第26話 1-23 味見
フェアの乳攻撃は、お代わりの飲み物が運ばれて来るまで続いた。
しかし、なんか急に積極的になったんだけど、どうしてだろうか。
そして、フェアから解放された腕に残っている乳の感触を思い出しながら、フェアお勧めの酒を飲んでみる。
これは……。少しだけ甘い香りのする焼酎だが、味は辛口だ。
確か何処かで飲んだ記憶が有るんだけど、一体何処だったか思い出せない。
いや、思い出したぞ。
これは、黒糖焼酎の香りと味だ。
高校時代の友人が、鹿児島県の奄美群島、沖永良部島へ移住して、俺に送って来てくれた焼酎だ。
黒糖焼酎は、奄美群島でサトウキビと米
友人の話では、引っ越し先が醸造所の直ぐ側なので、甘い香りが海風で運ばれてくるので、ついつい毎晩、飲み明かしてしまうとか。
毎晩の晩酌なんて習慣は無かったのだが、すっかり黒糖焼酎の晩酌が習慣になっちまったそうだ。
「この酒は、サトウキビが原料か?」
「キー様、よくご存じですわね。その通りですわ。南の地方で作られる
「やっぱりそうか。いやあ、懐かしい味だな。俺の好きな辛口だしな」
「キー様も、辛口のお酒がお好きなのですね。私も甘いお酒よりは、辛口の方が好きでございます。殿方とお酒は、辛口が良うございます」
「男は、どうでも良いけど、酒は確かに辛口が良いな」
「キー様、私めも初めて飲んだ酒ですが、確かに辛口の割には甘い香りがしますな」
「ああ、香りに騙されると、酷い目に遭うけどな。美味いだろ?」
「はい、芳醇な味ですな。これは、発酵に何を使っているのでしょうか……」
「米麹だよ。南の国だから、米も当然栽培しているんだろうけどな」
「米の発酵を利用しているのですか。成る程……米だけの酒も有るのでしょうか? 私めは存じ上げませんが……」
「有るよ。俺の屋台に積んであるから、今度飲ませてやるよ。この酒と同じ辛口の酒だけど、湯煎して温めても美味い酒だ」
「なんと、酒を温めて飲むのですか?」
「ああ、
「キー様、私もお米を原料にしたお酒は知りませんでした。……私にも飲ませていただけますか?」
「おお、良いともさ。美味い黍酒を紹介してくれた礼だ。是非、飲んでみてくれ」
「楽しみですわ……。ところで、屋台と
「そうなんだよ。しかも夜の営業をしたくてな。昼間の営業なら市場でやれるんだけど、夜の営業となると、この辺りじゃねぇと出来ねぇって言うから、今夜はどんな所か下調べに来たって訳さ」
「それは、どんなお料理の屋台ですの?」
「ラーメンって言ってな。ああ、中華そばとも言うんだけど、麺をスープと一緒に食べる料理だ」
「ラーメンですか……存じませんわ。もちろん、キー様がお作りになられるのであれば、美味しいのでしょうが、それも是非、頂いてみたいですわ」
「ああ、食わせてやるよ。とは言っても、この一帯を仕切っているって管理者の許可が出ねぇと、屋台も営業出来ねぇって話だから、他の場所に来てもらう事になっちまうけどな」
俺がそう言うと、フェアは少し考えた様子で、間を置いてから、表情を少し硬くして応えた。
「確かに、この一帯で商いを行うには、管理者様の許可が必要です。飲食店の場合、その味を吟味してからで無いと、出店は難しいでしょう」
「そうなんだってな。だから何とか、管理者と話をして、営業許可をもらいたいんだけどさ。それすら難しいって話じゃねぇか」
「でも、キー様は、この黍酒の原料を直ぐにお当てになる位に舌が肥えていらっしゃるから、お作りになる料理も管理者様が気に入られるかもしれませんわ」
「だと良いけどな。問題は、その管理者ってのが正体不明で連絡したくても、出来ねぇって事さ。ったく、参っちまうよな」
「……もし、私にキー様のお料理を試食させていただければ、お話を管理者様へお繋ぎしても宜しいですわよ」
「ええっ! 何だって! フェアは、謎の管理者と面識があるのか?」
「はい。ただし、お疑いして申し訳ありませんが、キー様のお料理を私が頂いてからでないと、ご紹介は出来ませんわ」
「よし! 良いぞ。なんなら、どうだ、これから俺の屋台で早速、食べてみねぇか?」
「……そうですわね。私も未だお夕食を頂いておりませんので、キー様とレゾナ様さえ宜しければ、是非とも頂きたいですわ」
「レゾナの旦那。そう言う訳だ。悪りけど、これから駐車場へ戻って屋台の支度をしてぇんだ。この場は、お開きって事で構わねぇかい?」
「勿論ですともキー様。ついでと言っては何ですが、私めにも又、あの麺とスープを頂けますかな?」
「ああ、いいとも。よし、そうと決まれば、早速に駐車場まで戻ろう」
「キー様、私は着替えをしなければなりませんので、少々お待ち頂けますか?」
「ああ、構わねぇよ。入り口で待っていれば良いかい?」
「店の従業員は、玄関からの出入りは禁じられておりますので、店の東側の路地の前でお待ち頂けますか?」
「良いとも、待っているから、着替えてきてくれ」
「はい。それでは……サニー、貴女も一緒に来ますか?」
「は、はい。是非、ご一緒させて下さい」
「そう、それでは貴女も着替えなさい」
「はいっ!」
「では、キー様、レゾナ様。
「ああ、判った。それと、この皿の料理とか果物、貰っていって構わねぇか? 駐車場で連れ達が待っているんで、持って行ってやりてぇんだ」
「勿論、構いません。給仕に包ませましょう。では……」
そう言うと、フェアはソファーから立ち上がり、ドアを開いてから、俺達の方をへ向き優雅にお辞儀をしてから退室した。
サニーもフェアに続いて、ドアから出て行ったが、ぎこちなくお辞儀をする。
流石にフェアの立ち振る舞いは、どこか洗練されていて、若いサニーとは違うな。
「レゾナの旦那よ、ひょんな事で、事が上手く運ぶかもしれねぇな」
「そうでございますな。いや、まさか歓楽街の管理者と面識がある娘と知り合うとは、キー様は強運でございますな」
「そうだな。でも俺自身、あんまり運が良いとは言えねぇ人生なんだけどな」
(何せ前世じゃ、屋台のお披露目会直前でトラックに轢き殺されちまった位だからな)
フェアとサニーが部屋を出て行ってから、少しすると若い女が「失礼します」と行って、薄い木の皮で出来た器を持ってきて、皿に盛られた料理を移して同じ様な薄い木の皮で蓋をする。
何の木なのかは不明だが、さしずめ日本で言えばテイクアウト用のタッパーみてぇな物なんだろう。
その木製タッパーもどきを若い給仕の女から受け取り、俺達も個室を出て行く。
一階へ下りて行き、出口の手前まで行くと、レゾナが酒代を支払ってくれている。
酒代が幾らくらいなのか、興味があったのだが支払いをまじまじと見るのも何なので、俺は先に表へ出る。
少しだけ待って居ると、レゾナがニコニコしながら出てきた。
「いや、何時もよりも支払い額が安かったので、尋ねてみると夜食を女性達に振る舞ってくれるので、その分を割り引きしてくれたそうです。はははは……」
「へえ、ちゃんとした店なんだな」
「そうなのですよ。他の店だと、こんな事はございませんからな。いや、これもキー様のお陰ですがな」
「いや、レゾナの旦那が、この店へ連れて来てくれたお陰だよ」
「いやいや、キー様の強運のお陰です」
(だぁーかぁーらぁー。俺は、前世じゃ人よりも運が悪るかったんだって)
そして俺とレゾナは、店の東側にある細い路地の前まで行き、フェアとサニーが着替えを済まして出てくるのを待った。
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