Act.107 悲劇を乗り超えた者達

 魔導機械アーレス帝国が誇る観光街。

 その一角のお宿で今、二つの命が奇跡の邂逅を経て……永遠を誓い合うブライダルへと導かれる。


 即興ではある小さな会場。

 しかしそのバージンロード両端を埋め尽くすは大地を潤す精霊達と……共にあった生命種達。

 それは後の赤き大地ザガディアスで永遠に語り継がれる奇跡の契り。

 精霊と……ひと種含む生命種が共にそれを賛美すると言う、世界の歴史上初の出来事であったのだ。


「リド卿は、ティティ卿への愛を誓いますか?なの。」


「無論じゃ。」


「ではティティ卿は、リド卿への愛を誓いますか?なの。」


「ええ、誓いおすえ。」


 小さな即興祭壇前に英雄妖精リド剣の卿ティティが居並ぶ。

 その二人へ共に永遠の愛を誓うかと問うは当然、呪いのくびきを断つとと言う功績を見せたフワフワ神官フレード


 そんな奇跡舞う幸福の場を見つめるは、彼らの悲劇を打ち払った法規隊ディフェンサー

 そして共にある仲間の精霊達だ。

 皆一様に双眸へ映す惜しみない賛美を、居並ぶ二人へと贈りながら静聴する。


「即興でこのレンタルリングしか、準備できなかった……なの。けど、指輪交換——お願いするの。」


「レンタルじゃろうが構う事などない。お主らが準備してくれた思いへ文句を付けるなど場違いもはなはだしいわ。ではティティよ——」


「はい、リド。」


 即興過ぎて、契りを交わすためのリングは完全な貸し出し物。

 だが英雄妖精はそれをとがめる事など出来ない……出来るはずがなかった。

 例えレンタルリングだったとしても、そこに込められた新進気鋭な冒険者達の想いをひしひしと感じていたのだから。


 見つめ合う二人が互いの薬指へとリングを預け、そしてその時が訪れる。

 彼らが呪いの悲劇に奪われた、長き年月を取り戻すその時が――


「では、お二人共――その……ち、ちち、誓いのキ、キキ――」


 が……そんな奇跡の瞬間に、まだ経験未熟なフワフワ神官がどもらせてしまった。


 荘厳であった雰囲気が、一同の失笑に崩れ行く。

 しかしそれもまた……彼らが彼らたる所以である。

 クスクスと笑いあう高貴なる二人が、今なお照れて言葉が発せぬ神官少年の頭へ手を添えた。


「無理をさせたのぅ、フレードのボンよ。まだ早かったようじゃな。」


「ええんおすえ?これだけの想いを受けただけでも、ウチ等はもう幸せおす。」


「あうぅ……ごめんなさい、なの。」


 失笑で幕を閉じた奇跡の瞬間は、二人にとって掛け替えの無い宝物となる。

 何の事はなかった。

 彼らは供に妖精種。

 時間はひと種を大きく超えるだけ存在する。


 前へと進むキッカケを得られた事こそが、彼等への最高の贈り物となったのだから――



∫∫∫∫∫∫



 最後の最後でやらかしてしまったフレード君。

 けれど、経験未熟な彼としては最高の出来栄えとなる神父役だったね。

 その肝心な所は彼の今後次第とし――


 リド卿とティティ卿への輝かしきブライダルを贈る事がなった私達。

 その後はやはり待っていました。


 何よりそこでも私達が……特にオリアナとペネが腕によりをかけた品々が待ち構えるのです。


「では皆、ドリンクのグラスは行き渡ったかい!?行き渡ったなら乾杯だっ!」


「ちょっと待てミーシャよっ!?ここは主役ではないのか!?」


「バカを言っちゃいけないよ、リドジィさん!あなたが愛した人を救うため、こちとら命をかけたんだよ!?これは!分かるかいっ!?」


「……そうじゃった。腐ってもこやつらは法規隊ディフェンサー――……!」


「それは聞き捨てならないね!そんな事でこの私達の仲間入りを果たそうだなんて、とんだ甘い考えだ!そう思わないか、皆っ!」


 庭園を望むオープンテラスへ広がるそれ。

 眼前の豪華絢爛な食事を前に、もはや胃袋さんが待ちきれぬと咆哮を上げていると言うのに……このショタジィさんは無用な問答で時間を浪費すものだから――

 私としても奥の手を発動するも已む無しだね。


 そんなおかしなテンションのまま皆へと振れば――


「そうだな、もう腹が耐えられねぇ。すぐにでも状況を理解してもらわないとな。」


「……ねぇ、まだ食べられないのぉ~~。早く乾杯しようよ、。」


、勿体ぶるの。この部隊はこんなだって……いまさらなの。」


「まあ、言い分は分かるけど――私は早くペネとの合同お手製料理を堪能してくれさえすれば……。ねぇ?ペネ。」


「そうな感じね。即席ではあったけど、それも絶品な感じよ?にも早く召し上がって欲しい感じだわ。特に、甘く蕩けるクリームがこのほっぺを落としにかかる特性ケーキが――」


「オジ……ぷっ、くくく。」


 揃いも揃って飯を早くとの要請を突き付けて来る我が法規隊ディフェンサー

 空気を読むとはこういう事を言うんだね。

 もう最後のなんてツボって噴出してしまったよ。

 そんな返しにはさしものショタジィさん、呆けた様に口を開け放っています。

 横では私達が見せるもう一つの姿を視界に捉え、クスクスと上品に笑い転げるティティ卿の姿。


 だからこそ敢えてそれを口にします。

 、早々に覚悟を決めて貰わないといけないからね。


「どうだい、これがみんなの考えだ!すぐにでも乾杯してお食事タイムと行こうじゃないかっ!ああ、――」


「「「「えっ!?」」」」


 と、勢いで放つ前振りに……皆が嫌な汗と供に私へと注目します。

 そう――皆はすでにその事態を何度も経験済みだからね。

 察するなと言う方が無理な話だ。


 ならばもはやはばかる事もないね。

 私達一行と供にある者が背負うべき、その運命と言うものを宣言する事としようか!


「お宿代に関してはディネさんの取り成しで無料貸し出しの算段――だ・が・し・か・し!この眼前の豪華絢爛なお料理の元となった材料費と、ティティ卿のために準備したウエディングドレスにリングのレンタル代――」


「そちらは全て、あなた……リド卿名義で借金シャッキングさせてもらうからねっ!?」


「……な、ん――じゃと……。」


 その宣言は上げて落とす感じに、リド卿の脳裏へと突き刺さり――

 まさかの想定外の事態でリドジィさん……完全に硬直してしまったね。

 けどあれだよ?本来こういうのはリドさんが甲斐性だして準備するべきものだからね?私達はただ代行しただけだからね?


 そんな面白すぎる惨状を観覧していたヒラヒラ舞う二柱の精霊が、項垂れる様に突っ込んできます。


「ミーシャはん……まさかほんまにリド卿名義で付けるとは、ウチも想定してへんかったわ(汗)」


「キ……キキキ(汗)」


 精霊達の突っ込みにも、すでにおかしなテンションがうなぎのぼりな私は軽くいなし――

 そんなノリそのままに乾杯の音頭を取り直す事としました。


「いやぁ、そんなに褒めないでくれるかい!ではでは改めて、乾杯の音頭を取らせてもらうよ!それでは、我らの勝利とリド卿……そしてティティ卿の未来を祝って――かんぱーーーいっ!」


「「「「か、かんぱーい……(汗)」」」」


 私に対してトーンが落ち込んだ皆と、嫌な汗に塗れるマスコットツートップな精霊達。

 硬直したままのジィさんと……対照的なほどに笑顔を零すティティ卿。


 画してお二人の披露宴に自分達の戦勝パーリィをブッ込んだ我が法規隊ディフェンサーは、堪能する事となったのでした。



∫∫∫∫∫∫



 どんちゃん騒ぎの最中――

 すでに思考が麻痺した英雄妖精リドへ、法規隊ディフェンサー一行を見やりつつ……剣の卿ティティが耳打ちする。


「皆さん素敵な方ばかりおすな。もうウチらは一心同体――切っても切れぬ縁が再び繋がったいうもんおす。」


「……なっ!?お主、こやつらのバカな意見を――」


 耳打ちでようやく思考を元に戻した英雄妖精が、声を荒げようとし――それを指で制した剣の卿は微笑みながら告げて来る。

 柔らかな、幸せに満ち溢れた面持ちで――


「リドに付けられた借金……それをウチも一緒に払わせて貰いますよって。なんや先行きが大変おすけど――これもリドとの、おすえ?」


「ティティ……お主――」


 付けられた借金を、二人で供に返していく。

 冒険者である一行へと英雄妖精が加わるならば、二人が供にあるべき――

 桃色髪の賢者ミシャリアの配慮はそれを踏まえた采配であった。




 大きく嘆息する英雄妖精を、騒ぎ立てるかたわらチラリと見やった賢者少女は……隣りに舞う蝙蝠妖精シェンと笑顔を交わすと――

 そのまま再び豪華なるお食事を堪能するのであった。




∽∽∽∽∽∽ 南北アヴェンスレイナ ∽∽∽∽∽∽


被害 : 物見櫓  

           ————ディネ自慢の食堂施設崩壊

付け金 : ブライダル関連レンタル費(お宿代以外)  

           ――――全額 リド名義で付け

借金主三名追加      

           ――――ミシャリア・クロードリア

               (遂に首魁参入!?)

           ――――リド・エイブラ

           ――――ティティ・フロウ


食堂バスターズ————借金をまさかの英雄に付ける蛮行!?


∽∽∽∽∽∽すでに借金額が大変な事に!?∽∽∽∽∽∽

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