第28話

リズリナさんとネネちゃんの言い争いは、俺がカレーを作るという事で丸く収まったので良いけど、問題は今である・・・・・・。


「エルちゃん、ニンジン洗ったよぉ!」


「ジャガイモ洗い終わりましたぁ!」


「ああ、ありがとう」


二人共なんで睨み合っているの?


「あ、ありがとう二人共。それ切るから置いておいて」


「分かった!」


「うん!」


二人はそう言うと、また睨み合いを始める。


なんでリズリナさんとネネちゃんは、仲良くしてくれないのかなぁ?


そんな事を思っていると、見回りをしていたエイミーさん達が帰って来た。


「あらまぁ・・・・・・エルライナったら、ホント二人に好かれているわねぇ」


「まぁリズリナはともかくとして、影の者の子はエルライナのファンらしいからね」


そうです。ネネちゃんは総合ギルドが創設した俺のファンクラブに入っているもんなぁ〜。


「二人共エルライナのお手伝いをしていて、偉いわねぇ〜」


「そうねぇ〜・・・・・・野菜の下処理とかしてあげれば、もっと喜ぶと思うわぁ」


ミュリーナさんの言葉に、二人はハッと気づいた様子で俺を見つめて来た。


「エルちゃん! ニンジンの皮を剥いてあげるね!」


「私はジャガイモの皮を剥きます!」


「あ、うん・・・・・・お願いね」


二人はそう言うと、それぞれ野菜を持って皮剥きを始める。


「二人共、なんでやる気になっているんだろう?」


「まぁそれは・・・・・・」


「ライバルだから」


ライバル? この二人が?


そんな事を思いながら、牛肉を切って温めていたフライパンの中へと入れる。


「ねぇエルライナ。鍋ものなのになんで炒めちゃうの?」


「ああ〜、こうする事によって肉のうま味を閉じ込めつつ、余計な油を取る事が出来るんですよ。余り炒め過ぎると味が落ちるので、軽くに止めておきます。

ネネちゃん! ジャガイモを切るのは良いけど、小さいと煮崩れしちゃうから大きめに切ってね!」


「わ、分かりましたぁ!」


ネネちゃんはそう返事をすると俺に言われた通りに切っていくが、時折りリズリナさんを睨むので不安になる。


「二人共仲良くして欲しいなぁ・・・・・・」


俺の言葉を聞いていたエイミーさん達は笑っていたが、なんとか日が落ちる前にカレーが出来た。


うん、完成!


「みんな、ご飯粧うから座・・・・・・って?」


振り返るとリズリナさん達の他に人が座っていた。


なんで呼んでない人達までいるのかなぁ!?


「え? それは俺達だって、故郷の味を堪能したいじゃないですか。ねぇ美羽?」


「そうよ。それに私達に黙ってカレーを作るなんてヒドいじゃない!」


「ん・・・・・・言ってくれれば、手伝ってた」


言う前に居場所が分からなかったから呼べなかったの! なんて事を言ったら、どんな事を言われるのか分かったものじゃない。なので!


「それは悪かったと思いますよ。でも、どうやってこの場所を知ったんですか?」


「トウガさん達にエルライナさんの居場所を聞いたら、教えてくれました」


あ、なるほど。そういう事だったのか。


「お代わり分を考えて作ったので、量は充分にあります。なので食べて行ってください」


俺はそう言ってから、みんなの前にカレーを出してあげた。


「さぁ皆さん、食べてください!」


「あの、エルライナさん。申しわけないんですけど、大盛りにしてくれませんか?」


「すみませんが、人数分の関係で出来ません!」


明日の分を考えて六人分よりやや多めを想定して作ったから、足りなくなるのは目に見えていた。


「準備している段階で話してくれれば、こんな事にはなりませんでしたよ。一応お代わり一人前分はあるので安心してください」


そう言ってから、自分の作ったカレーを食べ始める。


・・・・・・うん。ちゃんとした調理器具がないところで作ったにしては、美味しいものが出来た。


「・・・・・・エルライナ」


「ん? どうしたの伊織ちゃん?」


「スライスしたチーズある?」


「あるよ」


伊織ちゃんはチーズを乗せて食べる派なんだなぁ。


そんな事を思いつつ、伊織ちゃんにスライスしたチーズを渡したら、今度は美羽さんが話し掛けて来た。


「ソースある?」


「はい、これ」


美羽さんご指名のソースを渡してあげたら、とても嬉しそうな顔でカレーにソースをかけた。


「ねぇエルライナ?」


「ん? ミュリーナさん、どうしたんですか?」


「あの子達は変わった方法で食べているけど、美味しいのかしら?」


「調味料を入れるのは人の好みの問題なので、私にはなんとも言えません」


因みに俺はご飯と混ぜる派なので、一口食べてからは頑張って混ぜております。


「な、なるほど・・・・・・これには色んな方法で食べるのね」


「たかがカレーと思っていたけど、奥が深いのね」


そう言いつつエイミーさんとミュリーナさんは、ご飯とルーの割合を考えながら食べている。王道の一つだなぁ〜。


「ジィ〜・・・・・・」


「ん? どうしたの、ネネさん」


「なんでもないです」


イヤイヤ、ネネちゃん。リズリナさんが俺と同じ様にカレーをかき混ぜてるのを見て気にしていない?


リズリナさんも俺と同じことを勘づいたのか、ネネちゃんに嫌味な顔で見つめる。


「私はエルちゃんと同じ混ぜる派だから、こうしているんだよぉ」


「ムゥ〜ッ!?」


ネネちゃんは頬を膨らませると、自分に配られたカレーを混ぜ始めた。


「もしかして、私のマネをしているのかな?」


「私はお姉様の同じ事しているだけで、アナタをマネているわけではありません!」


ネネちゃんはリズリナさんを睨むのに対して、リズリナさんは余裕そうな顔でネネちゃんを見つめる。


微笑ましいと言うべきか、それとも喧嘩をしないで! と言えば良いのか分からん・・・・・・ん?


視線が気になったので周りを見てみると、周りにいた兵士達が俺達の料理に興味を持っているらしく、カレーをガン見していた。


これはちょっと気になるなぁ〜。


「エルライナ。周りの人達を気にしなくて良いわよ」


「え? でもぉ〜・・・・・・」


なんか欲しそうにしているじゃん。


「気持ちは分からなくないけど、彼らには彼ら用に支給された食事があるから」


「携帯食料ですか?」


「干し肉とか乾燥させた食べ物だから、そんな感じね。それに周りで狩った鹿とかを調理してるし、なによりも私達の分しか作ってないんだから」


「それなら、気にしなくても良いかな」


まぁ自分達の分も作って欲しいって頼まれてないし、なによりもお金を貰ってないからな。


ミュリーナさんの話のお陰で、周りが気にならなくなった。そんな中、大輝くんが俺の側までやって来た。


「あの、エルライナさん。可能でしたら、カツをカレーに乗せて貰えないでしょうか?」


「「「この状況で無理に決まっているでしょ!」」」


俺どころか、美羽さんや伊織ちゃんが同じ事を大輝くんに言った。


「まさかとは思うけど、エルライナに言えばすぐに作ってくれると思っていたの?」


「いや、それはぁ〜・・・・・・」


「大輝・・・・・・カツは溶き卵に漬けたりパン粉まぶしたりするから、作るのに時間が掛かる。それを分かっていて言ってるの?」


「いや、作り方全然知らなかった」


ああ〜なるほど。大輝くんのお家は母親が作ってくれている感じなんだな。


「それにエルライナの負担になるから、少しは自重するべし」


「あ、はい。無理を言ってすみませんエルライナさん」


「分かってくれれば良いよ。今度家に来た時に、作ってあげるから」


「ありがとうございます!」


大輝くんはそう言うと嬉しそうに席に戻るが、美羽さん達が俺の事を睨んで来た。


いや、俺は大輝くんと恋愛関係を持つ気はないから、そんな顔をしないでくれよ。


ちょっと肩身が狭い思いをしながら、カレーを食べるのであった。

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