第二話 愛人

「ねぇ、いつまでねてるの起きて」

「もう朝か」

 妻に隠れて彼女と過ごしもう何度目の朝だろうか。娘が反抗期に入り、それに乗じてか妻も私への不満を隠そうともしなくなった。今や彼女だけが私のオアシスだ。


「また私のところに泊まって、奥さんにばれないの?」

「ばれたころで今更さ、もうあの家に俺の居場所なんてない」

「そういうこと言うから愛想つかされるのよ」

 一夜を共にした朝には必ず小言のように夫婦仲を戻そうとするのは彼女の悪い癖だ。


「いいじゃないか、どうだって」

「よくないはいつまでも私ばかりに構ってちゃ、奥さんと娘さんが可哀そうよ」

「そんなものか」

 女というのは分からないものだな。四十がらみまで生きてきてつくづくそう思う。


「だからさ、ね。これ持っていって」

「これは」

 リボンなんかで可愛く包装された、ずっしりと重い袋をこちらに寄越す。


「お土産よ、あなたに今まで一杯もらったお金で買ったの。素敵じゃない?」

「なにが入ってるんだ」

「家に持って帰って。開けてからのお楽しみ」

 なんだかわからないが常々彼女が言っている、女性への心遣いは贈り物からということだろうか。


「分かった。ありがとう」

「どういたしまして」

 俺は仕事道具と貰った贈り物を手に家へと帰る。

 そういえば今日は妻と娘の誕生日だ、喜んでくれるといいが。


「さてと、これでまた一人か」

 なんだかさみしいけれどこれが私の仕事。冷え切った夫婦を依頼を受けてもう一度愛せるようにする。大切な仕事。

 奥さん喜んでくれるといいけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る