第22話 西洋の神を日本で探す
むかしむかし、明治の頃、西洋人が日本へやってきて神を探した。
西洋人は、
「全知であり、全能であり、あらゆる束縛から自由なものを探している」
といった。
「いや、そういうものなら日本にたくさんあるからなあ」
と現地の日本人は困った。
「日本は多神教だからねえ」
日本人は渋った。
「不死であり、永遠であり、誰よりも高貴で、誰よりも偉大なものである。そういうものを見たことがありますか」
と西洋人は聞いた。
「そういうものなら、この村にもいるし、隣村にもいる。東京へ行けばもっといる」
「彼は、宇宙を創造する。彼によって宇宙が始まり、彼によって宇宙がつづき、彼によって宇宙が終わる。そういうものを探しているんです」
「ええ、それです、それです。おそらくあなたたちの神はこの村にいます」
日本人がそういうと、西洋人は驚いた。
「まちがいがないか、よく確認してください。もし本当に彼が見つかるなら、それはとんでもないことなのです。もっとよく確認してください」
「どんな人でしたっけ」
「彼は、宇宙の目的、人類の目的、道徳の目的を決めるものです。彼は、絶対者だ。彼は、あなたの守護者であり、世界の統治者であり、宇宙の支配者です。本当に、あなたの村にいますか」
日本人は集まって相談した。
「西洋人のいう神って、三日前までいたあいつじゃないか」
「おれもそんな気がする。三日前にあいつなら村から出ていってしまったぞ」
「困ったな。なんていう」
日本人は西洋人にいった。
「やっぱり、神はちょっと前までこの村にいましたよ。でも、たぶん、追いかけても無駄だと思いますよ」
「いえ、神の探索は、人生をかけて、民族の存続にかけて重要なものなのです。確認しますが、その神は、万物によって祝福され、万物によって礼拝され、万物によって献身されていましたか。彼はあらゆるものに遍在しているので、わたしの中にも彼がいて、あなたの中にも神がいることになります。しかし、わたしたちは、ぜひ、彼の本体に会いたい。協力してくれますか」
「協力するっていわれても難しいですよ。彼が見つかるかどうか」
「あなたが神を探すことは、同時に神があなたを探すことでもあるのです。だから、見つかるはずです」
日本人は懇願する西洋人に答えていった。
「あなたたちのいう神は、三日前までこの村にいました。神は三日前に東に向かって出港して、船が大破して水没しました」
西洋人は困った顔をした。
「どうする。このまま海に水没した神を探すか」
西洋人同士で相談が始まった。
「彼は、宇宙の中にあって、宇宙を調べるだけでは見つからない隠れた存在だ。隠れた存在である彼が見つかったのは、その理由を理解することは、おそらくどんな人間にも不可能だ。水没した神は、何か意図があったにちがいない」
「報告しよう。永遠が見つかったと本国に手紙を」
「わたしには書けそうにない。きみが手紙を書いてくれ」
「どう書けばいい。水没した神について」
「すまない。わたしの信仰が途切れそうだ」
「あきらめるな。しかし、今こそ神に祈ろう」
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