第13話 中世イタリアの半球世界
機械学あるいは工学は最も崇高で他の一切の科学を超えて有用である。
by レオナルド・ダ・ヴィンチ
解剖、遠近法、構図、輪郭、運動と表情、衣服、モノクロ、色彩、光と陰影、ぼかし、厚塗り、風景、
1、解剖
十五世紀、イタリアで。
「神さまの頭まで解剖しなければならないごとくに」
と、レオナルド・ダ・ヴィンチが書いている。
彼が本当に神の頭部を解剖した可能性にかけて、日本の外科医はダ・ヴィンチを外科医ロボットの名前に当てている。
2、遠近法
レオナルド・ダ・ヴィンチは手記の中で、東方旅行中に預言者を発見したと書いている。もしそれが本当なら、いったいどんな預言者がどんな預言をしたのだろうか。
もし天上にも空気が存在し、天体が空気との摩擦で減速するのなら、おそらく天上の星は中世イタリアに落下してくることだろう。
ダ・ヴィンチはそのことに気づいていた。ダ・ヴィンチが発見した預言者ジロラモ・サヴォナローラは、天体の落下と格闘したのだ。
天体が空気との摩擦で音を鳴らす。ダ・ヴィンチは鳥の飛翔を解剖によって研究して、飛行機を製作していた。もし、ジロラモがそれに乗って天上へ行ったのなら。
3、構図
この絵画は、天上の創造主の視点から見た地上の肖像画である。
絵画の視点が天上の神にあるといっても、画家であるダ・ヴィンチが天上からこの絵を描いたというのはあやまりである。しかし、もしかしたら。
4、輪郭
リザ・デル・ジョコンドの顔は整っていて穏やかだ。
ダ・ヴィンチがそれを天上から眺めて描いたということはないだろう。
地上の被写体。
ダ・ヴィンチの肖像画というと、「最後の晩餐」か、あるいはこの案外有名な女性ということになるだろう。最後の晩餐の人物たちは神性を帯びているが、この女性の方は平凡なイタリアの婦人である。
創造主が愛でるのは、とびきりの美人ではなく、醜いものにも配慮したそこそこのひかえめな美しさだといわれている。ダ・ヴィンチの審美眼は否や?
5、運動と表情
彼女は、絵画が完成するまでの七年間、普通に暮らしていたのではないだろうか。彼女は普通に飲食して、就寝し、料理や買い物などの家事も行っただろう。七年間も絵画の製作に関わって、画家と何にもないはずがないだろうという人もいるかもしれないが、そのようなまちがいはないことを画家と御婦人とその亭主の名誉にかけて、ぼくは主張したい。しかし、あるいはもしかしたら。
6、衣服
モナリザの肖像画における衣服は、黒色の落ち着いた衣服である。七年間、ずっと同じ服を着ていたとは思えないので、モナリザは同じ服を何着ももっていたと考えるのが、洗濯について常識的に考えられる推理である。
7、モノクロ
ヒトとは異なる色覚をもつ神の棲む天上は、はたしてそこはどんな色で彩られているのか。わずかなりとも可能性として、モノクロというのもありえるとぼくは主張したい。あるいは、もしかしたら。
8、色彩
天上に向かったジロラモを地上から見上げるダ・ヴィンチとモナリザ。
地上には神に許された色の数のなんと少ないことか。
ダ・ヴィンチは、モナリザの肌を黄色くぬっている。それがダ・ヴィンチの配色だ。そこに人種的批判を持ち込むのはやめた方がよいだろう。確かに、モナリザの肌の色で戦争が起こるかもしれない。画家ダ・ヴィンチはそのことを考慮して描かなければならなかったのは、おそらくそうだろう。
9、光と陰影
神の光と、ダ・ヴィンチの光。
神の光は地上に降り、ダ・ヴィンチの光は絵画に降る。
あるいは、もしかしたら。
ダ・ヴィンチの絵画世界では、光の法則はダ・ヴィンチによる。
10、ぼかし
モナリザを描いたダ・ヴィンチの筆致は、ぼかしという技法である。
預言者ジロラモは天上で、天体の落下と戦っていた。地上のダ・ヴィンチが描いている肖像画よりも、ありえないほど素晴らしい絵画がおそらく天上にはあったのだろう。人類史上最高傑作といわれるリザ婦人の肖像画より遥かに優れた絵画が天上にはあったのだろう。ジロラモはそれを見たのだ。ダ・ヴィンチは見ることができなかった。ジロラモは、ダ・ヴィンチより優れた画家に天上で会った。
11、厚塗り
ジロラモが天体の落下を防ぐべく、支柱を組んでいる。
地上のダ・ヴィンチも星々の落下を防ぐべく肖像画を厚塗りする。
リザ婦人も作品の完成を待って心躍る。
12、風景
風景。
最後に描くもの。
おまけであって、それに熱中することもある。
なぜか、天上の神も、生き物を造るよりも、その後で風景を造ることに熱中してしまい。
ヒトより風景の方に、地球では熱心に造り込まれている。
13、未完
レオナルド・ダ・ヴィンチは、肖像画「モナリザ」を七年に渡って描き、未完成のまま亡くなってしまった。あるいは、もしかしたら。
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