14.四人目

「セーリオ・リッター、一年。代々王家に仕える騎士家の三男で、当人も騎士を目指している。しかし小柄で童顔という騎士らしくないその容姿から『騎士界のアイドル』と呼ばれおり、現状に不満を持っている。成績は武術も学術も中の上。イケメンセンサー的には将来に期待大」


 年下の可愛い男の子、いわゆるジャニ系ってやつね。

 私はタイプじゃないけど、ジャ○ーズにハマってる友達は多かったわ……。

 セーリオ君もどうせなら歌って踊れる騎士を目指したらいいのに。


「もう本人かおも見てきたのね」


「見た見た! ものすんごい美少女!」


「び、美少女って……」


 レジス様と同じく、隣に並びたくないタイプな予感がするわ……。


「ハァ……すごく気が進まないけど……様子を見に行ってみるわ……」


「うわっ、テンションひくっ!」


 テンションも下がるわよ……。

 ただでさえ十代は恋愛対象外だっていうのに、そんなに可愛いんじゃ……完璧に範囲外じゃない。


「そんなに気が進まないなら止めとけばいいのに」


「ダメよっ! それとこれとは別なのよっ!」


 だって騎士界のアイドルよ?!

 攻略対象の可能性をビンビン感じるわ!


「もう……しょうがないなぁ、シェリーは」


 近頃じゃ何度見たか分からない呆れ顔で、放課後の案内を買って出てくれるラフィだった。




***




 放課後の訓練場は黄昏たそがれた雰囲気を漂わせていた。

 自主訓練に励む生徒はまばらで、既に帰ろうとしている者もいる。


 そんな中、一際ひときわ熱心に剣を振るう男子生徒がいた。


「あの子よ、薄ピンクの髪の子」


「うわぁ、ひと目で分かっちゃうわね……」


 むさくるしい男共の中で異彩を放つ愛らしい相貌そうぼう

 疲れ果てて苦悶の表情を浮かべているにもかかわらず、それが醜く歪むことはなかった。


「ホントに美少女じゃない……えっ、男の子よね??」


「正真正銘、男よ。あ、ホラ……」


 美少女セーリオ君は上の服を脱ぎ去り、その上半身をあらわにした。


 ……紛うことなき男だわ。

 というか意外と男らしいわね、動作が。


「ギャップがイイ……とも言える、かしら?」


「そうだねー。見た目に反して中身は熱血っていうか、真面目な騎士家らしい性格って感じだよ」


「あら、そうだったの」


 それなら大丈夫そうね。

 これで「ふえぇ……ボクだって、男だもんっ!」とかいうタイプだったらどうしようかと思ったわ。


「それにしても、今回はどうしようかしら……」


「え?」


「この手のタイプはちゃんと攻略したことないのよね」


「タイプ? 攻略??」


 フルコンプのために攻略したことはあるけど、三週目四週目あたりだからストーリーはスキップスキップよ。

 もはやスチルとエンディングを埋めるためだけにやってたわ。

 だからキャラとしては分かるんだけど、ストーリーの方はさっぱりなのよね~。


「よく分かんないけど、ノープランってこと?」


「そういうことね!」


 見ず知らずの後輩と知り合いになるテンプレって、どんなのがあったかしら。


「今回こそ普通にいけば? 変なこと考えてたら、前みたいにケンカになっちゃうよ」


「んもう、だからケンカなんてしてないってば。あの痴漢と出会った時だって――」


「――痴漢とは、まさか俺のことじゃないだろうなぁ……?」


 噂をすればなんとやら。

 振り向けば、嫌味なほどのサラサラ黒髪ヘアーをかきあげるレジス様がいた。


 相変わらず『俺様ドSの王子様』っぷりがオーラになって滲み出ているわね。


「レ、レジス様!」


「まぁレジス様、お久しぶりですわぁ~! ちょうど今、貴方様の話をしていたところですのよ!」


「なんだその取って付けたような喋り方は! 前と違いすぎるだろう! というか痴漢呼ばわりしたことを認めたな?!」


 あら、前の喋り方のほうが良いの?

 ちゃんと王子様扱いしろ的なことを言ってたのに、勝手ねぇ。

 『俺を王子としてじゃなく……レジスとして見てくれるのは、お前だけだ』ってやつかしらね。

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