第25話

「いやぁ〜、すまない。眠ってしまって」


総合ギルドらしき髭面のオジさんは、そう言って頭を下げて来た。


「このところ忙しくてなぁ」


「忙しいのですか?」


「ああ、このところギルドに依頼を受けに来る冒険科が減ってしまってな、ワシ自ら出向いて依頼をこなしておる事が多いんじゃ」


「そうなんですかぁ」


確かにオジさんの顔色は良いとは言えないし、なによりも目の下に隈が出来ているので苦労をしているのが分かる。


「あの、もう知っていると思いますがエルライナと申します。こっちは付き添い人の ネネ です」


「ネネです。よろしくお願いします」


「うむ、ワシの名は シガット と言う。よろしくな」


そう言いながらお互いに握手を交わして挨拶を済ませた後に、本題を切り出す。


「色々と聞きたい事があるのですが、先に報告を済ませましょう。緊急性があるので」


「緊急性? なにがあったんだ?」


「はい、実は先ほど魔族が私の目の前に現れたのです」


「なんだってぇ!?」


彼はそう言って立ち上がった。


「大変だ! 今すぐに対策せねば・・・・・・」


シガットさんは足早に部屋出て行こうするので、慌てながら止める。


「落ち着いてください。対応するのは私の話を聞いてからにしてください」


「しかし、魔人が出たとあれば探し出して倒さねば大変な事になるぞ!」


「それが出来そうな相手じゃないから、こうやって止めているんですよ」


「どう言う事じゃ?」


そう言って詰め寄って来たので、シガットさんの両肩にポンッと手を乗せる。


「先ずは座ってください。話はそこからします」


「あ、ああ。わかった・・・・・・」


シガットさんをソファーに座らせてから先ほどあった出来事を話した。


「なるほど、顔がオオノにそっくりとは。ウゥ〜〜〜ム・・・・・・」


シガットさんがなにを考えているのか分からないが、俺は話を続ける。


「シガットさん、恐らくその魔人の能力は変装、もしくは擬態の能力なので今から探そうにも探せないと思います」


「そうだなぁ。このまま闇雲に探しても意味がないな」


「それに他人に成りすませる魔人が潜んでいると王都に知れ渡ったら、絶対にパニックを引き起こしますよ」


事と場合によっては、人狼ゲームの様な殺し合いが起きる可能性がある。


「そうだなぁ・・・・・・・この件は内密に調べていくしかないかぁ」


「それが一番良い方法だと思います」


「それに合言葉みたいなのを考えた方が良いかもしれませんね」


「おお、ネネちゃんナイスアイディア!」


合言葉さえ作ってしまえば、疑心暗鬼にならずに済む。


「うむ、合言葉については、こちらで検討しておこう」


「それと確認なんですが、この事を王国に知らせるのですか?」


「ああ、知らせるつもりだ。念の為に姿を変えられるのは、国民に伝えない様に言うがな」


うん、それが良い判断だと思う。


「それと、ギルド長に確認を取りたい事があるんですけど、大丈夫ですか?」


「ああ、構わないぞ。何が聞きたいんだ?」


「オオノが裏切った事を、この国が耳にしたのは他の人から聞きました。なにか変化はありましたか?」


そう言った瞬間、彼の顔が真剣なものに変わった。


「エルライナ殿、今から言う事は内密にして貰えるか?」


なにか公に言ってはいけない事を言うつもりなのか?


「・・・・・・分かりました。約束します」


「オオノが裏切った事を聞いた上層部の人間は王に対して非難の目を向けている。それに一部では勇者に対して疑心暗鬼になっている」


「まぁ疑心暗鬼になっているのは聞きました」


しかし上層部の人間が王を非難しているのかぁ。恐らく反王族主義者の人達が言っているのだと思う。


「そうかぁ、それで一人一人真理の水晶で毎回検査する様になり、勇者達はウンザリしているらしいんだ」


会社はチームで一人が失敗したら、その人せいではなく全員の責任だと、おじいちゃんが言っていた。恐らくオオノが起こした責任が全員に回ったんだと思う。


「エルライナ殿。他にもあるんだ」


「他ってなにがあるんですか?」


「勇者に反感を持っている者達が人をかき集めている」


「抗議デモを起こす気ですか?」


俺がそう言うと、シガットさんは首を横に振った。


「クーデター」


「え?」


クーデターって、マジか!?


「こんな時にクーデターなんて起こしている暇はないでしょ!?」


「そうなんだがなぁ・・・・・・勇者達のせいで国民の反感が大きくなって来ているんだ。それに反王国主義者が焚きつけているから、物騒な状態まで陥っている」


「こんな時まで政治事をやるなんて、この国の貴族は馬鹿ですね」


俺もそう思うよ。


「これはもう王に知らせた方が良さそうですね」


そうすれば反王国主義者達も危機感を感じて魔人対策に集中してくれるだろうし。


「先ほども言った通り、王に知らせるのはワシらに任せてくれ」


「分かりました」


俺から話すよりもギルド長が話した方が説得力がありそうだしな。


そう思っていたら、先ほどの受付け嬢が応接室に入って来たのだが、なんか困った様子でいる。


「あのぉ〜、ご歓談中失礼します」


「どうした?」


「勇者様達がここに来て、エルライナ様に会いたいと仰っているのですがぁ・・・・・・どうしましょうかぁ?」


「勇者達が来ただって?」


おいおい、まさか報復しに来たんじゃねぇよな?


「会う気がしないので、追い返して貰えませんか?」


「そうですよ! お姉様にあんな無礼な事をしておいて、会いたいなんて図々しいです!」


「そう、ですかぁ。でも、勇者様達はアナタ様に謝罪したいと申しております」


謝罪じゃなく闇討ちされそうな気がしてならないんですけど。


「ハァ〜・・・・・・後日謝罪を受けるにのここにくるって、ホントどう言う神経をしているのかな?」


「同情いたします」


受付け嬢がそう言いが、早くなんとかして頂けませんか? と言いたそうな顔をしている。いや、アナタがなんとかする事だよ。


「まぁ良いや。このままいても仕方ないので、会う事にします」


「本当ですかぁ!」


「ただし、ギルド長の立ち合いの元で謝罪を受けます。ギルド長、良いですよね?」


「ああ、構わないぞ。勇者達をここへ呼んでくるんだ」


ギルド長がそう言ったら、受付け嬢が かしこまりました! と言って応接室を出て行った。


「良かったのですか、お姉様?」


「仕方ないよ。このまま拒み続けても、どうしても。って言ってくるのが目に見えているから」


本当のお嬢様だったら、激怒しているだろうなぁ。


そう思っていたら、ドアをコンコンッと叩く音がして先ほどの受付け嬢が入って来た。


「エルライナ様、勇者様達を連れて参りました」


「通して」


俺がそう言うと、先ほど武器屋で謝って来た四人の勇者が申し訳なさそうに応接室に入って来た。


「ご用件はなんでしょうか?」


四人の中の男、委員長が俺の前に出て来た。


「先ほどは我々の仲間が失礼しました!」


それに続いて後ろにいた三人が すみませんでしたぁ! と言って謝罪をして来た。


「・・・・・・無粋ね」


「は?」


「私はまだアナタ達の名前を知らないんですよ。それなのに謝罪をするなんて、常識的におかしいと思いませんか?」


実際は知っているのだが、俺の言葉に委員長は慌てた様子を見せる。


「全く、自己紹介を忘れて謝罪してくるなんて、異世界の人達って全員そうなのかしら?」



「はぁ、すみません」


「それに”すみません”じゃないよ」


「はぁ・・・・・・」


委員長は困惑しているが、俺としては呆れてモノも言えない。


「アナタ達は、ここに来るのを騎士団長に止められなかったの?」


「はい、止められました」


なら素直に従えよ。


「明日も含めて二回も謝罪を受けるなんて、相手からしてみればウンザリするに決まっているでしょ。それになに? 謝罪しに来たのにお詫びの品一つないなんて、おかしいと思わないの?」


「あっ!?」


あっ!? じゃねぇよ。あっ!? じゃよぉ! 家に茶菓子を持って来たサラリーマンを見た事ねぇのかよ!


「今の状態だと、私に喧嘩を売りに来たと見受けられるのよ」


「め、滅相もございません!」


その後も四人で、あーだこーだ。と謝罪を述べて来たのをウンザリした顔で聞き流すのであった。

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