星新一さん風を目指して

またたび

振れない決意

 S氏は決意した。


「家を買おう」


 そこからは早かった。彼は迅速に行動を進め、ある一軒家を購入した。


 S氏は決意した。


「結婚しよう」


 そこからは早かった。友人のつてを頼り、結婚できるような理想的な相手を見つけられたのだ。


 S氏は決意した。


「会社を立てよう」


 そこからは早かった。銀行にも持ち前の巧みな話術を使い、うまいこと資金提供させることに成功した。彼の人望もあり、会社は軌道に乗った。


 S氏は決意した。


「海外進出をしよう」


 そこからは早かった。瞬時に準備を整える。しかし、やはり海外進出をするにはお金が足りなかった。なので


 S氏は決意した。


「うまく脱税をしよう」


 そこからは早かった。彼の考える手口は国も社員も騙すことに成功した。もはや誰も気付かないだろう……そう思っていたが、ある果敢な社員一人にバレてしまったのだ。


 S氏は決意した。


「彼を殺そう」


 そこからは早かった。誰もいない場所に呼び出し、絞殺。あらゆる証拠を隠蔽し死体の埋めた場所にはビルが建った。


 S氏は行動力がある。思い立ったら吉日、それが彼のスローガンであり座右の銘だ。だから彼は多くの人に信頼され期待される。要するに人望があるのだ。だから誰も彼が人殺しなんて思わない。S氏はその後、それはそれは平和に過ごしていた……


 しかし、S氏は決意した。


「よし死のう」


 そこからは早かった。約1時間後には樹海の中で首吊り死体となっていた。彼は完璧を望んだ、そのために時に殺人にまで手を染めた。しかし、そんな虚無な人生にふと嫌気が差したのであった……


* *


 私が彼を見て思うに、悩まないで行動しろ、というのは大切だが、一切悩まないで行動するのはそれはそれで面倒だと思うのだ。振り返ること、省みること、それなくして行動してしまうと……S氏の二の舞を演じることになるだろう……

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