最終話 世界への一歩、真理の賢者 ミシャリア

 正統魔導アグネス王国は魔導の巨城エインシェッド・マガ・キャセル 別宮殿にて。

 先の厳粛なる儀が嘘の様などんちゃん騒ぎが、城内の空気を一変させる。


 それは明らかにドの過ぎたバカ騒ぎであったのだが……騒ぐ者達の英雄の如き獅子奮迅を聞き及んだ城内兵士や侍女らも、苦笑ながらも快くそれを許容していた。


「さあグラスは行き渡ったかい!? 行き渡った様だね! 今日はこのリーサ姫殿下の計らいの元、飲めや歌えの大パーリィだ! いくら食べ、飲み明かそうが! ならば、しかと楽しもうじゃないかっ! 」


「「「「「「おーーーーっっ!! 」」」」」」


「……ミシャリア様(汗)。自重も無しですか。」


「まあまあ、ジェシカも今日ぐらいは多めに見てやれ。」


「そうそう、あんまし怒ると小ジワが増えるよん☆」


「……っ。はぁ……姫殿下には上げられないわね。ならばせめて——」


「サイザー……この人怖い! 」


「リーサが煽ったんだろ(汗)。」


 さらに此度、王国の一触即発回避支援に当たった同盟国――魔導機械アーレス帝国は策謀の皇子サイザー赤き騎士ジェシカも招かれ盛大さが群を抜いていた。

 そこへ――

 王室侍女らに紛れた、手にした料理を各テーブルへと運び始め……それを視界に入れた法規隊ディフェンサー――なかでも一番馴染んでいたであろう白黒令嬢オリアナが声を上げた。


「……あれっ!? なんで……なんでタイニー娘のメイドさんたちが!? ここはアグネスの王室――」


「ふふっ、感謝なさい! オリアナちゃん……いえ、確か〈ハートの狙撃手 オリリンにゃあ☆〉だったわね! 」


「なんて事だい……。姫殿下は――まあ姫殿下のお考えもあるのだろうけど。」


 ニコリと笑顔を向けるは、すでに王国内でチェーン展開すると知れ渡るメイド喫茶〈タイニー娘〉のメイド達である。

 白黒令嬢が驚愕する中堂々と宮殿会場へ現れたのは――彼女を支え待ち侘びた永遠の17歳、メイド長のラメーラ・トリマであった。


「オリリン、凄く厳しい戦いだったそうね。でも……よく生きて帰って来たわ。ほんと――心配したんだから。」


「ラ……ララァさんっ!! 」


 姿を見るやその胸に飛び込んだ白黒令嬢へ、お転婆姫リーサが言葉を投げる。

 メイド長率いるメイド達がこの場に現れた経緯を。


「彼女達タイニー娘はね、昔から私の事情を知る数少ない民の協力者でもあり……そんな所へあのモンテスタの横暴が蔓延った事でずっと不便な思いをさせたから。本来私の魔法力マジェクトロン制御を研究する機関が、あろう事か民の安寧を脅かす――」


「けど私の力をいたずらに振るえば、モンテスタ会どころではない……この王国さえも滅ぼしてしまう。それを見かねたタイニー娘のメイドさん達が、王国内のあらゆる民の癒しとなってくれた。だからこそのサプライズ——あなたと言う家族が、法規隊ディフェンサーに所属している点を聞いた上での配慮ってわけ! 」


「姫……殿下! その、ありがとうございます! こんな素敵な――」


 まさしくドギモを抜かれる様なサプライズで、白黒令嬢はたがが外れた様に泣きじゃくる。

 場慣れしたメンツが多い法規隊ディフェンサーの中で、明らかに令嬢は未体験の規模となる戦いであったから。


 叔父である死霊の支配者リュードと真の決別と……己が裏切った父の真相が明かされての今であったから――


 それを見やる桃色髪の大賢者ミシャリアは口元へ微笑を僅かに浮かべ、護衛たる狂犬テンパロット……ツインテ騎士ヒュレイカと首肯しあう。

 今回の旅の始まりの起点にいたのは間違いなく、今泣きじゃくり……家族たる永遠の17歳に愛おしく愛でられる白黒令嬢――

 現真名 オリアナ・レーベンハイトであったから。


「さあさあオリアナ! 素敵なサプライズを泣いたまま過ごす気かいっ!? そんな事では、この豪勢極まりないお料理が全部冷めてしまうよ! 」


「う……うりゅひゃい! にゃいへにゃんひゃにゃいわよ! 」


「オリリン……今はこのお料理を楽しみなさい。私も姫殿下の計らいの元、祝勝会の間は給仕のお仕事をさせて頂くから。」


 家族への愛ある弄り。

 それにボロボロと熱い物を零しながらも、デレる様に応える白黒令嬢。


 一行ですでに料理を頬張るフワフワ神官フレードオサレなドワーフペンネロッタ英雄妖精リド抜刀妖精ティティが満面の笑顔で首肯しあった。


 その皆を見守る食事が不要な精霊種の仲間……残念精霊シフィエールが、巨躯の精霊ジーンが、火蜥蜴親父サラディンが、焔揺らす少女サリュアナが――輩な水霊ディネが、泣き上戸精霊ノマが、蝙蝠精霊シェン淡き灯火ウィスパとが食事会場外で視線を交わす。

 素敵な家族の掛け替えのない一時を慈しむ様に。

 そして浸る様に――



 連星太陽の煌きに祝福される、奇跡の部隊に属する者達がそこにいた。



∫∫∫∫∫∫



 リーサ姫殿下主導の祝勝会が騒がしくもたけなわを迎える頃——

 ふと抱いた疑問を殿下に振る私は、直後の怒涛の展開に嘆息も……新たな冒険の予感で思考が満たされる事ととなります。


「そう言えばサイザー殿下、ジェシカ様も含めやけに姫殿下と打ち解けている様ですが……その——それこそ帝国と王国の関係から来る知り合いとかなのですか? 」


 食事をあらかた口に放り込み、お腹もひと段落した私を見やる殿下とジェシカ様。

 殿一瞥し……最初に口を開いたのは予想に反してジェシカ様だったのです。


「私と殿下で言えば、私の方が古い幼馴染……と言えるわね。姫殿下がまだ幼かった頃——己が引き起こした惨劇によって、自暴自棄となってた頃のあの子と。」


「惨劇? ……自暴自棄、ですって? 」


 放たれるは重すぎる過去の語り。

 けれどそれを制する様に、今度は殿下が言葉を挟みます。


「ジェシカ、それは過ぎた事だ。こんな、むし返す話じゃないだろ? 」


「……すみません、殿下。出過ぎた真似でした。」


 視線を落としたジェシカ様と、察してくれと視線を寄越すサイザー殿下。

 しかしです——

 、殿下の制しに紛れていたのをこの私は聞き逃さなかったね。


「ちょっ……と、待って下さい。殿下……今これから旅立たん、とか言いませんでしたか? 私としてはこれから術師会の諸々を引き継ぐ関係上、暫しの王国滞在をと——」


 と、切り出した私の話へ被せて来たのは……現在絶賛ウチのメンツとリーサ姫殿下でした。


「なになに? サイザーもうその話進めちゃうの? んじゃ私も参加させて——」


「リーサは話がこじれるから、ちょっとそこで大人しくしててくれ。」


「こじ……ヒドいっ! 」


 まあ被せた側から、殿下からの「自重してくれ」の視線を頂戴してしまうのですが。


 すると苦笑もそこそこに、殿下がふとこの祝勝会会場を見渡します。

 そこに込められた意図を察したのか……帝国護衛であるテンパロットとヒュレイカが真っ先に反応するや——

 我が法規隊ディフェンサー面々が自然と殿下の語りを聞く体制へと移り変わります。


 そして——


「すでに皆には帝国の誇る法規隊ディフェンサーらしい絆も確認した所……このミシャリアと共に歩む者としてこの俺、アーレス帝国第二皇子 サイザー・ラステーリからの新たなる依頼を準備している。それはここにいるリーサ——」


「彼女の膨大なる魔法力マジェクトロンを抑える希望として、ミシャリアがその手を挙げた今だからこその依頼だ。アグネスの魔導研究に於ける新たな進展となる旅路として、以降王国から出立するリーサ・ハイドランダー姫殿下護衛を請け負ってほしい。」


「「「「「「……えぇっ~~?」」」」」」


「ちょっと皆!? 今しがためっちゃ私と意気投合してたじゃん!? なんでそんな壮絶なまでに嫌な顔してるの!? 泣いちゃうよ、私!」


 何かこう予想はしてたけれど、先行きが思いやられる事態を察した我が家族が……それはもう嫌そうな表情を全面に押し出して不満を露わとしたのです。


 それを目撃した私と殿下は視線を合わせるや失笑に駆られ、もうリーサ姫殿下がウチのメンツ待った無しな状況へ安堵を覚えたものです。


 私が彼女から感じた、己の新たなる未来の可能性。

 殿下とジェシカ様が漏らした……姫殿下が乗り越えて来た重過ぎる過去。

 全てを天秤にかけた私は、その新たなる依頼を断る無粋など持ち合わせてはいなかったのです。


 そう思考するや、すっくと席を立った私は宣言します。

 私と姫殿下……そしてすでに絆を深め会った、我らが帝国 超法規特殊防衛隊ロウフルディフェンサー一同の返答として——


「サイザー殿下、私はその旨を是非お受けしたいと思います。術師会の諸々はどの道その依頼を聞き及んだ時点で、王国でも対処に奔走してくれているとした上で——」


「これより私は、アグネス六賢者が〈真理の賢者〉の称号を掲げて新たな旅に赴きたいと思います!」


 宮殿食堂で感じるは私の家族の羨望と絆。

 生命種組と、状況を察して現れた精霊種組は……そこに意見の相違などないとの視線を送ってくれます。


 満面の笑みを浮かべる姫殿下。

 壮大な夢の望む形が出来上がって行く様に、口角を上げ賛美に酔いしれる皇子殿下とジェシカ様。


 そうして私達は——


「ああ、……現在、君達部隊の運用上予定外の計上予算が発生していてな? 本来ならばこの場で、先の件への報酬話をと考えていたのだが状況が変わった。」


 、ビックリ仰天な事態が私達の心と身体を……それはもうしこたま打ちのめす事となったのです。


「まあ詰まる所、リーサを護衛し旅に出ると言う時点でそうなるのは想定済みなんだが……彼女は現在王国内では立ち位置が危うい状況でな? 彼女に対する王国からの旅費やら何やらまでは、残念ながら回せないと言う事だ。」


「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい殿下!? それはつまりで、って事ですか!? 」


「ミーシャ、何言ってんのか全然分かんないわ(汗)? 要は——」


「な・の・で、法規隊ディフェンサーにリーサが属する時点で……。リーサ……なんでもワガママが通ると思うな。俺の立ち位置でもその対応が限界なんだからな? 」


「しょ……しょんなぁ。」


 襲うのは嫌な汗の滝。

 思いっきり想定外を突き付けられ、項垂れる姫殿下。

 そこより僅かに私達は沈黙し——



 祝勝会のどんちゃん騒ぎが、まさかの精神面をバスターしての開きとなったのでした。



∫∫∫∫∫∫



 連星太陽が冒険者達を照らし出す。

 未だ世界は精霊との協調が見出せぬ現状。

 そこへ確かに戦乱の気配が漂っていた。


 それはある冒険者達の一騎当千の活躍が、皮肉にも戦火の火蓋を切る口実となったから。


 だが……その冒険者は、その様な戦火など意に介さない。

 何故ならば——


「さあ、ボージェにフラン。これよりリーサ姫殿下をお運びするんだからお痛はダメだよ? 部隊の荷物も荷車満載で大変だけど、君達に任せる。」


「ヒヒィン! 」


「ブルルルッ!」


「ってこの馬、あの警備隊で有名な暴れ馬達? よく手懐けたわねミーシャ。」


「この子達も立派な仲間だよ?姫殿下。皆も準備はいいかい? これからの冒険は、今まで以上に過酷なモノとなる。その覚悟はしっかりもっておくんだ。」


「当然だな。」


「バッチしよ、ミーシャ! 」


「……つか二人が、一番危ない様な気がせんでもないけどな。」


「それはいつもの事であるぞ?シフィエール。」


「今さらなの。」


「だな、ファッキン。」


「サリーっ! 」


 彼らが進む道はさらにその先へ向いていた。

 視線は——


「相変わらずで、むしろ安心な感じだわ! 」


「えっ?そこ安心するとこ?はぁ……ほんと無茶苦茶な部隊よね。」


「お主もすでに一員ぞ?オリアナよ。じゃからこのバカ者達がやらかさぬ様、ワシらがせいぜい励まねばのぅ。」


「何かすでに、保護者みたいな感じさね……このダークエルフは。」


「ああ、ミシャリア様! チンはどこまでも、お慕い申し上げるアル! 」


「纏まりがあらへんのも、相変わらずおすな~~。」


「キキキィ……(汗)。」


「リィ…リィィ(汗)。」


 望まず戦火に巻き込まれた力無き弱者と、道具の如く浪費される精霊達の未来を変えるために彼らはその新たな一歩を踏み出すのだ。


 狂犬テンパロットが、ツインテ騎士ヒュレイカが、フワフワ神官フレードが——

 白黒令嬢オリアナと、オサレなドワーフペンネロッタと、英雄妖精リドと、抜刀妖精ティティと共に——

 精霊と手を取り、お転婆姫をリーサ支え踏み出す新たな一歩を……この正統魔導アグネス王国は首都 ハイゲンベルグから。



 意気揚々と、胸高らかに明日を夢見る彼らは行く。

 これよりまだ見ぬ、波乱万丈の冒険の旅路へと——




—— ロウフルディフェンサー 〈完〉 ——




∽∽∽ アグネス王国首都~~魔導の巨城 ∽∽∽∽


被害 : 無し————


借金主:アグネス・リーサ・ハイドランダー追加


食堂バスターズ————真理の賢者誕生も、まさかの姫殿下が借金と共に参戦!?

結局借金返済、冒険最後にしてならず!!


∽∽∽物語は大円団?? そして……∽∽∽∽




~~後日談〈それぞれの明日〉へ続く~~

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