第28話
「このチクショウがぁぁぁああああああああああああっっっ!!?」
書斎に置いているイスを持ち上げると、すぐ側にあった本棚に投げつけた!
「あの女は俺の事をどこまでコケにする気なんだっ!?」
自分が築き上げた金が瞬く間になくなり、王都内にある支部が全て自然な形で潰された。それだけならまだしも直属の部下達が俺に見切りをつけたのか、ほとんどいなくなってしまった。
そう。女の殺害を依頼されてから早数日、十年近くで築き上げた闇ギルドが存続の危機に立たされているのだ。
「ボス・・・・・・もう諦めましょう」
「そうですよ。俺達の方が危うい状況になっています。だから、逃げましょうよ」
「ばっ、馬鹿を言うな! ここから逃げたら俺がどうなるのか知っているのか?」
「どうなるって・・・・・・」
目の前にいる部下は知らないが、スラムのチンピラだった俺に声を掛けてくれたのがあの人だった。
俺だって最初見た時は、 なんだこのガキは? 思った。しかしそのガキは俺にこう言って来たんだ。 もし、僕の言う通りにしていたら、今よりももっと良い生活が出来る様になるよ。ただし裏切る様な真似をしたら容赦しないよ。 ってな。
俺は最初は ガキの冗談だと思いながら付き合ってやったら、ガキの言う通りに王都一の闇ギルドにまでなった。
「お前らはアイツとあんまり関わっていないから分からないんだ。アイツの恐ろしさに」
そう、アイツは屠った敵を実験台にして得体の知れない魔物にしたり、拷問まがいの事をして相手をジワジワと精神を追い詰めて殺したりと、すぐ側で見ていたから恐ろしさが分かる。
「俺だって、逃げられるのなら逃げている!」
「逃げられるならってぇ・・・・・・・絶対見つけられる様な言い方をしますね」
「見つけられる様なじゃない! アイツは俺の事を容易く見つけてくるはずだ!」
「はぁ・・・・・・俺達はそうとは思わないんですけどね」
クソッ!? そう言えばコイツらは俺とは違って約束をしていてないから、気楽にしていて良いんだったな。恨めかしい奴らだ。
「とにかく、この本部はヤバい状態だから場所を移しましょう!」
「そうですね。ボスの別荘の方へ逃げましょうよ! あそこなら王都から離れていますし、何よりも道が複雑だから中々行けるところじゃないんですから!」
コイツらは逃げる気満々だ。
「・・・・・・さっきも言った通り無理だ。この場から離れられない。この場であの女をなんとかしないと」
「そうですか。何か策でもあるんですか?」
ないから困っているんだろ! この大馬鹿者がぁっ!!
「このままじゃマズいこのままじゃマズいこのままじゃマズいこのままじゃ・・・・・・」
恐怖にも似た表情で言う姿に、彼らは引いていた。
「ぼっ、ボス?」
「・・・・・・やはりここはお前達の言う通り引くべきなんだろうな」
「そうですよ。その判断が懸命だと思います!」
部下には悪いが、俺はひっそりとボスを引退させて貰う事にする。考えてみたらそうだ。今から逃げれば間に合うはずだ。
「荷物をまとめろ。別荘の方に行くぞ」
「うぃっす!」
「了解です!」
部下二人はそう言って出入口の方に向かおうとしたのだが、たどり着く前に扉が開いた。
そして中に入って来た人物にボスは驚愕の目を向ける。
「あ、アナタは・・・・・・」
「話は全部聞かせて貰ったよ。なに、逃げる気なの? ボクとの契約に違反するつもりなの?」
最悪だ。ここに来ていたなんて。
「いやいやいや、待ってください! 別に俺達は逃げようと考えてないですよ。なぁお前達?」
「そうですよ! 俺達は一旦身を引いて体勢を整えてから、あの女をどうやって始末しようか考えようって結論に至ったんですよ」
「ふ〜ん・・・・・・ところでさ。ボクがここまで大きくしたギルドが、ガタガタになっているんだけどさぁ。これってどういう事なの?」
「それはですね。あの女が原因で・・・・・・」
「キミが無能なだけの間違いじゃないかな? 現に彼女の手のひらで踊っている様な状態に見えるんだけど」
その言葉に対して部下達はムッとした表情をさせるが、俺が制して抑える。
「確かに、アナタの言う通りかもしれません。でも信じてください! 必ずや我々は彼女を出し抜くと!」
「そうは見えないんだけどなぁ〜。だってキミ達、ここにいるだけでなんにもしてないじゃん。
そんな人達があのエルライナを倒せるの?」
「さっきから聞いてりゃ、言いたい事を好きに言いやがって!」
部下の一人の堪忍袋が切れたのか、彼の前へと出た。
「よせ、戻って来い!」
「俺達だってなぁ、必死こいてやってんのにテメェは何様のつもりなんだ?」
「何様って、ボクはここの創設者だけど。それがなにか?」
その言葉を聞いた部下はゲラゲラと笑い出したが、後ろで見ていたボスは顔を青ざめさせていた。
「お前みたいなチビが創設者だぁ? ふざけた事をぬかしてんじゃねぇぞ! 俺もだいぶ前からここにいるが、お前の顔を見た事ねぇよ!」
「それは彼に経営を任せて研究ばっかりやっていたから、キミがみた事なくて当たり前だし、ここにいる誰よりも強いからその剣を仕舞おうか」
そう、あの人が言う通り、部下は腰にさしていた剣を手に持っていたのだ。
「そうかい。俺の見立てじゃ一撃で屠れると思うが?」
「それはこっちのセリフだよ。今それを仕舞えば許してあげるよ」
「って、言っていますけど、どうしますボス? コイツをここで
確かにそうだが、違うとも言える。
「・・・・・・剣を仕舞って戻ってこい」
そう言うが部下は聞く耳を持つ気はないらしく、剣を構えたまま歩み寄った。
「残念だったな。坊っちゃん。ここは一人で来る様な場所じゃなかった事だけ知っていれば死なずに済んだのによぉ」
「ふ〜ん。死なずにねぇ」
「そうだよ。じゃあなガキんちょ。俺を怨むなよ」
部下はそう言うとニヤけた顔のまま剣を振り下ろしたが、その剣は途中で止まってしまった。
「なっ、なんだとぉ!?」
そう、彼が部下の剣を片手で受け止めたのだ。
「一撃がどうって言っていたけど、これがキミの一撃なの?」
「クッ、クゥッ!」
「それじゃあ、ボクの番だね」
彼がそう言った瞬間、部下が宙を舞い上がって床へと倒れ込んでしまった。
「なぁっ!?」
隣にいた部下は、一体なにが起こったのか検討もつかない様子で横たわっている同僚を見つめていた。
「キミは知るべきだったね。ボクがこのギルドで一番偉い立場だって。さて、キミ達の事なんだけど・・・・・・」
ボスは死を感じ取ったので、床に膝を着き頭を下げた。
「私の部下が飛んだ御無礼を言い足しまして、本当に申し訳ありません! どうか、どうか命だけは許して頂けないでしょうか?」
「別にキミ達の命を取る気はないよ」
「ほ、本当ですか?」
その言葉を聞いたボスは、 救われた! と思いながら頭を上げた。
「うん。もう勝手に王都から離れようとしない事と、この男の処分をちゃんとする事を約束してくれたら、命は取らないよ」
「約束します! 必ず我々の手でアイツを処罰致します!」
「うん。それでいいよ。それじゃあボクは他に用があるから帰らせて貰うよ」
「はっ、はい!」
彼が背を向けた瞬間だった。ガシャァァァアアアアアアンッ!!? といった窓が壊れる音と共に中に何者かが入って来て、彼を蹴飛ばしたのであった。
「なっ、なんだぁ!?」
ボスが混乱をしている中、侵入をして来た人物が黒いなにかを突きつけて来たのだ。
「動くな! これ以上妙な動きをを見せるのであれば、容赦なく撃つ!」
「そ、その声は!」
そう、窓を破って入って来たのは、ターゲットであるエルライナだったのだ。
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