第22話

襲撃に遭ってから三時間後の屋敷のとある一室。落ち着いた落ち着いた表情を見せるが身体から怒気を発しているので、同じ部屋にいる者達は恐怖を感じている。


「お前もここに逃げて帰って来たってわけか。しかも金どころか商品さえも持ってこないなんて・・・・・・」


「あ、いや・・・・・・これにはわけがありまして」


「わけ?」


「俺の後にいた護衛が死んで、その後を続くように次々と他の連中が突然と死んで行ったんですよ」


闇取り引きの担当者がそう言うと、男はイスから立ち上がり近づく。


「どうしてお前だけが生き残ったんだ?」


「へぇ?」


「どうしてお前だけが生き残れたのか? って聞いているんだっ!!」


「ヒィッ!? 俺にも理由が分かりません!」


闇取り引きの担当者がそう答えると男は深く溜息を吐いて離れたので、部屋にいる者全員は安堵の表情を浮かべた。


「私はね、こう考えているんだ。お前があの女の内通者だとね」


「なぁっ!?」


ボスのその言葉に、部屋の中にいる者達は驚いた表情になる。


「そんな! 滅相もございませんっ!! この私が闇ギルドを裏切るなんてことを・・・・・・」


「そうですよ、ボスッ!! 俺達だって毎日コイツの側にいたんですよ! 裏切り行為どころか密会をする時間なんてコイツになかったはずです!」


室内にいた他のメンバーがそう言うと、残りのメンバーも頷いた。


「しかしこうも簡単に商売の邪魔をされてしまうなると、誰かが裏切っている可能性が高いと思わないか?」


「確かに仰っている言葉は理解出来ます。しかし、疑いの目を向ける者は他にもいるでしょう? あの支部のギルド長とか・・・・・・」


「う〜む、確かにな。ところで、その元支部長はどうした?」


「未だに行方が分かっておりません」


「そうかぁ・・・・・・」


一室が暗い雰囲気に包まれる中、突然扉が開いた。


「誰だっ!?」


「誰だ。じゃないよ。ボクだよ」


「ッ⁉︎ 驚かせないでくださいよ。マスター」


マスターと呼ばれた小柄な男の子は、ボスの元へと歩み寄る。


「ゴメンゴメン。ところでさぁ。みんな暗い表情をしてどうしたの? なにかあったの?」


「はい、実はですねぇ・・・・・・」


支部を壊された事。麻薬畑を壊滅させられてしまった事。更には闇取り引きをしている最中に妨害を受けてしまった事を伝えた。


「そっかぁ〜、なるほどねぇ〜。ボクがわざわざ苦労して取って来た龍の牙を、換金出来なかったんだねぇ〜」


「はい。この男はトチりました」


「フゥ〜ン」


そう言って闇取り引き担当者の側まで行くと、彼の身体全体をジロジロと見つめる。


「・・・・・・うん。ねぇ、コイツどうするつもりなの?」


「スパイ容疑もかかっているので、こちらで処罰しようかと考えております」


「ならボクがコイツを貰って行って良い?」


「持って行くと仰いますと?」


小柄な子は闇取り引き担当者の手を取ると、ボスに向かって話し始めた。


「ボクがコイツを使ってあげようかって思っているんだよ」


「・・・・・・そうですか。マスターがそう仰るのでしたら、好きに使ってください」


「そう。じゃあ、遠慮なく無能くんを使わせて貰うよ」


そう言うとポケットから小さいビンを開き、液体を闇取り引き担当者にかけたその瞬間、まるで気を失ったかの様に床に寝そべった。意識があるのか、動揺したいるかの様に目を動かしている。


「途中で逃げ出したり暴れたりすると面倒くさいからね。麻痺薬で身体を動かせない様にさせて貰ったよ」


「彼をどうするつもりなのですか?」


「もちろんボクが実験台モルモットとして使わせて貰うよ」


闇取り引き担当者は目を見開き、助けを求める様な目で周囲にいる仲間を見つめるが、目を逸らすか見下す様な目で見つめられてしまう。


「・・・・・・そうですか。好きに使ってください」


「それじゃあ持って行くよ・・・・・・あ、そうそう! 言い忘れてた事があった」


「言い忘れていた事ですか?」


小柄な子がこっちに向き直ると、口元を歪めながら話し始める。


「ボクの依頼が失敗する様だったら、キミもこうなるから注意してね」


「じゅっ、重々承知しています」


その言葉を聞くと部屋から出て行く。


「・・・・・・危なかった」


彼はそう言うと、イスに座り込んでしまう。


「ボス。前々から思っていたんですが、あの子供は何者なんですか?」


「あの人はな、この闇ギルドの創設に大きく関わった人なんだ。だから、あの人だけは逆らえない」


「あの人がぁ? いやいやいやっ、待ってくださいよ! どう見たって子供じゃないですかぁ! 創設したのは二十年ぐらい前でしょ? だったらもっと大人びているはずだと思います!」


「ああ、本来ならそうだろうな。彼はエルフだから歳を取っていないと考えている」


いや、いくら成長と老化が遅いエルフ族だからって、二十年経てばある程度成長しているはずだ。


「言いたい事は分かるが、なにも言うな・・・・・・その方がお前自身の身の為にもなるからな」


「・・・・・・承知しました」


目を逸らしながらも後ろに下がる部下と共に、出入り口の扉が開いた!


「大変ですボスっ!」


「なんだなにがあったんだ?」


「取り引き相手の貴族達が次々に中止を持ちかけていますっ!!」


「なんだとぉ!」


取り引き中止と言う事は、折角用意した高額なアイテムがパーになってしまった。


「クソッ! どういう事だぁっ?」


「今回の取り引き失敗を受けて、今度は自分が狙われるのではないのか? と考える貴族が増えて来ています!」


まさか一人捕まる事によって、水面に落とした雫の様に波紋となって他の連中に広がるとは・・・・・・。


「他の取り引き相手に伝えろ! 今度はヘマをしないから、取り引きをして欲しいと!!」


「そう伝えているんですが、全く聞く耳を持たないんですっ! もうこの事態が落ち着くまで・・・・・・」


「それは出来ん!」


「なぜですか? 今無理にでも取り引きをしたら、逆に我々が捕まってしまう可能性が高いですよ」


そう聞くとボスは自分の感情を落ち着かせる為か、ティーカップに入っている紅茶を一気飲み干した。


「良いか。王都にあった支部が壊滅され、有り金の一部を取られて困窮している。それに麻薬畑をダメにさせられた挙げ句、取り引きにまで手を出して来た。

他の資金源が俺達にあると思うか?」


「別の街に創設した支部から金を渡して貰うのは?」


「そこはそこで金を貰っているが、増やしたらなにを言ってくるか分からないぞ。それに元は冒険者ギルドだったところ、そんなに払うのなら抜けると言うに決まっている!」


「確かに・・・・・・でも、そう考えるとマズくないですか?」


「なにがだ?」


ボスがそう言うと、部下は棚に置いていた本を取り広げた。


「ここのページに載っているのは元冒険者ギルドだったところばかりです」


「それがどうした?」


「もしも我々がヘマをし続けているのが知られてしまったら、彼らはどう思いますか?」


ボスは こんな不甲斐ない闇ギルドなんかについて行けない。俺達のギルドは今日限りで抜けさせて貰う! と言った言葉を投げかけるのを容易に想像出来た。


「どうにか出来ないものか?」


「出来たらこんな事を仰っておりません」


確かにその通りだ。 と思った瞬間だった。堅いの良い男が部屋の中へと入って来たのだ!


「お前は、冒険者ギルドの・・・・・・」


「そうだ。今日は闇ギルドに用があってここに来た」


「用? 一体なんだ?」


「我がギルドを闇ギルドの傘下に入るのを断わらさせて貰う! 以上っ!!」


「なんだとっ!?」


昨日まで嬉しそうにしていたのが、手のひらを返された様に言ってくるなんて一体どうしたんだ? って、そんな事よりもだ!


「待ってくれ! 一体どういう事なんだ?」


「先週から失態続きの闇ギルドを信用して入れって言っている連中と、手を組めると思うか? アンタが俺の立場だったらどう思うか、考えてみろ」


「それはぁ・・・・・・」


彼と同じく、信用出来ない。と思ってしまう。


「だからアンタらとはもう合わねぇ。じゃあな!」


「このまま帰ったら、どうなるのか分かっているのかぁっ!!?」


彼が出て行こうとしたところをボスはそう言い放つが、彼はニヤけた顔を向けて話し始める。


「今そんな事をしてみろよ。他にも傘下に置こうしているギルドも敵に回すと思うぜ」


「うっ!?」


そうだ。ここで断られてしまったから殺した。なんて理由は通用しないし、ましてやコイツの部下に恨まれるのが目に見えている。


「それが分かっているんなら、黙って見送るんだな」


彼が高笑いしながら帰るのを見送った後、ボスは怒りの形相で拳を机に叩きつけたのであった。

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