生きていて申し訳ない。
いわゆる境界例の自己診断テストなるものを受けたことがある。
質問の項目は、その人の自己評価の低さや自己否定および自罰感情、他者からの見捨てられ不安などの傾向を測るものに思えた。
たとえば『もう何をするにも遅すぎる(と思っている)』とか『自分には将来への希望が無い(同)』とか『自分は他者に何の利益も与えられない(同)』とか『消えてしまいたい(同)』とかである。
十年ほど前にやったとき、これがビシバシとばかり大当たりしてしまい「ただちに専門家、医療機関に相談するように」と言われてしまった。
結局行かなかったが。
というのも、たしかに私は自己評価が低く、自己否定的で、希死念慮が強い人間ではあるのだが、それは仕方がないことだとも思っているからだ。
それに、質問の項目もチェックを入れるには入れたが、微妙に的を外しているようにも思えた。
なぜそう思ったのかというと、そもそも私にはやる気がないのである。
身も蓋も無い。
だがそうなのだ。
人生を「どうせ最期には死んでしまう空虚なもの」としか思えないのだから、目標やら夢を設定したり、それに向かって努力したりする気など一切起きない。
そんな人種に、将来もなければ他者貢献もできないのは当然なのである。
因果が逆だと言われるかもしれない。
つまり、人生が空虚だから頑張れないのではなく、将来を設計できず努力でない=頑張れない理由として人生の一面である空虚さを持ち出して言い訳をしておると、そういう捉え方もできる。
そしてその「頑張れない状態」なるものは、神経系のドーパミンだのセロトニンだのが出るシナプスやらそういった管やらが詰まり切っておるのだからして、そこのところをスッキリとさせれば、もっと活き活きと
否定はしない。
だが、興味はないのだな。
人生が無意味無価値で空虚なこと(そう思えること)自体は好ましく思っているからだ。
“無い”ことは“有る”より善い。
だから私はこのままでいい。
この明確にした主語が大事だ。
私はこの空虚な人間のままで良しと思っている。
だが、私以外の人間にとってはどうだろう。
こんな万事において根本的にやる気のない私などに関わってしまったせいで、迷惑ばかりかけてきたと思う。
誰もが大なり小なり人生に希望だとか未来だとか、ある種の切迫感や焦燥感を抱きながら生きている現場に、真に空っぽな奴が入り込んで漫然としている。
明らかな異物だ。存在自体が水を差すと言っても言い過ぎではなかろう。
私とて人の子である。大人たちや周りの人間が私にどういった者でいて欲しいかは分かっていたつもりだ。
だから、それなりに努力の真似事をして自分なりに必死で『求められる祖父江直人』をやっていたつもりだ。
そして、できるだけ「頑張って生きている者」の邪魔にならんところでおとなしく座っている。
いつも「申し訳ないな」と思っていた。
みんな頑張っている空間に、私などがいると雰囲気は醒めてしまうだろうな、と。
本当なら人里離れた山奥だとか、無人島だとかで暮らすべき人種が混じってしまって、申し訳なかった。
そこに卑屈さはない。
単に心の在り方が違っただけだ。
私は人生を無意味だと思う。彼らは意味があると思う。
その価値観に違いはあっても差はなかろう。
「申し訳ない」というのは、私にはせめて謝ることくらいしかできないがという、諦観の苦笑が混じったものだ。
しかしながら、と、ここからは弁解である。
私の方もなかなかに辛かったのであるぞ、と言いたい。
生きる気の無い、さりとて死にもしない空虚な人間が、活発に「生きたい」と思う人間たちの間で暮らすことは辛いことなのだ。
何をするにも「やる気を出せず、すみません」「人生に意味を見いだせず、すみません」「あなたたちが何を考えているのか理解してあげられず、すみません」「などと心の中で謝ることしかできず、すみません」と平謝りしながら生きてきたのだ。
多少は、それこそ「頑張った」と褒めて頂けても罰は当たらんのではないか。
私の心が安住できる場所は、この人間社会にはない。
それは、もういい。
十二分に理解した。
なので、もう謝らない。
私は謝らんぞ。
何が“なので”なのか、接続詞の使い方がおかしいと自分でも思うが、私は私の空虚さが他者に迷惑をかけたとしても、もう謝らない。
それだけのことを書くために、これまでで最も長い手紙になってしまった。
いや、これは手紙なのだろうか。
友からは「勝手にしろ」と短い返事が来る類の演説でしかないのではなかろうか。
それもよかろうよ。
友よ、今日は何の話かずいぶん時間を取らせた。
下のコメント欄に「勝手にしろ」とでも書いてくれ。
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