第21話

俺が頼んだ特製焼き豚チャーハンを食べたら、どんよりした顔で皿を見つめていた。


「ねっとりとしたしつこい醤油味で、米粒がパラパラを通り越してパサパサで硬い。しかもこれ、卵が厚い。

でも、一緒に入っている焼き豚は合格範囲」


「具体的に言いますと?」


「ちょっと炒め方と醤油の分量に問題があるかなぁ? って思います」


チャーハンは手早くかき混ぜるのがコツなのだが、ヘラでじっくりかき混ぜて炒めたせいでこうなったのかもしれない。


「こうなったら私が作りましょう。特製焼き豚チャーハンを!」


そして、特製焼き豚チャーハンを人気メニューにするんだ!


「待ってください!」


「なんでしょうか?」


「勝手に商品の改良をしないでください! 材料費を考え作っているんですから!」


ああ、マネージャーとしての立場で心配しているんだね。


「大丈夫ですよ、ガルマさん。材料は同じ物を使いますから」


「そ、そうですか?」


「まぁ、見てから判断してください」


「わ、分かりました」


ガルマさんとネネちゃん共に厨房に行き、作り方教えながら作ってみて食べさせた結果は・・・・・・。


「これ、美味しいです!」


「さすがお姉様ですぅ〜!」


とても喜んで貰えた。


「でも、なんで炒め方と調味料の量変えただけで美味しくなるのですか?」


「チャーハンの米粒は外はカリッと、中はふわりとさせるのがベストなの。それに、焼き豚は元々味がついているの使っているから、そこまで調味料を使う必要がなかったんですよ」


油と一緒に味が溶け出してくるなぁ。と予想して、調味料を少なくしてみたら正解だった。


「ところで、このメニューは明日から使えますか?」


「はい、可能です! エルライナ様!」


良かった。これで特製焼き豚チャーハンは人気メニューへの第一歩を踏み出せたのだった。


「大変です、マネージャー!」


「どうした? 何かあったのか?」


「王国の兵士がこちらにやって来て、エルライナを出してくれ! と言われました!」


出せって、俺は何か悪い事をしたか? いや、ある意味していたな。


「分かりました。そちらに向かいますね」


「よ、よろしいのですか?」


「ええ、このお店にご迷惑をかけるつもりはありませんから。ネネちゃんはここにいてね」


「はい、お姉様」


ネネちゃんの返事を聞いたら、お店の出入口へと向かう。


ほうほう、あれが兵士ねぇ。


出入口で甲冑で身を固めた人が三人いて、並んで立っていた。


「私がエルライナですが、なにかご用ですか?」


「アナタがエルライナ様ですか。噂は常々聞いております」


「そうですか。で、ご用件はなんでしょうか?」


「国王様がお呼びです、一緒に来て下さい」


なるほどね。予想はしていたけど、それは悪手だよ。


「すみませんが、行けません」


「なっ!? どうしてですか?」


どうしてって言われてもねぇ。理由は自分達が分かっているはずでしょ。


「自分達の所属と名前を語らない人について行けないです」


「あっ!?」


やっと気づいたか。


「それになんの用で私を呼んだのか、アナタ達は話していませんよね? 私からして見れば怪し過ぎてついて行こうと思えませんよ」


「し、失礼しました。私はこの・・・・・・」


「今さら名乗らなくても結構。もう遅いです」


「は、はぁ・・・・・・」


そう言って顔を上げる兵士。


「更に、アナタ達は一番重要な事を忘れてませんか?」


「い、一番重要な事ですか?」


兵士達は分かってない様で、お互いの顔を見つめて首を傾げている。


「私にアポイントを取りに来たのなら分かりますが、来てくださいとは何事ですか? 今日来たばかりで疲れているのですよ。

それにこう見えて私は淑女でもあります。国王はみすぼらしい格好で謁見の間に出ろと申されるのですか?

まさかとは思いますが、国王は私を辱めようとしてませんよね?」


睨みながらそう言うと、 甲冑のマスクから ヒィッ!? と言う声が聞こえて来た。


「し、失礼しました! 後日改めてお伺いいたします!」


「いいえ結構です」


「は、はい?」


泣きそうな声を出している兵士に対して、俺は毅然とした態度で話す。


「国王にお会いするつもりは一切ありません! 先ほど騎士団長に話した通り、手紙での謝罪で謝罪を受け取ります」


「しかし、国王は・・・・・・」


「くどい! 私に同じ事を言わせるつもりですか?」


「「「滅相もございません!」」」


兵士達はそう言いいながら頭を下げた。


「分かったら、先ほど述べた事を国王に伝えなさい!」


「は、はい! 分かりましたぁ!」


そう言うと三人は慌てて店を出て行ったのだった。


「フゥ〜・・・・・・追い返せたぁ〜」


「お疲れ様です、お姉様」


「あ、ネネちゃん」


隠れて見ていたっぽいね。


「ゴメンね、ネネちゃん。変な私を見せちゃって」


「いいえお姉様。凛々しかったです! でも、良かったのですか?」


「なにが?」


「お城に行く事を断ってしまっても。あの兵士達について行けば、お城へ行けるチャンスでしたよ」


ああ、なるほどね。


「心配しなくても良いよ。向こうはまた現れるから、その時について行くつもりだよ」


「また、現れるのですか?」


にわかに信じられないって顔をしているネネちゃんに対して、俺は優しく丁寧に語りかける。


「それにね。あの態度を取ったのもわけがあるんだ」


「わけですか?」


「うん、私が他国の貴族の娘だ。という事を自覚して貰う為と、国王はどれだけ失礼な事を私にしているのか自覚して貰う為に、ああ言ったんだ」


「そうなのですねっ! さすがお姉様ですっ!!」


それにそうしないと、向こうに上手を取られたまま話が進みそうだからな。事と場合によっては勇者達の教育係なんてやらされる可能性がある。


「なんか、考えただけてゾッとするなぁ」


「なにがゾッとするのですか?」


「勇者の教育係を任せられたら。って考えたら」


「・・・・・・確かにゾッとしますね」


ネネちゃんもゾッとしたのか、顔を青くして自分の二の腕を手で擦っている。


ネネちゃんもこうなるぐらいなんだ。絶対にそれだけは回避しようか。っとそれとだ。


「もう用も済んだ事だし、宿を探そうか」


「はい、そうしましょう! どの宿がいいか、総合ギルドに聞いてみましょうか?」


「ああ、その件でしたら大丈夫ですよ」


大丈夫? てかガルマさん、いつの間にカウンターにいたの?


「私の友人のところを手配したので、そちらをご利用ください。こちらが紹介状です」


そう言って懐から一枚の便箋を取り出した。


「あ、ありがとうございます。私からは先ほど食べた、特製焼き豚チャーハンのお金をどうぞ」


「あ、いえいえ結構ですよ。美味しく改良して頂いたので、むしろ貰ったら悪いです」


「私はちゃんと料理を頼んで食べたのですから、料金を払うのは義務です」


「はぁ・・・・・・そう仰るのでしたら、有り難く受け取らせて頂きます」


俺は便箋を受け取り、ガルマさんは銅貨二枚を受け取った。


「お店は出て左側に進んで行けば四軒目にありますよ。このお店と同じ並びなので反対側を探さないでくださいね」


「あ、分かりました。色々とありがとうございました!」


「それでは!」


「こちらこそ、ありがとうございました!」


お互いに手を振りながら、お店の外へと出た。


「お弁当屋さんと同じ並びで四軒目にぃ〜、んん?」


「どうしたのでしか、お姉様?」


「ネネちゃん、あれ」


「あれ、ですか?」


俺が指をさした方向には大きな商会の建物が鎮座していたが、売却したのか静まり返っている。気になったので近づいて中を覗いて見てみると、商品らしき服がそのままに置いてあった。


「今日は休業しているのかな?」


「休業と言う割にはおかしいですね。中から人の気配もしていませんし、なによりもほら、スカスカになっている棚があるじゃないですか」


「あ、本当だ」


よく見てみると商品棚に商品が入ったままのところと、空になっている商品棚があった。


「ん? 今気がついたんだけど窓もしばらく拭いていない気がする」


「あ、本当ですね」


そう、よく見てみるとガラスに埃がついていて、しばらく窓を拭いてない感じがした。


「ネネちゃん、ここもしかして」


「そうですね。ここがそうでしょう」


俺達はここが勇者のせいで撤退してしまった商会だと気づいたのだった。

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