9.二人は仲良し
「個人メモはそれぐらいかな。あとね、この二人ってばすっごい仲良しなんだよ」
「あら、正反対なタイプなのに友達なの?」
「幼馴染らしいよ。苦手な部分をお互いにカバーし合ってる、って感じかなー」
そう言われてみれば、正反対だからこそ相性が良いのかもしれないわね。
私とラフィだって、正反対のところもあるもの。学術の成績とか。
なるほど……二人とも攻略対象ね!
一部の薄い本じゃ、主人公(女)そっちのけでこの二人がイチャついたりするやつよ!
性格イケメンで人気者のゲラン君と、それを遠くから見つめる日陰者のシランス君。
「そこがお前の良いところだけど、俺は……」と心中は穏やかではなく……。
――ハッ!!
違う、そっちじゃないわ。
思わず妄想があらぬ方向へと走るところだったわね……。
二人ともシェリーの逆ハーに入ってもらわなきゃいけないんだから、ダメよ!
「うん、良いわね。二人とも候補に入れるわ!」
決して、仲良くしてる二人を見たいからとかじゃないわ!
「じゃあ、明日にでも本人を見に行ってみる? 二人とも別のクラスだけど、教室に行けばすぐ見れると思うし」
「そうね、また明日の放課後にでも行ってみるわ。ラフィも一緒に来る?」
「うーん……心配だしついて行こうかな……」
前回、私が痴漢に遭ったから心配してくれてるのね。
優しいわね、ラフィ!
「今回の二人は大丈夫だと思うんだけど……」
二人はそういうキャラじゃなさそうだものね。
「でもラフィが心配だって言うなら、後ろで見てるといいわ。その方が安心でしょ?」
「……うん、そうする。一緒に行くよ」
「じゃあ明日、授業が終わったら突撃よ!」
作戦会議が終わり、少し雑談を楽しんだ後にラフィの部屋を後にした。
さぁ、寝る前に明日のイベントをしっかりシミュレーションしなくっちゃね!
***
翌日の放課後。
私達は予定通り、ゲラン君とシランス君のいる教室――二年Bクラスに来ていた。
私はまだ二人の顔を知らないから、入り口の扉から教室の中を
「どう? 二人とも、いる?」
「いるいる! あそこの二人だよ」
ラフィの指す先を見ると、席に座りながら楽しそうに雑談をする二人の男子生徒がいた。
まぁ、笑ってるのは一人だけなんだけどね。
前情報から察するに、笑ってる方はゲラン君。
ほどよく日に焼けた肌といい、刈り上げられた明るい赤髪といい、中々の好青年っぷりがにじみ出てるわ。
対して、クスリとも笑っていない方がシランス君ね。
インドア派らしい白い肌に、目にかかるほど伸ばされた暗い緑髪。
見た目までゲラン君と真逆ね……。
「友達と喋ってるのにあの仏頂面……なかなか手強そうね」
「うん、シランス君は手強いと思うよ。イケメンだから好きになる子も多いんだけど、みんなソッコーで諦めるか振られるかだもん」
「なるほど……」
鋼のメンタルが必要なわけね。
任せてちょうだい! こちとら足せば五十年ちょっとの人生のベテランよ!
「でもどちらかと言えば、ゲラン君の方が手強いかもしれないわね」
「そう? すぐ友達になれそうじゃない?」
「友達にはなれると思うけど、数多くいる女の子の中から私だけを……ってなると、別じゃないかしら」
「あぁ、競争率高いよね~。しかもあれだけモテてるのに誰とも付き合ってないみたいだし、言われてみれば難易度高いかも?」
そうなのよね……ああいう普通にモテるタイプは、攻略し辛いわ。
そもそもリア充とオタクは相性が悪いのよ!
っくぅ! 好青年なら癒やしになるかもと思ったけど、甘かったわ!
……とにかく、一度接触してみるしかないわね。
「じゃあ私、行って――」
「あ、立った」
一人で声を掛けに行こうとした時、例の二人が動きだした。
私達のいる扉の方へ歩いてくるから、もう帰るのかもしれないわ。
「どうする? 急いで声掛けに行く?」
「……いいえ、これはチャンスよ! ラフィはちょっと離れていてちょうだい!」
ラフィが少し離れていき、私は扉近くの壁に隠れる。
乙女ゲームあるある、其のニ。
角でぶつかる二人……よ!
乙女ゲームのみならず、媒体を超える定番中の定番だものね。
これなら自然に会話が生まれるわ!
よし、二人の(主にゲラン君の)話し声が聞こえてきたわ……。
「でさ、あの時シールが――」
きた! 今よっ!
――ドンッ
「うわっ!」「きゃっ!」
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