第26話
「全ての歯車が狂い始めた?」
記者が首を傾げていると、甲信は記者に近づき話し始めた。
「ああ。元いた会社が経営難から脱したのを聞いた彼奴は、元勤めてい・・・・・・設立に携わった会社と言った方が正しいか。彼らを見返す為に一人で会社を設立した。
それと同時に秋斗と春人の状況にも変化が訪れたんだ」
「変化・・・・・・ですか?」
「そうだ、父親が起業に自棄になっている間は母親の方は、秋斗に勉強を詰めにしてたいんだ。しかも逃げない様に、ほぼ毎日監視をしている状態でな」
「それって、ヒドくないですか?」
最早子供に対しての虐待としか言い様がない。
「ああ、そして春人の方は夫婦揃って 穀潰し。 とか 疫病神 と毎日罵っていたんだ」
「それはもう虐待じゃないですか!」
「私自身もそう思ったぐらいさ。話を続けても平気か?」
「あっ! はい、どうぞ続けてください」
いけない。春人くん達の身の上話に夢中になってしまっていた。
「話の続きの方は、もう勘づいていると思うが彼奴の起業した会社は軌道に乗るはずもなく、倒産をしてしまったんじゃ。
そして彼奴は手元に残った金でまた起業するが、また倒産させてしまい、今度は負債を背負ってしまう事になってしまったんじゃ」
倒産する時に出た借金があったと聞いていたけど、まさか二回も起業をしていたとは知らなかった。
「負債を背負ってしまった彼奴は、落ちぶれた現状が信じられなくなってしまい、夜の店を渡り歩く様になってしまったんじゃ」
「夜の店? お金はどこからか借りていたのですか?」
「闇金を転々と借りていたらしいんじゃ。全く、そのせいでどれだけワシが苦労したと・・・・・・」
話から察するに、どうやらこの人が息子の借金をなんとかしたみたい。
「そんな堕落した生活を続けていたら事件が起きた」
「事件・・・・・・まさか! あの秋斗くんが亡くなった話ですか?」
「ああ、友人と橋の上で遊んでいたら、誤って転落をしてしまった話じゃ」
友人達と橋の上で遊んでいて、秋斗くんがふざけて手すりに登って歩いた。友人達の危ないと言う注意も聞かず続けていたら、誤って地面へと転落してしまった。悲劇とも言える事件。
「その話を聞いたワシは仕事を放り出してすぐさま秋斗がいる病院に向かったが、時既に遅く。秋斗はもう亡くなっていたのだ」
「そう・・・・・・だったのですね」
「悲そうな顔をしているところ悪いが、この話には続きがあるんじゃ」
「はぁ、続きですか?」
秋斗くんが亡くなってしまった後の話なのかも。
「秋斗が亡くなり悲しんでいるところに、遺体安置所の外から怒号が聞こえて来たんじゃ。
ワシは なんじゃろうか? と思いながら外に出てみたら、あの夫婦が春人に向かって 秋斗じゃなくお前が死ねば良かった。 と罵声を浴びせていたんじゃ」
ヒドい。実の息子に向かって、そんな事を言うなんて。
「その様子を見たワシはすぐ様二人を止めて、春人をた助けたじゃ。そしたら彼奴らは何と言ったと思う?」
「邪魔をするな。とかですか?」
「いいや違う。なんで疫病神なんかを助けるんだ? と言って来たんじゃ」
そんな。自分達の子供に向かって、なんて言葉を・・・・・・。
「その言葉を聞いたワシは、もちろん怒りを覚えた。故にワシは春人を引き取ったんじゃ。
その後の結末はお主が知っての通りの展開になった」
「父親は借金取りから逃げる為に消息不明・・・・・・と言うよりも失踪してしまい、最終的に秋斗くんが落ちた橋で飛び降り自殺をしてしまった。母親に至っては弟の亡くなった事に対しての消失感なのか精神が病んでしまい、精神病院に送られた。
しかし、 私はここにいるべき人間ではない! だからここから出しなさいっっ!! 秋斗が家で待っているの! だから帰らせてっ!! と言った言動や非行を繰り返し、最終的に病室で自殺をしてしまった」
そう、悲惨な結末を迎えてしまった家族。便宜上ではそうなっているが、甲信さんの話を聞くと、自業自得としか思えなくなっている自分がいた。
「そうじゃな。しかし、父親の方は少し違うぞ」
「違う? それはどういう事ですか?」
「あの家族から春人を引き取った後、春人の才能が開化したんじゃ・・・・・・いや、彼奴らが気づけなかった才能があったと言った方があっておるのぉ」
夫婦が気づかなかった才能? まさか!
「春人くんには、格闘のセンスがあった」
私がそう言うと、甲信さんは首を縦に動かして頷いた。
「あの二人は学問の方しか見ていなかった。故にあの子の身体能力に目を向けなかったんだとワシは思っておる。
それで話の続きじゃが、その才能に気づいたワシは知り合いの格闘家に春人に預ける事にしたんじゃ。その本人から、 この子は逸材だ。 と話していたよ」
「逸材ですか?」
「ああ、あの子は格闘以外にも、軍が受ける講習も訓練も十二歳の時にパスしているんだ。まぁパスと言っても、春人の師匠が本物の軍がやる試験をそのまんまやっただけじゃがから、本当の軍人になれんがな」
甲信のその言葉に、信じられないと言いたそうな顔になる記者。
「まぁ、そんな顔になるのも無理はないじゃろうな。しかし、ワシが言っている言葉は真実じゃよ。それを証明出来る映像がある」
甲信さんがそう言って取り出したのは、Blu-rayディスクだ。それをレコーダーの中に入れて、再生させた。
「なにが始まるんですか」
「説明せずとも、観ていれば分かる」
「・・・・・・・はぁ?」
なにを言っているんだろう? と思いながら画面を観ていると、ボクシングのリングに筋肉質な男性が入り自信満々な顔見せている。そして反対側から来たのは・・・・・・。
「春人くんっ!?」
「そうじゃ」
そう、春人くんが屈強な身体を持つ男性と対峙しているのだ。
「春人の身長は176cm。対峙している相手は、身長196cmの現役キックボクサーじゃ。タイで修行をしている時に、その外国人が春人に対して喧嘩を売られたのが事の発端じゃよ」
「いくらなんでも体格差があり過ぎますよ! 大人と子供が戦っているって言われてもおかしくありませんよ!」
しかも彼らを見ている外国観戦者も、春人くんを嘲笑っているのが観て分かる。
「・・・・・・」
甲信さんは答える気はないと言わんばかりに、私の言葉を無視する。
「この試合。外国人の方が春人くんの事をボコボコにして終わりしか・・・・・・」
「試合が始まるから、黙って観ておれ」
甲信さんがそう言うので私は黙って観る事にしたら、ゴングが鳴り試合が始まった。
当然現役キックボクサーは、春人くんを挑発する様に、ニヤついた顔で打ってこいと手招きをする。それに答える様に春人くんがキックボクサーに近づいて膝目掛けて蹴りを放つが、ここで目を疑う様な光景を目の当たりする。
「・・・・・・え?」
どう言う事? なんでキックボクサーが膝を着いているの?
そう、キックボクサーが春人くんの蹴りで、マットに膝を着いたのだ。しかも蹴られた本人も、自分が膝を着いているのが信じられないと言わんばかりの顔をしている。
「気が緩んでいただけですよね?」
「ここに映っていた春人の師匠以外の全員そう思っていた」
キックボクサーはすぐに立ち上がると、すぐに春人くんに向かってジャブを繰り出すが春人くんはそれを腕で塞ぎ、逆にジャブを二発お見舞いした。
「ジャブで相手の体勢を崩した」
「左脚にダメージを受けておるからのぉ」
そして、そこに追い討ちをかける様に右左のフックでキックボクサーの脇腹を殴るとキックボクサーは相当効いたのか前のめりになった。
春人くんはその隙を逃さないと言わんばかりに、一気に懐に入ってアゴの下に滑り込む様なアッパーカットを繰り出した。誰がどう見てもクリーンヒットとしか思えない強烈な一撃。
その一撃を喰らったキックボクサーは、天井を見上げた後にマットへと沈んで動かなくなった。
「まさか・・・・・・」
体格も体重も勝る相手に勝った。
「そう、春人は非公式じゃがキックボクサーに勝ったんじゃよ」
唖然としている人達を尻目に春人くんはリングを出ていくのだが、どこかつまらなそうな顔をしていた気がしたのは、私の気のせいだろうか?
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