Act.109 合流、高貴なる者たち

「てなわけで、ティティ卿には悪いけど……そのきらびやかな衣服をしばらくは封印して貰おう——そう思う次第だよ。」


「はぁ……それはしたかあらしまへんなぁ。了承しましたえ?ミシャリア卿。」


「ああー、その卿と言う仰々しい呼び方は勘弁願えるかい?これから私達は寝食を共にする仲間……できればミーシャと呼んでくれるとありがたいのだけれど。」


「フフッ、分かりおした。ミーシャはん――で、よろしゅおすか?」


「うん、それならしーちゃんに呼ばれ慣れてしっくり来るね。確か〈アカツキロウ〉では二つの特殊言語が主要となっていると聞き及ぶけど……卿のそれは正式言語なんだろう?」


 私は思考した件を告げるべく、をあらかた片付け終えた頃を見計らい……卿を呼び出しての交渉を持ちかけます。

 それは言うに及ばず、卿の御身を少しでも世間の目から遠ざける案。

 目立ちすぎるそれをカモフラージュするための、日常に於ける譲歩案でした。


 そこで必要となるペネとオリアナにも手伝ってもらい——

 上品さを隠しつつ……それでいてちょっと名が売れた程度の冒険者風を装う算段を付けたのです。

 お宿の一室へ、厳戒態勢を引いた上で事に当たった訳なのです。


 が——


「ダメだわ、ミーシャ。これは流石にお手上げかも……。」


「そうな感じね……。だってどんな品度を落とした衣服を彼女に当てても、彼女が纏うだけで一級の衣服へとランクアップしてしまう——」


「いったいアカツキロウと言う世界の御貴族様は、どんな生活様式を取っているのやら……頭をひねるしかない感じよ?」


「うん、今私の目にもそれは遺憾ながら事実として映っているね。これは周囲の注目の的になるのも止む無しだよ(汗)。」


「苦労かけますなぁ、皆はん(汗)。」


 有り体に言えば……ティティ卿はだったのです。

 それはもう、どう足掻いても拭えぬ生まれ持った血統——と思考したら途端にリド卿の逆玉感が湧き上がって来たね。


 とまあ、の事は置いておくにしても……現在手持ちにある町娘程度の衣服は全て試し尽くした所——どうしたものかと頭をひねる私達。

 捻り過ぎて思考が一周してしまった私は、辿


 閃く思考のまま視界に映した姿。

 候補となりえるそれを吟味した私は……滴り落ちたのを自覚したのです。


……ほうふぁそうだほふぇふぁひょそれだよ。」


「いえ、ミーシャさん?何言ってるのか全然分からない感じ——」


「ほぇ?」


 滴る赤い物を抑えつつ、降りた閃きのまま候補たる衣服を身に付ける仲間を見やる私へ——

 それぞれの反応を返すオリアナとペネ。


 けれど直後……その意図を理解したオリアナが——物凄い勢いで項垂うなだれたのです。


「ちょっと待ってミーシャ。まさかその案って――はぁ……大丈夫?それ。」


 オリアナが発した言葉にようやく事態を悟ったペネも、白黒さん同様に困惑の中項垂れます。

 たった一人、状況の掴めぬティティ卿を疑問符の海に置き去りにしたままで——



∫∫∫∫∫∫



 夜のとばりがお宿周辺へ宵闇を引き連れる頃。

 諸々の片付けを終えた法規隊ディフェンサー一行は、就寝前の一仕事となった剣の卿ティティの着せ替えタイムで一喜一憂。

 中でも英雄妖精リドは合流した大広間にて、焦燥に駆られた声にならぬ声で抗議していた。


「お前達……。確かにティティの余りある高貴さを隠すのは並大抵ではなかろう。じゃが……じゃがじゃ——」


「誰が好き好んで嫁となった者相手に、?もうちっと思考を巡らせる訳には行かんかったのか……。」


 項垂れる英雄妖精を襲ったのは——

 まさかの婚姻の儀を交わしたばかりの妻である剣の卿ティティが、まさかまさかのメイド服で着飾った現実であった。


 しかしと言う言葉へ過剰なまでの反応を示す桃色髪の賢者ミシャリアは、顕とする。


「聞き捨てならないね!、いったい誰が不満をぶち撒けると言うんだい!?それはメイド文化に対する冒涜だよ!?分かってるのかい、リドジィさん!」


「つかそれは確実に、だろうがっ!?何をそれが、当たり前的にジィさんを攻め上げてんだよお前(汗)!」


でしょうが!?」


「メスゴリラは黙ってろっ(汗)!」


 あらぬベクトルにぶっ飛んだ趣旨を修正せんとした狂犬テンパロットを、妨害する様な賛同側のツインテ騎士ヒュレイカ

 その 声がきっかけとなり一行定番のてんやわんやが発動する。

 もはやその点に対してまとも路線を行くほかの一行は、冷たい視線で嫌な汗を浮かべつつ事を見守っていた。


「お約束、なの。」


「そうな感じね。」


「だから大丈夫って聞いたのに。」


……。いけまへんか?」


「「「「「……えっ!?」」」」」


 ポロリと零れた意見で、一行が首の捥げる勢いで発言者へと注目した。

 三者三様の意見に乗じた様な、さりげなさすぎる爆弾発言が……さらに一行のやり取りをヒートアップさせる事となる。


「お主……今なんと——」


「ふふっ、どうやら。それでこそ〈アカツキロウ〉が誇る御貴族様……ようこそ、桃源郷ワールドへ!」


「止めろよミーシャ。それ以上卿を貶めるなって(汗)。高貴さが違う意味で降下する。」


 しかし一行は気付いていなかった。

 事の終息を想定し、且つ差し込まれた急用のため帝都帰還前にこの場へ訪れていた者達がいる現実を。

 さらには降り積もる件の精算を行うため、その者への同行者までもがお宿に訪れている事を——


「お言葉だけどねテンパロット!こうやってティティ卿が私達の趣味嗜好に共感してくる事実は、まさに僥倖な訳だよ!良いかい……メイドと言う物はだね——」


「——ミシャリア。聞こえてるか——」


「私達にとっての、長き旅路に於ける清涼剤でもあり——」


「……ミシャリア・クロードリア。聞こえているか?」


「清涼剤でありっ——えっ?って……殿ーーーーーーっっ!!?」


 興奮冷めやらぬ桃色髪の賢者は、ちょうど背後から訪れた気配に気付けなかった。

 視界にそれを捉えられた一行は嫌な汗と共にその姿——それも……姿戦慄を覚えていたのだ。


 さらにその後ろへ付く、一行の大半が見慣れた銀の御髪を流すそれも視界に捉える事となる。


 お宿に現れた影は他でもないここ魔道機械アーレス帝国第二皇子である泣き虫皇子——

 サイザー・ラステーリと、最強と名高き破邪騎士カースブレイカー ジェシカ・ジークフリード。

 加えて……黒の武器商人ヴェゾロッサが絡む件依頼に於ける長期的な報酬精算に訪れていた美貌の卿、フェザリナ・リオンズであった。


「あーうん。申し訳ありません、殿下。ちょっと気付かずに、且つ騒ぎすぎました……はい。」


「いやまあ、オレは良いんだがな?アレだ……。分かってくれるか?」


「……甘やかし過ぎです、殿下。」


「ミシャリア様は殿下の前でも相変わらずですね……(汗)。」


 一行の騒がしさが刹那のウチに鎮火する。

 お宿にいるはずのない高貴なる者達の登場で、打って変わった一行は口をつぐむ事となる。

 そんな中——

 騒ぎの収束を見た泣き虫皇子サイザーが歩み寄る。


 それは言わずと知れた英雄妖精の元であった。


「リド卿……やっとこの日が訪れたみたいだな。」


「カカッ!してやったりな顔をしおってから。じゃが……もうお主をボンなどとは呼べんな——アーレス帝国次期皇帝 サイザー・ラステーリよ。」


「ウチからもお礼を言わせて貰いますえ、あのアーレスの血を受け継ぎし素晴らしきお孫はん。ほんまに……おおきに。」


 英雄妖精が……そして剣の卿までもがこうべを垂れた。

 自分達が今を迎える事が叶ったのは、かつて勇敢なる英雄隊ブレイブ・アドベンチャラーを率いしアーレスの――その血を継ぐ者の采配があってこそだったから。


 かつての英雄さえもこうべを垂れる姿には、破邪騎士ジェシカも……美貌の卿フェザリナでさえも言葉を切り見守った。


「オレはキッカケを与えただけ。それを現実のものとしたのは彼女達——我らが帝国の誇りし超法規特殊防衛隊ロウフルディフェンサーの活躍があってこそだ。」


「礼ならばこれから思う存分皆にしてやってくれ、リド卿にティティ卿。あなた達はもう自由だ。」


「……クク。本当にそうかの?このミシャリアは?これが果たして自由と言うのかのぅ。」


 事を想定していた泣き虫皇子と英雄妖精は笑い合う。

 流石に、皇子眼前で提示された賢者少女は視線を泳がせた。


 けれど何よりこの瞬間は誰もが望んだ結末。

 悲劇を幸福で塗り替えた……掛け替えのない今。



 やがてその雰囲気のままに、急遽訪れた皇子殿下含む一行は今後を含めた会議へと移って行く。

 そこで語られる事となる、法規隊ディフェンサー一行が想定だにしなかった事態。

 二国間を揺るがす、正統魔道アグネス王国で起きた大事件の全容について——

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