ビート・ビーツ・ザ・ビート
HaやCa
第1話
「なあバンドやんね?」
5人のうちの誰かの言葉がきっかけだった。
青春は駆け抜け、わたしは彼も、みんな音楽を刻み始めた。
好きなジャンルはまるで違ったけど、いつしかひとつのビートをつくっている。
その感覚が忘れられなくって、夢中になった。いつか別れが来ることも、受験勉強も全部遠くに追いやって。
青い空が滑るように、バンド仲間の間に亀裂がはいった。
見過ごすべきだった、たったひとことの言葉が、ありのまま吐き捨てられたのだ。
「やめてください! こんなの、わたしいやです!!!」
メンバー唯一の後輩ちゃんが声を押し殺した。
もがく姿はわたしにも見えて、ああそうだったんだなと気が付いた。
「後輩ちゃんは悪かねえよ。コイツが一生黙ってれば済んだ話だよ」
「テメェッ! 誰のこと指してるだよッッ!!」
殴る。蹴る。
生身の人間の血が散る。
男子たちのいさかいを仲裁できず、わたしや後輩ちゃんは泣いていた。
泣いたら、みんなの気持ちがあの頃に戻れる気がしてた。
救急車のサイレンが校舎を劈く。
生徒や先生、だれしもがバンドメンバーを取り巻いた。
担架で運ばれる二人をオモッタのか、ファンの女の子が涙を落とす。
ファンの子を泣かした、罪悪感はあの二人がしょうべきだろう。
それでも怒りは込み上げるばかりだ。
「聴こえますか?」
「ええ。って、はい!」
「ああよかった。先生、アナタに言い忘れたことがあるんです」
夢のなか、担任の先生がおだやかにいう。
「アナタの命があって本当によかった。あの二人も無事みたいですが、ドロップアウトは避けられませんね」
「そんな……。二人は悪くないんです。わたしが、監督責任を怠ったから」
「じぶんを責めるのは間違いですよ。アナタに非はない。悪いのはアノ二人です」
残酷だけど、真実であることはわかった。嫌で嫌で絶対に認めたくないけど。
「先生、これからどうしたらいいですか」
「泣かないでください。アナタの取り柄は笑顔でしょう」
「でも」
「ひとつ、アドバイスをします」
赤いチョークを手に、文字を書く。
センチメンタルな匂いがした。
「ビート・ビーツ・ザ・ビート。アナタ達が最初に作った曲です」
「――」
「アナタ達も心臓を叩いて生きている。まっすぐであり、ときに不器用でも」
「だから」
私の言葉に覆いかぶさった。
「だから、自分らしく進めばいい」
「ふっ。意味わかんないですよ、それ」
すこし、気が楽になったかも。
ビート・ビーツ・ザ・ビート HaやCa @aiueoaiueo0098
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