主従関係考察/手を繋ぐということについて。
陸一 じゅん
主従関係考察
「おいで」というのなら、お前が来いと心底思う。
もしくは
さて、戯言はここまでとして。
ここまでは、相手が赤の他人だったならばのお話である。
◆◇◆
堤防の上、相棒はまるで青春モノのドラマか漫画かのように、声高に夕日に向かって叫んだ。
「行けるわけねーだろォがよー、ばかやろー」
何がバカヤローなのか。
堤防の下、川原で石投げをして遊んでいた親子が、驚いてこちらを見ている。謝罪の変わりにオレの胸ほどにしかない頭を軽く叩いて、帰りを促した。
「オラ、行くぞ」
「婦女暴行罪で訴えるぜ」
「婦はフでもお前のは腐った方の腐だろう」
「あーいま脳細胞が死んだ。二億の健康な細胞が。死滅したぁ~あ~」
「とっくに腐り落ちてんだよ」
「腐ってんのはあっちだってよ」
人差し指をピンと立て、俺の後ろへ腕を伸ばしてまっすぐにさす。
「あのねぇ、アタイの目にゃね、蛆虫わいた生首がなぁ、爛れた右手を手招きながら、オイオイオイオイ泣いててネエ? 」右手を頬に当てて、切なげに目を伏せ、泳がせて見せた。
「あっ消えた! いま消えた! あたかも蛍の光かのごとぉくッ!」とりあえず、実況中継はしなくていい。
さて。
『見える』こいつは、本当に見えるだけらしい。しかし本人が少し構えて少し頑張れば、触れられることもあるそうだ。
確立は五分五分。
ひとりじゃなければ、見えるだけで害無く利も無く。誰かといることでそれは防げる。
「夜とかね、出てごらんよ。ビクッとなるぜ」
そりゃなるだろうさ。
「おれはアンタが見えないってのも不思議だっつーのよ」
「見えるわけないだろう」
元来、見えるものではないはずだ。現にオレ自身、
しかしこんな話をしているからか、薄暗い帳の落ちかけた帰り道が、やたらと気味悪く見える。
こいつの知人が住んでいるマンション、変わり映えのしないアスファルトの地面、そこの隙間から生えた揺れる雑草さえにも、ゾクッと背筋が寒くなる。
が、
「手、つながない?」唐突な申し出だ。
「何、オマエ」
さすがにオレも、そこまで恥は棄てない。というか棄てきれない。
物凄く顔を歪めてしまったオレの顔を見て、「仕方ねぇ、こっちで我慢してやるよ」と、奴は袖をつまんだ。「……ちょっと何なの。やめてください~」
「何だよ悪いかこのやろー怖いんだよ」
いや悪くはないが。
「……誰かに見られたら変に見られないか?」
「ぷぷー出ましたーっ!ツンデレツンデレ!!」
いやいやそうではないのだけれど。
……ていうか一気に元気になったなお前。
「おいこら相棒、着替えるなら部屋に行け。居間で脱ぐな」
「おれの裸見て興奮すんならロリコンの兆しだぜ相棒。つーかおめー、どうせ部屋着いてくるだろうが。ん? 見たいんか? 」
それは絶対にない。
「微笑ましくはなる」
「お花愛でる感覚か。このロリコン」
「いや、誤解だ。小動物を愛でる感覚に近い」
「おれは何だ!ハムスターか!!」
「いや……ゲッシルイってよりかは……」
そういえば改めてコイツを見る。
一般日本人の茶色い目と黒髪。大きい黒眼がじっとこちらを見る。年齢にしてありえない140センチ以下幼児体系。椅子に座れば足を揺らし、何故か大きくならない見た目は子供、中身は一点特化して大人。そんな感じ。
「豆柴……って、あったよなー」
そっくりだと思う。
「ふん。いいじゃないの。よし、おれのFacebookのアカウントは豆柴のイラストでいこう」
はあ、お気に召したようで。
◇◆◇
もし、
それがもし、おれが重い腰をあげるだけの価値のある存在だったとして、立ち上がるまではしてやるものの、この両足を動かして、お前と同じところまでいってやるのは大変億劫な事この上ないので。
その場合、時間経過を忘れて待つのは得意なこの俺様が、おれの頭を撫でてくれるまで、ぼーとしながら待ってやろうと思うのですが。
◆◇◆
触れない頭に手を置いた。
「ならお前は、おれの後ろを歩く飼い主で」
「それは逆だ」
「飼い犬に下克上された飼い主設定でいいじゃないの、守護霊さん」
「年上だろ」
「死人に年なんざ無ェだろうよ」
「死んだら皆仏様だろ」
「一休さんは、死んだら皆骨だって言ってたよ」
さぁ。それはどうでしょうかね、相棒よ。
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