ゲームバトラー・ヴァーサス

黒木耀介

大きな背中

キカイは夢を叶える。

機械とは自己管理、己の欲を制御出来ぬ人類が生み出した世紀の大発明。

機会とは必然と偶然の折り重なりにより生まれた、運命の分かれ道。

彼らは、夢を叶えるためにキカイを生み出した。

だが、そのキカイによって避けられぬ運命を確立した。

運命が俺たちの道を決めるのなら、なぜ俺たちは夢を見るのだろう。







風は常に吹く。私たちがどう頑張っても悪い空気を運んでくる。

穴の開いたフードから一際冷たい風を感じる。しかし目の前は火の粉が舞っている。

風は見たくもない現実を運び、私たちを理想から遠ざける。


上着を体に巻き付け、歩みを進める。

だが私はどこに向かっているのかを知らない。ただ地面に生まれる大きな足跡を追っているだけだった。

歩幅は大きく、走っていないと追いつけない。顔を上げるとぼろぼろのフードがまっすぐ降りている。


「あ!」


瓦礫に躓き、顔を地面に打ち付けた。目の前の大きな背中は歩みを止め、こちらを向いているような気がした。


(泣いてるヒマは…ない)


両腕で体を起こし、擦りむいた手と膝がじんじんする。

私が立ち上がったのを見ると、また正面に振り向き大きな背中は歩みを進めた。


歩きながら、弱音が頭を駆け巡った。

早くこんな世界から逃げたい。泣きたいし、座りたいし、普通に生きたい。



私は、私たちはどうしてこんな運命を背負ってしまったのだろう。



大きな背中は足を止め、左腕を広げ私を止めた。


「俺たちが戦わなければ、運命を変えられない」


心で思っていたつもりが声に出ていたようだ。恥ずかしい。

大きな背中に隠れながら前方を確認すると、得体のしれない怪物がこちらを見ている。

町中で拾った絵本に描いてあったライオンの顔。しかし体が蜘蛛のようにうごめいている。


「ふん。面白い」


懐から腕輪のようなものを取り出し、左手首に装着した。


「下がっていろ」


顔を正面に向いたままで、私に言っているのがわかった。

左手首に何かをセットし、腕を前にクロスした。


「―――――」


風は吹き荒れて、男がなにかをしゃべっているのが聞こえなかった。


だが彼の周りには、悪い風も、火の粉も、冷たい空気もすべて巻き起こしていた。

荒ぶこの世界の中で、唯一運命を変えることができる。私も、この世界で残った人間も、この男に頼らざるを得なかった。


「リアライズ!」


これは一人のゲームをまとったヒーローと、私の後悔の物語だ。

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