第1章 1.反逆のルルー氏現る
「おはよう!寝癖ついてるよ。」
「ほっとけ、そういう髪型だ。」
彩芽は冬休み中に引越し、今日は2619年最初の登校日だ。
「休み明けから新婚プレイとはかますなぁ。」
新年初日ということで3人で登校することになったのだが、どうやら初っ端からヤキモチ妬いてるらしい。ちなみに《転移魔石》はめちゃめちゃ高いので学校行のものは持ってない。
「ネクタイ直してくれたらもっと良かったけどな。」
赤面してムキになると墓穴を掘るので、ヤキモチくんには適当に相手する。最近はみんな「テキトー」と言う言葉も使うのでコミュ力の乏しい俺は判断に困る。ちなみにさっきの「適当」は両方の意味よ!テキトーにやるのが適当な対応。めんどくさっ。
「だそうですよ、彩芽さん。ニヒヒ。」
おちょくるんじゃねえ和希。
こいつイケメンなくせにモテ度がまあまあ止まりなのはこの性格が原因か。今後も続けてくれたまえ。
「ぅ、うん……。」
彩芽は恥ずかしそうに顔を赤め、そっと俺の制服のネクタイを直した。
これから毎日ネクタイずらしてくる!
※※※
放課後、いつもの3人でギルドに集まった。
このギルドはバーも併設されている。バーと言っても飲み物はアルコールだけじゃない。オレンジジュースやミルクだってある。
俺達はそのバーの、お馴染み窓際4人席に座って話す。
「凛ちゃんはどこの学校に通っているんだい?」
凛は小6だからうちの学校、都立エルスタ学園にはいない。初等部がないからな。
和希の質問に彩芽が答える。
「近くのエルスタ中央学院の初等部に通っているわ。」
「
またも和希は訊く。おまロリ?
そう、都エルには大学部がない。必然、高等部を卒業したらエル中の大学部を受験する。
「なんか違うらしいよ~。私たちがこっちだからって来年から都エル来るらしい。」
エル中に通えているなら特に勉強せずとも都エルには受かるだろう。来年が楽しみでやんす!……俺がロリでした。
「《AKAZUKIN》の皆様、たいへん長らくお待たせ致しました。それでは火星に出発でございます。」
クラン名は《AKAZUKIN》に変わった。彩芽曰く、「YUUMA」の「U」が「AKAZUKIN」の「U」らしい。実質なんも変わらんだろ!共通言語を日本語にしたときなんで英語消さなかったんだ!ちなみに理由は「略称作る時便利だから。」だったらしい。JKか。まじ昔の学者UNK。あ、「ウケるんですけどw」な。うんこじゃないぞ。
ギルドの(ボンッキュッボンッな)(金髪の)(優しそうな)(お姉さんタイプの)受付さんが案内をしてくれる。(オタク特有の早口)(クチャクチャ)(アデダスの財布)(親が買ってきたチェックシャツ)(ダボダボのジーパン)(修学旅行で木刀購入)(午前の紅茶)(ブーマの筆箱)(指紋でベタベタのメガネ)(プリハラでマジ泣き)(ワキガ) (ドラゴンの裁縫セット)(瞬速)(コーナーで差をつける)俺と、(イケメン特有の話術)(キラッ)(ルイ・ビトンの財布)(彼女と買ったパーカー)(ダメージジーンズ)(修学旅行で告白)(コーカ・コーラ)(ドン・キホートェの筆箱)(ホコリひとつないメガネ)(デイズニーで感動)(シーブリーフの香り)(友達とおそろいの裁縫セット)(オールドバランス)(ストレートで追い抜く)和希たちはこれから火星に行く。
ちなみに和希に彼女はいないし告ったこともない。逆はたくさんあるらしいがな。ケッ!
火星には上級者向けの、より高難易度のクエストが多い。が、その分当然報酬も高い。この前ランク100を超えたので、上級者の腕試しになるようなクエストを求めて火星に行くのだ。火星に行ける唯一の手段である《どこにでもドア》はギルドにしかない。だから順番を待っていた。
※※※
「おお、ここが火星か。金の匂いがすげぇ。」
「もう、裕真くんったら。」
彩芽がクスクスと笑う。でも初めて来たんだし良いじゃん?
「あっちがメイフェア地区でこっちがボールスブリッチ地区よ。メイフェア地区はオシャレなお店がたくさんあって、洋服を買うのにもってこいね。ボールスブリッチ地区は美味しい料理が多くて……。」
「さては彩芽、ちょくちょくこっち来て遊んでるだろ。」
俺がジト目で尋ねるとギクッとしたのでおそらく間違いない。口笛まで吹き始めたぞこやつ。ここも顔パス効くのか……。
火星は隅から隅までセレブ街なのだが、それぞれの地区は古い都市の名を借りているものが多い。六本木や銀座なんて地区もあるらしい。
「さっ、ちゃっちゃと選んで凛ちゃん連れてひと狩りいこうぜ!」
和希が爽やかに言う。おお、久しぶりにこいつ爽やかになったな。
「裕真は楽なやつしか選ばないから2人で選ぼうよ。」
和希が彩芽を誘う。
そうかいそうかいああ爽快。んなわけあるかくそ不愉快だわ!巧みな話術で二人きりになりやがった。ナンパ師予備軍だなあいつ。
※※※
仕方がないので近くの本屋で立ち読みをしていることにした。セレブ街で立ち読み……。いや、庶民派の俺をみんな讃えるべきだ。敬え尊べ奉れ!裕真教(狂)信者募集中!脳内で貢がせる金額を考えていると、2人が戻ってきた。よく本屋にいるってわかったな。
「おまたせ!裕真くん。さ、行こっか。」
なにその彼女風な言い方。思わず手つなごうとしちゃったじゃん!おい和希俺の手の動き見て察して笑うのやめろ。
※※※
「あ、お疲れ様です!」
地底に帰ると凛がお出迎えしてくれた。
「凛、ちょうど良かった。今からクエスト行くの、一緒に行こう。」
「はい!お姉ちゃん!」
うはーシスコン妹すこー///。あとは俺をいじってくれるドS姉さえいれば……。
「何気持ち悪い顔してるの。速くしないと置いてくよ?」
あー彩芽に引かれた……。どうせなら惹かれて欲しい。
※※※
ゲートを通り、地上へ出る。
「今回のモンスターの生息域は少し遠いからこれで行きましょ。」
そう言って彩芽が、普段とは別の方向へ指を指す。その先10mには、底面が1m四方で高さが2mくらいの透明なガラスに覆われた細長い箱があった。この前これと同じものを歴史の教科書で見たな。電話ボックスとか言ったっけ。
「電話ボックス?」
和希も同じことを思ったらしい。
「これは《設置型転移魔石》よ。持ち運びできない代わりに普通のより遠くまで行けるの。もちろん、《どこにでもドア》には敵わないけどね。」
地上は、約200のエリアに別れている。これは昔の「国」というわけ方がそのまま使われているらしい。といっても、《設置型転移魔石》を例のドローンによって運んだだけであり、実際には地下と地上を繋ぐゲート付近、強いモンスターが多く生息する赤道付近以外はほとんど開拓されてなく、現在も特殊機関による様々な調査が行わている。
「お姉ちゃんとやるときはよく使うんですよ!」
と凛が付け足す。そういうこと言うと百合しか頭に思い浮かばないので「やる」の目的語を言ってください。
※※※
「うっ、これ酔うな……。」
「慣れるまではそうかも。」
「なんだ裕真もうバテたか。これ結構楽しいじゃないか!」
「あ、ですよね!今度、用もなく乗りましょ!」
気持ち悪くなった俺に苦笑いする彩芽とスリル系アトラクションバリに楽しむ御二方。いや用なくはやめとけ。
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《設置型転移魔石》はボックス内に1人ずつ入り、転移場所を指定したのち瞬間移動する。問題なのはその瞬間移動中の一瞬の揺れだ。コーヒーカップでぐるぐる回る感覚に似ている。おえぇ。
ゲート付近は地面が凍っていたり、荒地になっていたりするが、変わってこちらは比較的暖かいためか草が多く、近くには大きな川も流れている。ちなみに、俺達が着てる服は予め各々が設定した温度を常に保ってくれるため、いつも快適である。
地上は酸素が多いため呼吸しか出来ない。そのためご飯を食べるために小休憩し、俺達は目的のモンスターを倒すべく敵感知センサーを起動させる。これは《プレイヤーカード》アプリの1機能で、特定のモンスターの位置などを細かく教えてくれるものだ。もちろんこの世界に無数に飛んでいる株式会社KADOWAKI製超小型透明ドローンの情報を得て起動しているので性能はかなり高い。
下のメニュー欄から地図を開き、みんなで確認する。
「あ!ここにいるみたいですよ!」
凛が見つけてセンサーの画面の赤く点滅している位置を示す。
「どんなやつか見てみよう。初見縛りはまだ怖い。」
上級者になったばかりなので一応様子を見ておきたかった。センサーは、ドローンの映像をリアルタイムで映してくれる。
すると和希が
「あれ?なんか人がいないか?」
という。
確かにモンスターとかなり近い位置に1人、人間のような生き物が見える。
「本当ね、でも武装はしてないみたい。なんだろう、縛りプレイかな。」
それ「武器なし縛り」とかそういう意味なんだろうけどなんか興奮するよね、女子が言うと尚更。はぁん///。
「あ!裕真さんがまた変な顔してます!」
凛様もう辞めてください。ゅぅま泣ぃちゃぅ。
「にしてもおかしいな。まるでモンスターの方が怯えてるみたいだ。」
やはり和希もそう思うか。なんせモンスターが後ずさりしているのである。
「とにかく、行ってみよう。クエスト横取りされちゃ火星まで行った交通費が無駄になる。」
一人暮らし特有の
「そこなんだ……。」
彩芽が呆れる。いや大事だよ!?
※※※
「すみませーん。そのモンスター、私達のクエストで討伐するものなんで、離れていて貰えませんかー?」
《フライングウィング》で飛びながら和希が大声で言う。
《フライングウィング》は電動の翼で、見た目はリュックサックに翼を付けたようなものだ。やはりリュックのように背面から伸びている2本の紐を腕に通し、背中に本体が来るように装着する。
リュックでいう収納の部分は、電気を貯めたりエンジンがあったりと中枢機器がある。最高速度はマッハ20だ。殺先生かよ……。だが、彼ほど上手くコントロール出来る仕様ではないため戦闘には向かず、主にキロ単位で移動する時に使う。500mのときは走るので超辛い。誰か新しいの作って!
モンスターの近くには先程センサーで見かけた男がいた。黒に近い茶髪の優しそうな顔で、四角いメガネと綺麗に流されている前髪は彼を真面目な、そして知的な印象を思わせる。スーツの上に白衣着ているのもあるだろう。
「*$>^‰@☆-」
4人揃えて疑問を言葉にする。
「「「「え?」」」」
モンスターの近くにいた男が話したそれは、明らかに日本語ではなかった。いや津軽弁とか博多弁でもなかったよ?
俺達が困っていると、その男は咳払いし、
「すまない、今はもうこの言葉を使っている人達は我々しか居ないのだったね。」
落ち着いた声音で彼は言う。メガネをクイッとする仕草が妙に似合う。
何を言っているのだろうか。言語はもう200年も前に統一されたはずである。
「私はルルー。地上人代表だよ。悪いがこの子は今おしおき中なんだ。この場を去ってもらえないかな。」
と、男は言いながらモンスターを指して、ほら、覚悟を決めている顔してるでしょ、と付け足す。優しそうに笑う顔は安らぎのオーラを放ち、思わずこちらも笑い返してしまいそうになる。だが、伊達にぼっち生活を送ってきていない。和希とは同じクラスになったことが幼稚園生の頃から1度もないため、自然とひとりだった俺は、他人の言葉や仕草、表情から裏を読むのが癖になり、いつしかその裏が外れることはなくなっていった。その俺の本能が叫ぶ。こいつは危険だ。近づかない方が良い。彩芽、和希、凛の3人は、やはり笑い返し、とはいっても……と反論を試みようとしている。
刹那、右後方から叫び声が聞こえた。
「しゃがめ!!」
甲高い、おそらくは強気の女性の声であった。
!?咄嗟に俺たち4人は頭を抱えそのまま座り込んだ。その次の瞬間、俺たちの頭上をカプセル上の何かが飛び、ルルーの手前で爆破した。スモークを炊くものだったらしい。すごい勢いで白い煙があたりに充満した。すると見えない視界の中で、ネクタイを掴まれた。あー!彩芽に直して貰ったのに!
※※※
気がつくとゲート前に転移しており、男性数人が俺たちの前には立っていた。さっきの声の主は見当たらない。
「危ないところだったわね。」
また女性の声が聞こえた。先程並の覇気はないが、どこか静かな威圧感を感じないでもない声だ。
すると、被っていた透明マントを脱ぎ、一人の女性が現れた。周りの男性の様子から察するに、この集団のボスであろうか。なるほど。どうりで見えなかったわけだ。
軽くウェーブのかかった紅色の髪をゴムでまとめあげていて、どこか大人を感じさせるような人だった。不二子ちゃーん♡が着ているような黒いキャットスーツを来ていたり、ツリ目だったりと割とキツめな正確なのかもしれない。またドM感性が疼く!
透明マントの構造はおそらく超小型透明ドローンと同じだろう。レンズとスクリーンが同じで、その360度カメラで写し取った映像をそのままスクリーンで映しているのだ。だから透明に見える。実際にドローンに触れられないのは、彼らが持つ熱感知センサーなどで俺たちの接近を感知するからだ。
「あ、ありがとうございます。」
ちっともさっぱりわからんが、危ないところだったらしいので一応礼は言っておく。
「あの、みなさんは、どういった方々なんですか?それに危ないって……?」
状況が掴めてないのは彩芽も同じらしい。珍しく困惑している。
「ああ、紹介が遅れたね。あたしはオリヴィア。《GEIO》の諜報員さ。あの男どもはあたしの部下だ。」
え、諜報員とか言っちゃっていいんすか。心の中で呟いたつもりだが、聞こえていたらしい。それとも諜報員レベルになると顔から心情が読み取れるのだろうか、オリヴィアが答える。
「大丈夫さぁ、君たちを信頼しているからね。それに、君たちにはこれからあたしたちの仲間になってもらう必要がある。」
「信頼される理由がわかりませんが……。」
和希の言う通りである。見ず知らずの中学生をどう信用しろというのだ。親友の恋愛事情すら誰かの恋バナのネタの出汁にするようなやつしかいないのに。野球部の田中め、許さないからな。そう、あれは俺が修学旅行の班決めで、人数が1人足りない班に入って過ごした日の夜だった……ってもう黒歴史は語らないぞ!
「ギルドでの活躍は聞いているよ、新城さんとこの姉妹に、凄まじい勢いでランク上げる若青年二人の新設クラン。期待の存在だよ。」
ほえい、俺ら知名度あんのか。驚きすぎてヨーグルトの上の部分出ちゃった。
「でも、活躍がそのまま信頼に繋がるわけでは無いのでは?」
俺は思っていた疑問を口にした。世の中腹黒いやつなんて腐るほどいる。野球部の田中とか。
「そうだねぇ、でも強くなりすぎて毎日風俗に通ってるプロややそこら辺のモブプレイヤーよりは君たちの方が頼りになるんじゃなぁい?」
聞きましたか!?ぼく、モブ卒業しました!ちなみに童貞は(ry。
「それに最悪、今回助けたことを理由に無理やり手伝わせればいいさ。」
さらっと怖い事言ったよ、手伝うの確定事項だよ。
「あ、その助けたとはどういうことなんですか?」
今度は凛が問う。
そういえばまだ聞いてなかったな。たしかに危険なクエストではあったが、なにも逃げ出す必要はなかったはずだ。
「ああ、あのルルーとか言うやつ、地上人とか抜かしたろ?生き残りなんだよ。」
い、生き残りって……?
「い、生き残りってまさか!」
「そう、その通り。200年前、地上に残された人達のさ。」
頭が良い彩芽は直ぐに察した。オリヴィアも肯定する。
「残された人の殆どが発展途上国の人々やスラム街の住民だったけどさ、中には
ことが重大すぎて理解が追いつかない。
すると、どこからか聞きなれた声が聞こえてきた。
「ギルドより連絡です。ドローンが危険生命体を察知しました。直ちに全クエストを終了し、全てのプレイヤーの強制転移させます。繰り返します。ギルドより……。」
恐らくドローンにスピーカーもついているのだろう。だからすぐ真横で言っているような感覚になる。耳元で囁いてくれないかな///
俺達はギルドに戻った。
「オリヴィアさん、久しぶりです。とうとう、この日が来てしまったんですね……。地上人が動く日が。」
そう言って、ギルドの受付さんは、いつもの愛らしい笑顔など見せず、深刻な顔つきで話し始めた。
アースクエスト! ワイTUEEEE @taka_0828
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