第28話 1-25 チャーシュー麺

 怪しい男の姿を確認しつつ、俺はラーメンの麺を茹でる準備を始める。

 丼を用意しながら、何人分作るかを確認だ。


「レイ、ポチット、ラーメン食うか?」

「私は、お腹一杯なので、ワンタンを頂きます」

「あ、あたしは……」

「ポチット、遠慮はするんじゃねぇぞ」

「は、はい、ご主人さま。頂きます!」

「おお、それで良いんだ。育ち盛りなんだから、うんと食えよ。よし、お前には、チャーシュー麺にしてやる」

「チャ、チャーシュー麺とは、どんな料理なのでしょうか? ご主人さま」

「まあ、楽しみにしておけ。バイソン、お前さんもラーメン、食うか?」

「頂きます」

「よし、判った。それじゃ、5人分の麺と、ワンタンだな。俺もワンタン、食うか……」


 俺は、沸騰した湯に麺を5人前、取っ手付きの金網ざるへ入れて投入。ワンタンの具も同様に沸騰した湯で茹で始める。

 丼には、醤油だれと葱の微塵切りを入れてから、沸騰したスープからアクを避けて澄んだスープを注ぐ。

 麺は、取り敢えず好みを聞かずに、標準で茹でてから勢いよく湯切りをして、丼へと入れながら麺が絡まない様に整える。

 この間、大凡5分位だ。

 お湯とスープさえ沸騰すれば、調理時間は掛からないのが、ラーメンの良さでもある。


 トッピングで、チャーシュー、メンマ、なると、茹でたほうれん草と、海苔を添えれば完成だ。

 ポチットへは、チャーシューを六枚ほど乗せてやり、チャーシュー麺にしてやる。


「へいっ、お待ち。食ってくれ……。おっと、箸じゃ駄目か、フォークだな。これで絡めて食ってくれ。本当は、箸ですすると美味いんだがな」

「キー様、こんなにも短時間で調理が完了してしまうのですか?」

「ああ、そうだ。まあ、食ってから、感想を言ってくれ。フォークでの食い方は、レゾナの旦那やポチット、バイソンの食い方を見てくれ」

「キー様、頂きますぞ。うーん、美味いですな。このスープと麺の相性は、最高ですな。胡椒を、少しだけ頂けますか?」

「ああ、勝手に好きなだけ使ってくれ。辛くても知らねぇけどな」


 すると、俺とレゾナの会話を聞いていたフェアが、驚いた口調で言った。


「こ、胡椒でございますか? その様な高価な香辛料を、好きなだけとは……キー様、正気でございましょうか?」

「ああ、正気だともよ。フェアも辛いのが好きなら、少しだけ振りかけてみな。まぁ、その前にそのまま食って欲しいんだけどな」

「キー様、美味しいです! フェア様……フェア姉さん、美味しいです。この麺というパスタとスープ、味が濃厚なのに、とってもさっぱりとしていますよ!」

「おお、美味いか。サニーみたいに、さっさと食った方が美味いんだよ。フェアも兎に角、食ってみな」

「はい、それでは……。変わった形のスプーンですね。スープを頂きます。……お、美味しいスープですわ。何と味わい深いスープなのでしょうか……。麺も頂きましょう……こ、これは美味ですわ。スープの味と相性が良うございますね。驚きましたわ、こんな短時間で、こんなにも濃厚なスープの料理を作り上げるとは……」

「ポチット、チャーシュー麺は、どうだ?」

「ご、ご主人さま、こんなにも沢山のお肉が乗っているだけで、ポチットは幸せです。本当に美味しいです!」

「そうか、そうか。育ち盛りは、やっぱりチャーシュー麺だよな」

「バイソンは、どうだ?」

「美味いです。本当に、美味いです」

「有り難うよ。さて、俺とレイのワンタンだ。待たせたな、レイ」

「頂きます。……美味しいですね。中華そばが最高ですけど、ワンタンもたまに食べると、喉越しが良くて、とっても美味しいです」

「ああ、ワンタン麺ってのもあるけど、腹が空いてない時は、ワンタンが良いよな。それじゃ俺も、食わせてもらうかな」


 俺も、自分用に作ったワンタンと食う。

 我ながら、美味いワンタンだよ。

 この熱々のワンタンは、本当に食欲がねぇ時でも食えるから、腹が空いて無くても食えるからな。

 ワンタンの喉越しが、何たって最高だよ。


「キー様が、お食べになっているのは、ワンタンとおっしゃっておられましたが、それも美味しそうですわね」

「ああ、美味いよ。お代わりでワンタンも食ってみるかい?」

「宜しいのでしょうか?」

「いいとも。これも味見をしてくれ。ラーメンだけじゃ無くて、こんな料理も有るんだって事でな」

「それでは、麺を頂きましたら、私も頂きますわ」

「ああ、ラーメンのお代わりの時は、麺だけを追加で残ったスープに入れる事も出来る。二杯ラーメンを食うよりも割安なんだよ。替え玉って言うんだけど、普通はワンタンの替え玉はしねぇけど、今夜は特別だ」

「有り難うございます」

「良いって事よ。サニーはどうする?」

「私には、その替え玉と言う麺のお代わりを頂けますか?」

「あいよ。そんじゃ、少し待ってくれ。俺もワンタンをさっさと食っちまうから」


 俺は、自分のワンタンを素早く食ってから、フェア用のワンタンとサニーの替え玉を茹で始める。

 麺とワンタンの茹で上がりを待つ間、小声で折り畳み式カウンターの前に座って居る、フェア、サニー、そしてレゾナに尋ねた。


「あのよ、さっきから駐車場の入り口の所で、こっちを窺っている大男が居るんだけどよ……。まさか、お前達の知り合いじゃねぇよな?」


 俺の問い掛けに対して、レゾナが駐車場の入り口の方を見てから言った。


「私めの連れではございませんな。私めの連れは、バイソン一人だけです」

「私も存じません」


 バイソンも、折り畳み式テーブルの方から、レゾナに続いて答えた。

 俺は、フェアとサニーの顔を見る。

 すると、フェアがくすりと笑って言った。


「キー様、あの者は、私……私達の護衛でございますので、ご心配は無用でございますわ」

「はあ? フェアとサニーの用心棒だったのかよ?」

「はい、申し訳ございません。お話して置けば宜しかったですわね」

「い、いや、構わねぇよ。そうかい、あんた達の用心棒だったのか……。怪しい男だったんで、襲われるんじゃねぇかと、心配して損しちまったよ。……ったく」

「でも、キー様。私達の護衛の姿にお気づきとは、流石でございますわ」

「いや、臆病なだけさ……。良かったら此処へ呼んで、ラーメンを一緒に食わせてやれよ」

「えっ、宜しいのでしょうか?」

「ああ、構わねぇさ。フェアとサニーの用心棒なら、尚更だ」

「それでは、お言葉に甘えて……」


 フェアは、俺がそう言うと、椅子から立ち上がり、駐車場の入り口ほ方を向いてから、片手を挙げて、招くような仕草をする。

 すると、暗がりに身を隠すように立って居た大男が、此方へ向かって走って来た。

 大男が、近づいて来ると、その身体の大きさもさることながら、屋台の蛍光灯型LEDの灯りで、その姿や顔もハッキリと認識でき、俺は目を見開いてしまう。

 その姿は、まるで野獣の様な風貌で、顎髭あごひげと口の周りは髭で覆われていて、しかも長い髪の毛の頭のてっぺんには、犬の様な耳が二つにょっきりと生えていやがった。

 ポチットの垂れ耳とは違いピンとたった耳で、その耳のせいも有り、大男はまるで狼の様な風貌だ。


「キー様、私の、いえ私達の護衛をしております、レパードと申します。お見知りおき下さいませ」

「レパードだ。宜しく頼む」

「お、おう。俺は、コータだ。コータ・キーと言うんだ。よ、宜しくな」

「レパード。キー様が貴方にも、この美味しい料理を食べさせていただけるそうです。遠慮無く頂きなさい」

「はい、お嬢……フェアさん。遠慮なく頂きます」

「そうかい。それじゃ、ラーメンで良いか? それとも、肉が好きならチャーシュー麺にしてやるぞ」

「……肉は好物だ。そこの犬人族の娘が食している料理なら、俺もそれを頂こう」

「ああ、判った。あんたも犬人族なのかい?」

「いや、俺は狼人族だ」

「お、狼人族……強そうだな。まぁ、用心棒にゃ最適か……」


 俺は、フェアのワンタンとサニーの替え玉の麺を茹で終わり、それらを二人の丼へと入れる。

 そして、俺は強面の狼人族の大男レパードへ、チャーシュー麺を食わせるために、新たな麺を茹で始めるのだった。






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