第13話

やっとの思いでリゼットさんを止めたのだが、本人は怒りが治らないのか息を荒げている。


「フゥ〜〜〜・・・・・・フゥ〜〜〜・・・・・・」


この拘束している腕を離したら、また元(?)旦那のところへ行ってタコ殴りするのは分かりきっている。だって俺を振り解こうとしているもん!


「も、もう勘弁・・・・・・して、くださ・・・・・・い! わ、私が、わ・・・・・悪、かった!」


顔をボコボコにされた旦那さんは弱々しく妻に謝罪をする。


「なにがもう勘弁してください! このゲス野郎っ!! 私の事を愛しているだの何だの言って、既婚者の女と寝やがって!!」


そう言って殴りかかろうと、暴れ出すリゼットさんを必死になって止めるようとする。


力がつえぇ〜よぉ〜! 気を抜いたら振り解かれそうだよぉ・・・・・・いや待てよ。この状況チャンスじゃないか?


「あの、領主さん」


「な、なん・・・・・・です、か?」


「どうして不倫なんてしようとしていたんですか? 正直に話さないのでしたら、全員このまま手を離しますよ。ちゃんとした声で」


「「「「「あ、悪魔だぁっ!?」」」」」


全員俺を見つめながらそう言い、領主の方は ヒィッ!? と怯えた顔をさせた。


「ライボルト家が治めている街に、オッズド婦人と不倫して、ヒィッ!?」


リゼットさんが急に暴れ出したので抑え込む。


「はい、続けて」


「それで、近いうちに離婚すると話していたから、そのぉ・・・・・・私も妻と別れるつもりだから、結婚しようと言ってしまって。どうやって離婚しようか考えていたところ・・・・・・」


「魔物達が襲撃して来たのね」


「はい。リゼットは元騎士団だから、あの状況を切り抜けられる筈と思ったので。そ、そのおおおおおおおおおおおっ!!?」


またリゼットさんが暴れ出したので、抑え込んだ。正直言って、もう手放したい。


「村で死んだって事にしようとしたんですね。でもアナタのやり方では罪人の称号がつくでしょ?」


「そうだけど、私は隠蔽スキルを持っているから、隠し通す自身があった」


それで殺人をしようとしたんだな。


「村人を見捨てた件については?」


「あの数を守れるほど、私の私兵は強くないんだ」


「・・・・・・どういう事」


「訳ありの元兵士しか雇ってなかったんだ。だから雇った兵士内の半分は魔物達を見た途端、村を捨てて逃げて行ったんだ」


つまり、実力がないって事ね。


「あれほど、正式な兵士を駐在させろと言ったのに・・・・・・」


ライボルト伯爵がとても怖い顔で領主を見つめている。


「まぁ、残りは街の方で聞きましょうか。準備の方は?」


「あ、はい! みなさん準備が出来ています!」


「じゃあ、移動を始めましょうか!」


とりあえずヘリとヒューマノイドを消してクォードバイクの MV850 を出して乗り込み、エンジンを掛ける。


「それは一体なんなんだ?」


「私の乗り物ですよ。ネネちゃん、後ろに乗って」


「わかりました。お姉様!」


彼女はそう言うと後ろに乗り、背中から抱きしめて来た。


「皆さんも移動の準備を!」


「わ、分かりました! 全員馬車か馬に乗るんだ!」


その後はライボルト伯爵の指示の元で移動準備を済ませ、街へと向かう。驚いた事にライボルト伯爵は、村人の避難用に馬車を用意していたのだ。なので、村人が歩く様な事態にはならなかった。


「ライボルト伯爵様は用意周到ですね。どこかの誰かと違って」


「ン〜〜〜ッ!? ンッ! ンン〜〜〜〜〜〜ッ!?」


馬車の上に荷物として乗せられている元領主(笑)を見つめる。因みに乗せている間ギャアギャアうるさかったので、使用人達がとても良い笑顔で口を縛ったのだ。もしかしてこの人達も、元領主に恨みがあったのか?


日射しに当てられている姿を見て、なんだか可哀想に思えて来た。


「炙りチャーシューの事を気にしていても仕方ないですよ。お姉様」


「炙りチャーシューって言うのはヒドくない?」


後、炙りは火でやる事を言うから、この場合は日射しに置いているから日干しだよ!


「炙りチャーシュー・・・・・・ププッ!?」


コラそこ、笑っちゃいけませんよ!


「ところで街には後どれぐらいで着きますか?」


「ん、ああ。あそこに小さく見えるのが、ライボルト様が治める街です。一般的にはライボルトの街と呼ばれています」


「へぇ〜」


俺はそう言いながら街を見つめる。


「土地が豊かなので毎年良い作物が取れるんですよ! 特にこの土地で取れた麦はこの国一番と謳われるほどですよ!」


ほう、美味しい麦だって。


「お土産に買って帰ろうかな?」


「アナタ様に買って頂けるとありがたいです!」


「街の宣伝的に?」


「はい、その通りです!」


ハッキリと言うね、この人は。


「とりあえず街に着いたら、小麦粉を買って作りたい料理を作ろうかぁ!」


「エルライナ様はお料理出来るのですか?」


「出来ますよ」


俺がそう言うと意外そうな顔をさせる。


「戦闘だけでなく料理もこなせるとは、恐れ入りました」


「ええ、家事なら一通りこなせますが、最近では人任せになっているんですよね。ほら、冒険科は魔物を倒す事がメインじゃないですか? ヒドい時には十日家を空ける事もあるので、お家が心配になるんですよね」


後、別の意味で家が心配だ。まさかまた改装されてないよね?


「エルライナ様は、ご自身のお家をお持ちになられているのですか?」


「はい、リードガルム王国の王都にお家があります」


ネネちゃんが睨んでいるけど、それぐらいなら話しても良いでしょ。


「そうなのですか・・・・・・大変ですね」


「ええ、住み込みの家政婦でも雇おうかなと考えています」


「住み込み!」


ネネちゃん、私を雇ってください! って言ってもキミを雇わないからね。


そんな話をしていたら、ライボルトの街に着いてしまった。


「お帰りなさいませ、ライボルト様」


「うむ、出迎えご苦労。彼女のおかげで村人達は無事だ」


「彼女ですか?」


そう言って俺を疑いの目で見つめてくる門番。


「アナタのお名前は?」


「総合ギルドに所属しているエルライナと申します。私の後ろにいる子は、付添人のネネです」


ネネちゃんも門番にペコリとお辞儀した。


「なるほど、そうですか。念の為にギルドカードを拝見させて頂きます」


「どうぞ」


ギルドカードを差し出して見せてみたら、手を震わせていた。


「ご、ご確認いたしました。お、お返しいたします。エルライナ様」


え、様?


「いや、私は一般人なので、様呼ばわりされるほど偉い立場じゃないですよ」


「は、はは・・・・・・面白いご冗談を仰いますね。ネネ様の方はご確認不要です。片方見せて頂ければ結構です」


門番さんはそう言うと、そそくさと俺から離れて行く。


「あの、ライボルト様。この事を総合ギルドの方へ知らせに行きたいのですが、総合ギルドへ向かって大丈夫でしょうか?」


「ああ構わないが、証拠品の方はアシュフォンス男爵に渡しておいて貰えないだろうか?」


一応変な気を起こさない様にする為に、街に着くまで預かっておくと言ったんだっけ。


「ああ、はい。分かりました。ネネちゃん。これをしまうから降りてちょうだい!」


「はい!」


ネネちゃんがMV850を降りたのを確認すると格納庫へしまい、元夫を睨みつけているリゼットさんの元へ行く。


「あの、リゼットさん。預かっていた証拠品を渡しますね」


そう言って証拠品を手渡すと、リゼットさんは笑顔で受け取った。


「ありがとうございます、エルライナ様。この御恩は生涯忘れません」


「いえ、私は大した事はしていませんよ」


「ホント、王都にいる勇者達も見習って貰いたいですね」


王都にいる勇者達?


「リゼットさんは王都にいる勇者と会った事があるのですか?」


「歓迎会の時にお会いした事ありますが、マナーが良い子が少なくて、そのぉ・・・・・・個人的には良い印象ではありません。

もしかしてエルライナ様は王都へ向かわれるのですか?」


はい。って答えたらマズそうだなぁ。


「私の目的地はではありませんが道中で王都に寄る予定があるので、ひと目見れるかなぁ。っと思いましてね」


「ああ、そうなんですか・・・・・・」


リゼットさんは浮かない顔をしている。


「王都を迂回して通る事をオススメします」


「どうして?」


「それは、そのぉ・・・・・・」


リゼットさんが目を泳がせているところに、ラインボルト伯爵が割って入って来た。


「すまないが王命で勇者の情報を語れないんだ」


これはなにかありそうだな。


「・・・・・・分かりました。それでは総合ギルドの方へ向かわせて頂きますね。行こうネネちゃん」


「はい、お姉様」


門を潜り街の中へと入って行くのであった。

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