航時言語学

禾本一郎

第1話 そんなことあるんですか?

 彼、@UotasSoftのことを知ったのは一年ほど前だった。私は言語に興味があり、SNSでも言語の話ばかりしていたら、自然と同じような趣味を持つフォロワーが多くなっていったのだが、彼もその一人だった。

 彼は日本語の歴史に興味があるようで、よくその関係の話をしていた。私にはまったく理解できなかったが、ほかのフォロワーと「日琉祖語」や「上代特殊仮名遣い」について論じ、千年以上前の日本語で会話しているのを見ると、自分も議論に参加したいと思い、私は論文や個人のウェブサイトを読み漁った。

 やっとフォロワーの話について行けるようになった頃、@UotasSoftは重大な発見をしたが、突飛すぎるので一部の人に意見を聞いてから発表したいと言った。すぐに私のアカウントにメッセージが来た。

「私の説について意見を聞かせていただきたいのですが,よろしいですか。」

「いいですよ^^」

「ありがとうございます。突然ですが,琉球祖語では,*duと*zuが中和していることはご存知ですよね。」

「はい」

「これは現代日本語に似ていると思いませんか。結論から言うと,私は,琉球祖語は,未来人の話す日本語の一種がもとになっていると考えます。」

「えっ

 そんなことあるんですか?

 未来人の言語が琉球祖語に?」

「そうとしか考えられません。これから根拠を説明します。」

 やはりこの人は危ない人だ。私はこの瞬間確信した。

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