも食いに行こうぜ。今日はオレらの奢りだ」
「え、いいのか?」
「おうよ、新米冒険者に奢るのは先輩の役目だぜ? なぁみんな」
ウェイドは仲間たちに声をかけるが、反対の者は誰もいなかった。
「ふ······では、ギルドに報告し祝勝会と行くか」
「そうね。ふふ、じゃあ豪勢に焼き肉なんてどう?」
「わぁ、いいですね‼」
『············』
バーグ、ミシェル、ミーナもノリノリだ。
ブリュンヒルデは、未だに思考の海から抜け出していなかった。そんなに難しいことなのか?
やれやれ、俺がブリュンヒルデに与えた宿題である、『ブリュンヒルデが考える人間らしさ・十か条』は、よほど難題らしい。
未だにメモ用紙を持ってるし······どうしよう。
とにかく、町に帰ってメシにするか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギルドに報告し、報酬を受け取る。
薬草採取の報酬は銅貨7枚。基準はわからないが、かなり安いらしい。
受け取った銅貨を仲間で分けようとしたが、4人は笑顔で拒否した。
「そりゃお前の初依頼、初報酬だろ? とっとけよ」
「ふ……初めての報酬は忘れられん物だ」
「そうそう、大事にね」
「セージさん、よかったですね」
みんな優しい。改めて仲間は素晴らしいって思う。
それから、ウェイドたち行きつけの定食屋に向かい、エールで乾杯する。
大きな円卓には様々な料理が並べられ、どれも美味しそうだ。
『………人間は食事に深いこだわりを持つ』
と、ブリュンヒルデはメモに書いていた。
確かに、それは間違っていない。肉野菜を育て、煮る焼く蒸すを行い、調味料を使い分ける。それは人間しか行わない調理法だ。
というか、どれくらいメモ用紙に書いたのだろうか。
「さぁ食え食え、腹減ったろ!!」
「ああ、ありがとう、じゃあ遠慮なく」
腹も減ったので遠慮なくステーキを食べる。
「ほらほら、ブリュンヒルデちゃんも食べなよ」
『ありがとうございます。いただきます』
「ブリュンヒルデさん、お酒は飲めます?」
『はい。問題ありません』
ミシェルとミーナがブリュンヒルデにかまってる。女の子同士、ここは任せるか。
ウェイドは、エールのグラスを傾けながら言う。
「とりあえず、F級に昇格するまで面倒見てやるよ。それまではオレらとパーティー組んで冒険しようぜ」
「ああ、世話になる」
「よろしく頼むぞ、セージ」
俺、ウェイド、バーグはグラスを合わせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
明日、冒険者ギルドに集まる約束をしてみんなと別れた。
俺とブリュンヒルデは宿に戻り、一息つく。ブリュンヒルデは相変わらず床に座ってる。
「ブリュンヒルデ、宿題はできたか?」
『いいえ、まだです』
「はは、まぁ急がないからゆっくりでいいぞ。それより、ウェイドたちには感謝しないとな。何も知らない俺たちに協力してくれるし、冒険者のイロハも教えてくれるそうだ。こりゃ助かるなぁ」
『………人間は優しい』
「そうだ。人間は優しいんだ。もちろん、みんながみんな優しいわけじゃないけど、それでも優しい人は優しい。それがどういうことだかわかるか?」
『………不明です』
「人と人の繋がり、『絆』だ」
『絆』
「ああ。人に優しくされたら、その人にも優しくしてやる。そうすればお互いに優しくなれる」
『………優しく、なれる』
「そうだ。いいかブリュンヒルデ、人に優しくするんだ。俺に言われたからとかじゃなくて、自分で考えて、その人のために優しくなるんだ」
『…………』
俺はブリュンヒルデの頭をなでる。
この子には心を持って欲しい。そう願う。
さて、明日から忙しくなるぞ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから数日。ウェイドたちと一緒に冒険をした。
本来の目的である情報収集も忘れそうになるほど、ウェイドたちとの冒険は楽しかった。
薬草採取から始まり、町内の屋根を修理から下水道の掃除なんかもこなした。ウェイド曰く、こういう下積みがあってこそ冒険者として一人前だとか。
「いいか、冒険者の等級ってのはそう簡単に上がらねぇ。G級からF級に上がるのならそうでもないが、全ての冒険者はD級の壁にブチ当たる。A~C級の冒険者なんて相当な成果を上げねぇとなれねぇんだ」
「ほぉ……ウェイドたちは確か」
「あたしたちはE級。まぁこの辺じゃ中堅ね」
「もう少し成果を上げれば、D級に上がれるんです!」
下水道の掃除を終え、ギルドに帰る途中の会話だ。
この数日、町中の依頼ばかり受けていた。装備や道具を揃える必要もないし、お金も殆ど使わないで済む。
ウェイドたちは、いろんなことを教えてくれた。
俺の欲しい情報ではなかったが、この世界で生きていく上での常識や、ここから最も近い『魔王が治める王国』についての情報などが手に入った。
ここから最も近い国、『マジカライズ王国』
『夜の女王ナハティガル』が治める魔術国家。オストローデ王国とは違う国家だ。
魔王がどんな人かは知らないが、オストローデ王国を知るためにマジカライズ王国に向かうのもいいかもしれない。その前に、冒険者の等級を上げて、近くにある『フォルス神殿』を調査する。
もしここが古代の遺跡で、何か使えるアイテムがあれば御の字だ。それに、遺跡にある物を使って俺のチートを検証できる。
ギルドに到着し、依頼書を提出した。
報酬が支払われると、受付嬢に言われた。
「おめでとうございますセージさん、ブリュンヒルデさん。今回の依頼で、お二方はG級からF級に昇格しました!」
「え、マジですか?」
「はい。では手続きを行いますので、『|可能性の指輪(アビリティリング)』と認識票をお預け下さい」
「お、お願いします」
『お願いします』
数分で手続きは終わり、指輪と認識票が返還される。指輪は変わっていないが、認識票の色は青くなっていた。
指輪をはめてステータス画面を呼び出すと、等級がG級からF級になっていた。
「おぉっし!! これで遺跡調査ができるぞ!!」
『おめでとうございます、センセイ』
「ああ、お前もな」
『ありがとうございます』
感動に浸っていると、ウェイドたちが声を掛けてくる。
「なんだよセージ、遺跡調査なんてやりたいのか?」
「ん、ああ、ちょっと興味があってな」
「へぇ~……変わってるわね」
ウェイドたちは、変わり者でも見るような目で見てる。
遺跡調査ってそんなに変なのかな? まぁチートの検証とかブリュンヒルデの装備とかあるけどね。
それより、等級が上がった。
約束では、ウェイドたちは俺たちがG級からF級に上がるまで面倒を見てくれる……そういう契約だ。
「ウェイド、バーグ、ミシェル、ミーナ、いろいろ教えてくれて本当にありがとう」
「……気にすんな。それより、遺跡調査すんだろ? 最後くらい付き合わせろよ」
「そうそう、ね?」
ウェイドとミシェルが俺の肩をポンポンしながら言う。
まぁ、世話になったし……みんなになら見せてもいいか。
「わかった。じゃあ明日さっそく行こう」
「そうだな……じゃあ今日は、昇級祝いだ!!」
「あはは、みなさん、飲み過ぎないようにしましょうね」
「……難しいな」
ミーナのツッコミに答えるウェイドは、とても嬉しそうに見えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿屋にて。
ブリュンヒルデの宿題は、まだ終わらない。
「ブリュンヒルデ、遺跡の調査をしたら、出発しよう。この町で得られる情報はもうない」
『はい、センセイ。次はどの町に?』
「次は……魔王の1人が治める、『マジカライズ王国』に行こう。ここならオストローデ王国の情報もあるはずだ」
『わかりました。センセイ、宿題のことですが、近日中に提出します』
「ああ、わかった」
この宿題に答えはない。ブリュンヒルデがどのような答えを出すか、それが答えである。
それよりも、明日の遺跡の調査だ。
「ブリュンヒルデ、明日は遺跡の調査だ。俺のチートを検証する」
『はい。施設が機能すればメインデータにアクセスできるかもしれません』
「お、じゃあ……」
『はい。姉妹機が眠っている場合。センセイの『|修理(リペア)』で修復を行って下さい。ボディの修復は問題ありませんが、
「ヴァルキリーハーツって……ああ、あの宝石か。あれって遺跡の中にあるのか?」
『不明です』
おいおい、ありゃ遺跡内で偶然見つけたんだぞ。
今回もあるかわからんのに……うぅん。不味いかな?
とにかく、明日は遺跡をすみずみまで調査してみるか。
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