短編童話【リカベッティーの丘】

ボルさん

【読み切り童話】本編はこちら

戦乱の残る中世、少年オーソンは今日もいつものリカベッティーの丘に登って戦争に参加しているお父さんを待っていました。


平野が広がるこの地域で唯一の高台であるこの丘は、神の古墳と言われています。


9歳になるオーソンは、遠くに戦火の煙がのぼっているのを見つめながら、

「なぜ王様は戦争を続けるのだろう。町中が疲れていて、お母さんは咳が止まらず寝込んでいる。僕に何ができるだろうか……」

ため息をつき、天に願い事をしました。毎日祈ることしかできないのです。


長いこと目をつぶって両手を天にかざしていると段々雲が丘の上に広がっていきます。


「あれ、雨かな?」


オーソンは、はたして気付いていたでしょうか、彼のほっぺたに『雨の最初の一粒』が落ちたことを……。


【どこよりも、誰よりも先に落ちてきた雨には奇跡をおこす効果がある】


この神の古墳には、最初の一粒が落ちた者の願い事は叶えられるという古い言い伝えがあったのでした。


曇っていた空の晴れ間から一筋の光が丘の上のオーソンを照らしました。これは願い事が叶えられた証拠です。


オーソンが家に帰ると、足を怪我したお父さんが戦火から帰ってきていました。お母さんの咳は止まって、嬉しそうにオーソンの大好物なトマトシチューを作る準備をするまでに回復していたのでした。


「リカベッティーの丘で奇跡が起こった」という噂はたちまち城下町でひろまり、側近から王様の耳にまで達するようになりました。


「なに、古い言い伝えが本当だっただと?よし、大臣。お前が最初に行ってこい! いや、待て。雨の最初の一粒がお前に降ってきたらお前が王様になりたいなんて言いだすかもしれん。わしが行くことにする」


王様は派手な衣装をまとい、側近を引き連れ、リカベッティーの丘に登っていきました。


「ほら、お前らはてっぺんまで登るんじゃない!」王様は、側近を遠ざけてから早速、天に向かってジャラジャラとブレスレットがいっぱいついた両腕を上げました。指輪もキラキラとまぶしいほどです。


王様が眼をつぶって天に両腕をあげていると偶然にもゴロゴロと雲が丘の上に広がってきました。


側近達や周りで見ている町民達はどよめき始めました。


王様は、両手を大きく広げ、丘のてっぺんで踊るようにウロウロと雨の最初の一滴を待っています。


そして、王様が待ちきれずに眼を開けた瞬間、ようやく王様の上に落ちてきたのでした。


「ゴロゴロ、ドッカーン!」


あたりは真っ白になって、王様は真っ黒になっていました。


どよめいていた町民は、一瞬、沈黙になったかと思ったら、丘から町に大歓声が広がりました。側近たちは茫然とし、町民は手を取り合って喜んでいます。


オーソンの奇跡は続いていたようです。


国には戦争がなくなり、シチューを作る煙がリカベッティーの丘より高くのぼる平和な国になっていきました。


やがて、オーソンが王様になってこの地域を治める時から、リカベッティーの丘では、両手を広げて踊る平和を祈るお祭りが毎年行われるようになったのだそうです。


おしまい

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短編童話【リカベッティーの丘】 ボルさん @borusun

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