Act.68 暴竜討伐作戦〈ブレスを封印せよ!〉

 とんだ協力者が現れたと思ったら、私でも想定していなかった策を引っさげてのご登場。

 さしもの私もそれを賛美せざるを得なかった次第だね。

 しかし現実問題、これまでの経緯上……あの火蜥蜴サラマンダー親子を仲間にした際の経験がなければ、それも閃く事もなかったと言えるけど。


 ともあれ皆食事中の暴竜襲撃ともあり、……いえ、多大な被害を被った事が重要なのですが――

 今回は事態の一部始終を見た村長からのおごりな上、おソバを提供頂いたケンゴロウ氏の計らいの下……まさかの彼の実家で、あのペネが振るう料理を堪能する事になったのです。


「ではペネの作ったワショクを召し上がる感じね!あっ――さっきはああ言ったけど、多分あの暴竜レックシアはすぐに襲って来る事はない感じだわ。」


「ほう、それは根拠がある意見――そう取って構わないんだね?」


「もちろんな感じよ!」


 言うに及ばず――

 ペネが提示した情報が、悠長に再び食事を取る事にも繋がっていたりもするのですが――まずは、この辺境に済む人々が安心して暮らせる様にするため……確実なる暴竜退治が求められたのです。


「てな訳で、これより暴竜を退治するための策を再会議したい所だけど――とりあえず皆が食べ終わってからにするかい(汗)?」


「「「「ふぉんふぇ賛成ー!」」」」


 時間に猶予が出来たのは幸いですが――

 視界に映るみながみな、あまりの料理の美味さに頬を膨らませるのをとがめる事は流石にはばかられ……その上手すぎる料理を堪能し終わるまで待つ事にしたのです。


 まあ言うなれば……ペネが暴竜への対策と供に、自分の得意分野が戦闘一筋ではない所を見せ付けてきた訳で――それは多分に、ドワーフは基本とされるのを嫌っての事とは思ったね。

 確実に自分への認知をドワーフの種族柄から遠ざけようとする、彼女流の策略でもあるとも思った訳なのです。


 そして彼女が準備した先の肉じゃがにお味噌汁に加えゴボーと言う野菜の和え物に始まり、根菜類であるダーコンの漬物に煮物――

 果ては……川で取れた淡水魚と言われるギマユの塩焼きと山菜を煮付けた煮物が、私達一行のお腹を見事に満たしてくれたのです。


「――こんなに美味しい料理……組織でも食べた事がない……。」


「お野菜、味付けが絶妙――なの。山菜とか、ボク苦手……でも食がどんどん進んだの。ペネさん、天才なの!」


「いやぁ~~そうでも、ある感じよ!では皆さん、お粗末さまな感じでした!」


 気立ての良さと手料理自慢が相まって、最早振り撒くペネ。

 こちらもが増えて、忘れていた赤いものが噴出しそうになるも抑えつつ――


「では――皆食事もあらかた食べ終わった所で……ペネが提案してくれた策について協議したいと思う。彼女が提案した件で重要なのは――」


「そいつぁ反霊銀だな?ファッキン。」


「そうだね、サラディンご名答だよ。」


 ケンゴロウ氏の実家は、元々大所帯を受け入れる様立て替えたばかりのお屋敷だという事もあり――ドワーフならではの器用さが生んだ装飾に彩られる様は、とても辺境集落の建物とは思えない程。

 この村の村長と知り合いな所からして、村の中心的な存在と確信していました。


 そのお屋敷一室で食事を堪能する私達――加えて、先の様な事態は一同が団結する必要があると察した私は精霊一行にも実体化のまま会議参加を依頼したのです。


 そしてまず今討伐策のにまず反応したのは、もっともそのブツと所縁のある方――サラディン氏です。


「なる程のう……。つまりはあの暴竜めに食料となる獲物をチラつかせ――さらにあらかじめその中に反霊銀を紛れ込ませる。そして――」


「うん。そのままあのバカ竜さんが反霊銀を体内に取り込めば、そこにある霊銀と効果を打ち消しあい――」


「あの面倒なブレスを封印出来るっちゅうわけやな~~。いや~~あの身振り手振りでようそれに感付いたな、ミーシャはん。」


「感付くための経験と、そのための必要なアクションはペネが見事に再現していたからね。これもサラディンが、素直に協力してくれると。」


「そこで弄って来るのかよ、賢者ミーシャ(汗)こりゃ俺も本格的に、あんたらの身内な感じがしてきたぜ、ファッキン。」


「ふふっ。サラディンも、もう諦めたほうがいいわよ?」


「諦めるサリ、パパ!」


 まさしくこの策の起点は反霊銀。

 先にサラディン氏へ協力を申し入れようとした際の、聞く耳持たぬとの襲撃——そんな中回避をしくじり、冒険初心者レベルのポカをやらかしたオリアナが大怪我を負う事となる火山性地震発生。

 からの……彼女が体を張った理由こそが、反霊銀と言う物質の関与する一連の事件でした。


 そこに来てペネの送ってくれたジェスチャーが、食べ物と見回したブレスに焼かれた村——そして何かを吐き出そうとしても、吐き出せない感じで頭をひねる様。

 降りて来た直感で、それが今回の策提示へと繋がった訳なのです。


「それではまず一向の誰かが、その反霊銀を収集して来る必要があるのだな?お嬢。」


「そうだね。そして当然反霊銀と接触する必要がある仕事を、消滅必死の精霊達にはさせる事も出来ないから——」


「あの……それ私がやってもいいかしら?」


「うん?オリアナ……自分から進んで手を挙げるなんて——何か思う所でもあるのかい?」


 ジーンさんが言う策に於ける最初の役目……ですが当然彼の言う通り、その存在を消し去られかねない精霊に頼む事など言語道断——と思考した視界へ名乗り出たのはオリアナでした。

 何やら一端の法規隊ディフェンサーらしくなって来たようだね。


「あの時の汚名返上ってのもあるけど……村を焼かれて、そこを逃げ惑う人達を見て——何か私自身にできる事は無いかなって、そう思ったの。」


「ふふっ……良い兆候だね。弱きの者の盾となるべき法規隊ディフェンサーの理念としては、僥倖この上無い所——今の君が着る衣服も通常の魔法耐性皆無のものでもある事だし。分かった……反霊銀収集は君に任せる。あと——」


「地理面で詳しいメンツでリド卿——オリアナについて行って貰えるかい?」


「いいじゃろ、了解じゃ!休火山デュナスはサラディンと長らく過ごした家の様な場所じゃ……任されたぞい!」


 そうして反霊銀収集メンツを割り振り——


「次に暴竜へ食させる食料収集組だけど……ここはを要する所でもあるため、テンパロットがペネに着き——こちらは力仕事も兼ねるため、ジーンさんに協力を要請したい。」


「ああ、妥当だな。」


「承知……任された。」


「ペネはこちらの方々に着いて行けばいい感じね?」


 継いで食料調達組を選抜——


「万一の連絡兼任に浮遊能力があるメンツとして、食料収集組へ向かうのはシーちゃん……それで休火山デュナスへ向かうのはフレード君——」


「ああ――これは反霊銀を要する作戦考慮の上での配置だから頭に入れて置くように。このフレード君の配置は、至高神への祈りなら反霊銀の影響も少ないだろうとの算段だけど……警戒は怠らない事。いいね?」


「お任せ……なの。警戒は必須——慢心、ダメ、絶対なの。」


「なるほど、ウチは食料調達組みの連絡役やな!ええで~~任せときや~~!」


 連携に必須でもある連絡兼任役を配して……本命でもある暴竜監視組を選抜します。


「最後に――あちらのホームグラウンドでの戦闘手段を、現地で練る必要もあるからね。私が活火山ラドニスへ先行するから、その護衛としてシェンとヒュレイカ……そして案内役にサラディン——」


「あとサリュアナは後方から追従し、いざという時は——君が炎の治癒術を有しているらしいと言う事で、それを生かすために後方支援をお任せしたい。みんないけるね?」


「ミーシャの護衛と来ればあたしの出番……まっかせなさい!」


「キキーキキ!」


「あーしはパパと一緒で良いサリ?なら頑張るサリ!」


「おう……気合入ってんな、サリュアナ。俺もサリュアナも、準備は万端だぜ?賢者ミーシャ!」


 策の起点である反霊銀収集と、そこに関わる各要点への人員配置も済み——

 わざわざ自宅へ招待してくれたケンゴロウ氏への謝礼もそこそこに、私達は暴竜がすぐに動かぬと言うならばこちらから動くべきと腰を上げます。


 夕闇を包む暗雲から幾重にも走る雷鳴の後、私達の足を阻む様に降り出した雨を掻い潜り——魔導機械アーレス帝国製で耐水性のある雨具レインコートを纏い、悪化する視界の中で出立します。


 あらゆる生命に仇なす……古代竜種エンドラ討伐に向けて——

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