バカになった。

 今日の私はIQが恐ろしいほど下がっている。


 先ほども「私」とタイピングしようとしたところ「綿」となった。まともに文字すら打ち込めなくなっている。


 最初に気付いたのは、深夜にやっていたアニメーション作品の録画を観終わったあとだ。


 登場人物の心情や行動の意味が何一つ理解できていなかったのだ。


 試しに途中だった小説を読んでみたら、これが果たして読めない。いや、文章は読めている。物語の筋は追えている。だが学びというか、その言葉の意味するところを深く理解できたといういつもの感覚が呼び起こされない。そう言った意味で、まったく読めていない。


 あまりにもといった体たらくであったため、仕方なく先回りして解説を読む仕草に至った。いつもであれば本編をまっさらな状態で読み切ってからとりかかるものをだ。それほどに、頭が悪くなっていた。


 しかしながら、これもバカと化した脳がなせる業なのか、嫌な気はせんのだな。


 むしろ、気分は良い。


 なんということだろう。


 私は史上空前にIQの下がり切った自分の状態を好ましく思っている。


 正直、私の頭が悪いのは今に始まったことではない。


 普段から浅学非才―――どころか無学無才の無い頭でいろいろのことを考えて、どうにかこうにか読める(読めているだろうかと日々不安にもなる)文章にしたためている類の人間である。


 それは己がもっとも了解している部分ゆえに、下手の考え休むに似たりと、むしろ何も考えん方が私のQOLは上がるだろうとも思っている。


 つまりその「下手に考えない」ことが達成されておるわけだ。


 なにやら季節の変わり目か、グッと冷え込んだ秋の日中のいたずらか、ドアホのドタマがパープーになっとるこの状況は、“善し”なのである。


 人間は他の哺乳類と比べて大脳新皮質や前頭前野が発達し、それが獣が持つ古い脳の部分や偏桃体へんとうたいを抑え込んでいる。


 それは、往々にして物事を平和的に解決する源泉になっているが、ときとして野生では成せぬ狂気と破局的な暴力を呼び起こしてしまう。


 考えられるあまり、新たな問題がこしらえられてしまった。


 私は、そういった面で人間らしい愚かしさにもうんざりとしており、どうにか平和的な阿呆でありたいと望んできた。


 それがこれなのかもしれない。


 どことなく“禅”に近いような気もしている。格好をつけ過ぎか。


 まぁ、いつまで続くか分からないが。


 しばらくはバカなままでいたいものである。

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