第24話
ホルスターから JERICHO941 PSL を引き抜き、目の前にいる魔人に向かって構える。ネネちゃんも俺と同じ様に短刀を構えるが、目の前にいる魔人は降参するつもりなのか両手を前に出して手を振った。
「そんなに身構えないくても良いわよ。アナタ達と戦いに来たんじゃないのよ」
「戦いに来たんじゃない?」
どういう事だ? まさか挑発しに来たのか?
「お姉様、信じちゃいけません!」
「大野の件もあるから、分かっている」
「オオノ? オオノって誰だったかしら?」
コイツら、自分が利用したヤツの事を覚えてないのか?
「ひょっとして、オオノってこんな顔をしていなかったかしら?」
目の前にいる魔人はそう言うとフードを取って顔を見せて来て驚いた。なぜならそこには大野がいたからだ!
「なっ!?」
「ウソッ!?」
なぜ大野がここにいるんだ?
「その反応だと、この顔で合っているみたいね」
「声が違う・・・・・・まさか、これがアナタの能力?」
「そうよ。どう? どこか違うところがあるかしらぁ?」
魔人はそう言うと自分の顔を手でペタペタ触って確認する。
「ノーコメントで」
「そう、残念ねぇ」
魔人はそう言うと再びフードを被り、顔を隠した。
「それで、私に会いに来たって言うけど、なんの用なのかな?」
「そうね、こうやって勿体振るのもよくないわね。ハッキリと言わせて貰うわ」
一体なんて言う気なんだ?
「アンタ、アタシ達の仲間になる気はないかしらぁ?」
そう言って手を伸ばして来たので、更に距離を取る。
「勧誘しに来たのだけなのね」
「そうよぉ、この間の役立たずよりもアンタの方がずっと良さそうだもの。彼の方も認めているわぁ」
彼の方ねぇ。
「お姉様ぁ・・・・・・」
ネネちゃんが心配そうに見つめて来るので、ニッコリと見つめた後に魔人を睨む。
「お断りします」
「どうしてかしら? アンタの力を最大限に活かせるチャンスだと思うのにぃ?」
「どうせ大野の様に使い捨てにされるのが目に見えているので」
それか差し伸べた手で殺そうとしてくるかの二つだろう。
「あ〜らあら。残念ねぇ」
謎の魔人は差し伸べた手を引っ込めると背を向けた。
「オオノよりも良い待遇を用意してあげていたんだけど、アンタがそう言うのなら仕方ないわねぇ。でもこれだけは覚えておきなさい」
ゾッとする様な殺気を俺達に浴びせながら、語り始めた。
「次会う時は敵としてアンタの命を狙うからね。覚悟しておきなさいよ」
そう言い切ると魔人が着ていたローブがボトッと地面に落ちた。
「・・・・・・ネネちゃん、ここにいて」
「お、お姉様は?」
「あのローブを確認してくる」
レーダーには映ってないが、あのローブの下にいる可能性があるからな。確認が必要だ。
「あ、危ないですよ、お姉様!」
「その危険を承知で確認しに行くのだから」
ネネちゃんにそう言ってから、JERICHO941 PSL を構えながらローブへと近づいて行く。そして、ローブの元へたどり着くと、それを掴み一気に剥がした。
「・・・・・・やっぱり、いなかった」
そう、ローブが落ちていた一歩先に下水道へと続くマンホールがあるだけで、後はなにもなかったのだ。
あの魔人は一体どこに行ったんだ?
そう思いながら辺りを見回してみるが、怪しい人物が見当たらない。
「お姉様、魔人はもう・・・・・・」
「うん。逃げられちゃったみたい」
これはこれで良かったのかもしれない。だってここで戦闘を始めたら、どんな被害が出るのか分かったもんじゃない。
「とりあえず、この事を含めて総合ギルドに話に行こうか」
「はい、お姉様」
俺達は足早に総合ギルドへと向かい、中へと入ったのだが。
「あ、あれ? ここ、総合ギルドだよね?」
「はい、その筈ですがぁ・・・・・・」
建物の大きさの割には人がチラホラといるだけで、なんて言うか今まで見て来た総合ギルドより活気がない。
「みんな、出かけているのかな?」
「ひょっとして場所を間違えたのでは?」
「確認するからちょっと待ってて」
その可能性があり得るのでマップを開いて確認したのだが、間違いなく総合ギルドの建物の中にいるのだ。
「・・・・・・間違なく総合ギルドの中にいるね」
「そうですか。この様子は一体どういう事なのでしょうか?」
確かに、天下の総合ギルド、ましてや王都でこの様子は明かにおかしいとしか言えない状況だ。
「まぁ、それを含めて確認を取ろう」
冒険科の受付けの列に並ぶが前に3人いるだけだったので、すぐに順番がやって来た。
「いらっしゃいませ、総合ギルドの冒険科にようこそ。どういったご用件でしょうか?」
「ここのギルド長に報告したい事があるのと、レーベラント大陸のキオリ商会のキオリさんに、お手紙を届けて頂きたいのです大丈夫ですか?」
「分かりました。総合ギルド長に報告とお手紙の配送ですね。失礼ですが総合ギルドカードをご確認させて貰います」
「あ、はい」
そう返事をしてから、総合ギルドカードを受付け嬢に渡した。
「ありがとうございまぁっ!?」
受付け嬢は言葉の途中で固まってしまった。
「また?」
「またですね」
「あ、アナタ様は、エルライナ様でしたか!?」
目の前にいる受付け嬢がそう言うと、周りがざわつき出した。
ああ〜、やっぱり。魔国と同じパターンになったかぁ。
「あの、先ほど言った話なんですけどぉ・・・・・・大丈夫?」
「あ、大丈夫です! 今ギルド長に話をして来ますね!」
彼女はそう言うと、走ってどっかの行ってしまった。
「ちょっ、ちょっと! 手紙の方を忘れてますよぉ〜!」
走り去る彼女の背中にそう言うが、もう手遅れでどっかに行ってしまった。
「・・・・・・まぁ、時間はあるから気長に待っていようか」
「ねぇ、お姉様」
「うん?」
「なんか、私。心配になって来ました」
ネネちゃんの顔を見つめてみると、不安そうな顔で俺を見つめていた。
「ネネちゃん。正直言って私も不安だよ」
「お姉様も不安を感じているのですか?」
「うん、敵と戦っている時も常に恐怖と不安を感じているよ」
そう。戦いの中で絶対的、つまり100%の自信は俺にはない。
「そうなんですか?」
「うん、勉強や仕事と違って戦いは思考の読み合いだからね。油断していると形勢逆転の可能性がある。だから油断せずに戦っているよ」
「ハァ・・・・・・」
ネネちゃんはよく分からないと言いたそうな顔で、見つめてくるので俺は真剣な顔で見つめる。
「ネネちゃん。私と同じ戦う者として言わせて貰うよ。死と隣り合わせだから恐怖と不安を感じる。その二つの感情と向き合って戦える人こそが勇敢な戦士だよ。
恐怖も不安も感じずに戦う人はただの無謀な人間か魔物か化け物だけ」
「恐怖と不安と向き合える人が、勇敢な戦士?」
「まぁ、いずれは理解してくれると信じているよ」
そう言ってネネちゃんの頭をなでてあげる。
「お待たせしました! 応接室でギルド長がお待ちしているので、私がご案内いたします!」
おや、受付け嬢がようやく帰って来たか。
「はい、分かりました。それとこちらの手紙なんですけどぉ・・・・・・」
「後で手紙の方は対応致します!」
「あ、はい」
受付け嬢の剣幕にちょっとビビりながら手紙をストレージへとしまい、受付け嬢の後について行くのであった。
「こ、こちらです」
「案内ご苦労様です」
「いえいえ、とんでもありません! なにかありましたら、気兼ねなくお申し付けください!」
彼女はそう言うと、足早に去って行ってしまう。
「さて、入ろうかネネちゃん」
「はい、お姉様」
ドアをトントンッと叩いた後に、失礼します! と言ってネネちゃんと共に応接室へと入るのだが・・・・・・。
「グガァァァ〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・」
「寝てんのかいっ!?」
そう、ここのギルド長はいびきを描きながら眠っていたのだ。
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