第20話

彼ら、と言うよりも元クラスメイトの話をする前にお茶を出してくれた。ありがたい。


「この世界に来た当初は、戸惑いながらもこの国の訓練に参加してくれました」


「この国の兵士に従わなきゃ、なにをされるか分からないからですか?」


「それもありますが、怯えた様子も見せていました」


「怯えた様子?」


俺がクラスメイトだった時はそんな様子はなかったんだがな。


「もしかして、魔人との戦かいに参加しなきゃいけないっていうのが原因なのですか?」


「ええ、彼女の言う通り、命の奪い合いに対しての恐怖心を感じていました」


まぁ、俺が言えた義理じゃないが平和な国から来た子供達だからな。恐怖を感じてもおかしくないか。


「ある者は使命感で、ある者はただ従っているだけ。そしてある者は己の為に訓練を受けていました。その状況がしばらく続いた時に、ある事件が起きました」


「「ある事件?」」


「レーベラント大陸にいる勇者達が魔人を撃退した。と聞いたのです」


「いや、それって事件じゃなく嬉しいニュースじゃないのかな?」


俺がそう言うとネネちゃんは うんうん! と頷くが、彼は首を横に振った。しかもお茶をもう飲み干しているし。


「確かに嬉しいニュースなのですが、彼らはその話を聞いて態度を一変させたのです」


「態度をですか?」


「訓練にやる気がなくなって行き、次第には訓練に遅れてくる者が出て来たのです」


あ、何となく結末が分かって来たぞ。


「さらに日数が経つに連れて遅れてくるどころか、訓練に参加しなくなったんですね」


「仰る通りです」


同じ世界から来た勇者が来て活躍しているのだから、自分達も大丈夫だろう。って考えた感じかな? でも・・・・・・。


「それだと、派閥争いの関係性がない気がしますが?」


「そこからですよ、派閥が出来たのは」


「え?」


「先ほど話したユウジ・オカノは共にしていたグループを引き連れて森へと出かける様になり、マスミ・イノセは王に抗議する様になりました」


勝手な行動だな。しかし、抗議ってなんだ?


「なんかどっちも悪い方向へ進んでいる気がする」


「お姉様、私もそう思います」


「お二人が想像している通り、オカノの方はお店や総合ギルドの人達、ましてや住人に迷惑をかけて、イノセの場合は残った人達を仕切る様になったのです」


「ああ〜・・・・・・」


つまりさっきのはあれか。アホ不良について行ってるグループがやっていたのか。てか猪瀬のヤツがクラスの指揮を取るって、終わってる気がする。


「オカノって言う人がやってる事は大体分かりましたが、イノセと言う人はクラスを仕切ってなにをしているのですか?」


「独自の訓練です」


「独自の訓練?」


意味が分からん。


「詳しく説明しますと、イノセ本人が考えたスケジュールを元に訓練すれば強くなれると言う事です。しかし、その内容のほとんどが座学なので意味がないかと思います」


意味がないどころじゃねぇよ! 自分がなんの為にこの世界に呼ばれたのか分かってねぇじゃん! って言いたくなるレベルだぞ!?


「ハァ〜・・・・・・残りの人達は兵士達の言葉を無視して、その通りに訓練をしているんですね」


「その通り。と申したいのですが、中立派も存在しているのです」


「中立派か」


政治の世界にもいたな。


「お姉様。もしかしてさっき会った人達が?」


「うん、そうかもね」


「えっ!? もうその人達とお会いしたのですか?」


「えっとぉ、違うのかもしれませんが、ここへやってくる前に武具店の方で、勇者がミスリルの剣を盗んでしまう事態が起きたんです」


俺がそう言うと彼は納得した顔になる。


「それで謝りに来たのが四人がいた。って事ですね」


「その通りです」


「その四人が中立派の子達です」


やっぱりそうなのか。


「彼らは教えてくれる兵士達の言う事をちゃんと聞き、強くなろうと学びますが、マスミ派とオカノ派に厄介者扱いされているのですよ」


「どんなふうにですか?」


「オカノ派からは、良い子ちゃんのぶりっ子。マスミ派からは偽善者と言われています」


「そうですか」


迷惑をかけているお前らよりはマシだろうな。


「なんか、その人達が可哀想ですね」


「私もそう思う。それにしても気になるのは、その二つのグループはなぜ対立しているのですか?」


「基本的には対立はしていません。それにお互いに相手のやっている事に口出しをしていない感じです」


「お互いに相手のやっている事に口出しをしていない。かぁ・・・・・・」


そうなるとあれか。俺達は俺達で好き勝手やるから、お前らはお前らで好きにやれよ。って言う暗躍を立てているのかもしれない。

アイツらの事だ。絶対にそうに決まっている。


「現在でも二つの派閥が勝手で迷惑な事を続けているので、王も頭を悩ませているみたいです」


「そうでしょうね」


馬鹿につける薬はない。と言う言葉を信じていなかったが、今実感した。


「お話は以上ですか?」


「いえ、まだあります」


まだなんかあるの?


「もうご存知かと思いますが、この間オオノと言う勇者が魔人側に寝返って返り討ちされたのは、よくご存知ですよね?」


「ええ、私と大輝くん達とで戦ったから覚えてます」


「その影響でこの国の一部では、勇者に対して不信感を募らせている者がいます」


「まぁ、そうでしょうね」


大野は元々はクラスの連中と一緒に呼ばれたのだから、裏切ったとなれば仲間もいるんじゃないか? と疑うだろうな。


「なので、一人一人尋問をして吐かせようと考えている方がいるそうです」


「それはそれで恐いな」


まぁ俺は関係ないから良いけど。


「あのぉ〜、お話中すみません店長」


出入口の前に、先ほど門の前でお弁当を買った女性が入って来ていたのだった。てか気配なかった。恐るべし影の者達。


「ん? どうなされたのですか?」


「エルライナ様の事でお耳に、あっ!? ご本人様もいらしていたのですか。よかった。ちょうど良かったです!」


「なにがちょうど良いんですか?」


「聞いてくださいよ。国王がエルライナ様を探しているみたいなんです!」


俺を探している。だって?


「国王はどうして私を探しているのですか?」


「アナタ様に王直々に謝罪をしたい。って言う話ですよ」


「直々って・・・・・・」


そう言いながらガルマさんとネネちゃんを見つめてみたら、二人共呆れた顔をしていたので同じ答えに行きついているようだ。


「絶対に行きたくないです」


「そうですか?」


「そうですよ」


どうせ自分達が手に負えなくなった勇者達を俺になんとかして貰おうって魂胆でしょう!


「しかし、エルライナ様がここにやって来たのは色んな方が目撃しているので、もう時期こちらへやってくると思いますよ」


「徹底的に見つけ出す気でいるね」


「匿いましょうか?」


それはそれで有り難い事なんだけれどもぉ。


「お店に迷惑をかけてしまうので、来たら呼んでください」


「分かりました」


「それとお昼をまだ食べていないので、用意して頂けませんか? もちろん代金はお支払いします」


ネネちゃんは門の前で買ったから揚げ弁当を食べちゃったからなぁ。俺も買っておけば良かった。


「なににいたしますか?」


「特製焼き豚チャーハンで。ネネちゃんなにかいる?」


「私は飲み物が欲しいので、リンゴジュースをください」


「かしこまりました。特製焼き豚チャーハン一つ、リンゴジュースを一つお願いしまぁ〜っす!」


そう言ってから、部屋を出て行った。てか、普通扉を開けてから話すものじゃないの? さっきの言葉料理人に聞こえてた?


「あの、エルライナさん。本当によろしかったのですか?」


「なにがですか?」


「私が言うのもなんですが、特製焼き豚チャーハンは本当に美味しくないですよ」


「大丈夫ですよ。私、料理が得意なので食べて改良点を見つけようと思っています!」


タイ料理店の師匠のの名の下に、人気メニューになるぐらいの美味しいチャーハンにしてやるぞぉ!


「・・・・・・そうですか。エルライナ様にお任せしましょう」


「お任せください」


先にその特製焼き豚チャーハンを食べてみた感想を言おう・・・・・・美味しくなかった。

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