もしネット婚した夫婦が思い出のMMORPGの世界に転移したら~異世界転移はロリショタ魔王を添えて~
真兎颯也
プロローグ あるゲーマー夫婦の話
第1話 ゲーマー夫婦と思い出のMMORPG①
「シゲ、夕飯できたよ」
カタカタと鳴り響くキーボードの音が、その声を聞いた瞬間に止む。
パソコンの前でその音を出していた男が、少々重い体をゆっくりと動かして振り返る。
「ありがとう、時子さん。もう少しで終わるから、ちょっと待ってて」
その言葉通り、男はキーボードを少しだけ叩くと、すぐに立ち上がって声をかけてきた女性の元へと向かった。
「今日の夕ご飯は何?」
「おからハンバーグとサラダ。味噌汁は減塩のやつ使ってみた」
「え。僕、普通のハンバーグが食べたい……」
「文句言うなら夕飯無しにするよ?」
「時子さんが作る料理は何でも美味しいです!」
この気弱で尻に敷かれてる感のある男は佐藤茂雄。つい先日30歳になったばかりで、そろそろ生活習慣病が気になるぽっちゃり気味の男である。
眼鏡の女性の方は佐藤時子という、茂雄の妻だ。茂雄とは対照的に、スレンダーな女性である。そして、色々とスレンダーなので、胸は壁である。
「……今、誰かに悪口言われた気がする」
「え? そんな声聞こえた?」
「シゲ。胸のこと言ったら殺すからね」
「言わないから、その今にも振り回しそうに包丁持つの止めよう?」
……勘のいい女性は恐ろしいな。
失礼。気を取り直して、彼らの紹介を続けよう。
彼らはどこにでもいる普通の夫婦である。
結婚三年目。子供はいないが、夫婦仲は良好。ラブラブという程ではないが、離婚の「り」の字も出ることが無いくらい仲睦まじく暮らしている。
だが、彼らには一般的な夫婦とは違う特徴があった。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした。じゃ、早速やるとしますか」
「そうだね。ギルドの皆も待ってるかも」
「いや、まだちょい早いからそんなにいないんじゃない?」
彼らは食事を終えると、ある部屋へと入った。その部屋にはゲーミングPCが2台、隣合わせで置かれている。
彼らはそれぞれのゲーミングPCの前に座ると、同じMMORPGを立ち上げた。
「ちょっと待って。シゲ、アンタどこでログアウトしたのよ?」
「ごめん、クエストの途中で眠くなってログアウトしてたの忘れてた」
「バッカじゃないの? さっさとギルドまで戻ってきなさい」
そう。彼らは両者共にゲームが大好きな、俗に言うゲーマー夫婦だった。
彼らの出会いは6年前。当時リリースされたばかりのMMORPG「シュバルツミトス・オンライン」のプレイヤーとして知り合い、たまに協力プレイするフレンドだった。
同じギルドに入り、より協力プレイをする機会が増えたことで互いに意識し合うようになり、出会いから約半年後に行われたオフ会で連絡先を交換、更にその半年後に交際を開始した。
そのまま交際は順調に進み、3年前にめでたくゴールインしたわけである。
さて、話を今に戻そう。
彼らは今、その思い出のMMORPG「シュバルツミトス・オンライン」をプレイしている。
約6年間続いたこのゲームも最近では人気が下火となり、今日をもってサービス終了が決定していた。
夫妻は結婚した後もこのゲームをプレイし続けていた。今のパートナーに出会うきっかけとなったゲームなだけあって、思い入れも深い。
故に、彼らは今日、ギルドメンバーと共にサービス終了カウントダウンイベントに参加する予定なのだ。
「ようやく戻ってこれた……」
「お疲れ。ギルメンもう来てるわよ」
「あ、ほんとだ」
夫妻が付けているヘッドホンから、様々な人物の声が聞こえてくる。
ゲーム内ボイスチャットで話しかけてくる彼らは、夫妻のギルドメンバーだ。人気が下火になった今では全員集まることはほぼなかったが、サービス終了日なだけあって、今日は全員集合しているようだった。
「お! 旦那降臨!」
「ようやく最強夫妻揃いましたねー」
「つかバラバラで行動するんだぁ」
「いつも2人でいるイメージ強いよね」
「私達だって単独行動ぐらいするわよ。で? カウントダウンまでにはちょっと早いけど何するの?」
「いや、ここで駄弁ってようかなーと思って集めたんだ」
ギルドマスターの男がそう言ったと同時に、1人のメンバーが声を上げた。
「なあなあ、なんかボスが弱体化してるって情報が入ったんだけど!」
「え、マジ?」
「どうやらマジみたいっすよ。しかも、レアドロップしまくりのウハウハ状態らしいっす」
その瞬間、時子の眼鏡が光った。
ニヤリと笑って眼鏡を上げる仕草は彼女が良からぬことを考えているようにしか見えない。
「……アイル」
「わかってるよ、クロノさん。行くのは大罪エリアだよね?」
「もち。ポーション類は?」
「あるよ。装備もバッチリ」
「そう。じゃ、行こうか」
時子がそう言った瞬間、ギルド内が沸いた。
「最強夫妻が動いたぞ!」
「つか大罪エリアってラスボスステージじゃん」
「あそこも弱体化してんのか?」
「まだ情報ないから誰も行ってないっぽいね。実況よろー」
そんな感じで送り出された夫妻は、2人だけで大罪エリアへと向かった。
ここで、大罪エリアという場所について説明しておこう。
このエリアには「大罪の悪魔」と呼ばれる7体のボスキャラが存在する。そのボスキャラ達は名前の通り「7つの大罪」の名を冠しており、冠する大罪に関する能力を持つ。
彼らは他のエリアのボスより強く、また能力も厄介でそれぞれ対策を練らなければ勝てるような相手ではない。
そして、彼らを全て倒すと、このゲームのラスボス――「魔王」へと続く道が開かれる。
「魔王」は「大罪の悪魔」を統べる者という設定で、彼らよりも段違いに強く、このゲームで最高難度と呼ばれる敵だ。
夫妻がそのエリアに着いた時、既にゲーム終了まで残り1時間となろうとしていた。
当然、通常時であれば1時間弱で倒せるような敵ではない。
しかし、運営のお遊びなのか特別サービスなのかは不明だが、他のステージのボスキャラは全て弱体化されているという。
どの程度弱くなっているのかわからないが、彼らはレアドロップ狙いで大罪エリアのボスキャラ達とラスボスを何度も倒している。更に、周回効率を上げるため試行錯誤した結果、全ての「大罪の悪魔」と「魔王」を倒すのにかかる時間を約2時間半にまで縮めていた。
「それじゃ、最後のレアドロップ狙いのタイムトライアル、始めるわよ」
「了解!」
かくして、彼らの戦いは始まったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます