第6話

「ん・・・・・・ん〜!」


目を擦りながら体を起こしてから、スクリーンに映るアラーム止める。


もう朝の五時かぁ・・・・・・今日はDランク昇格試験だから軽めの運動だけにしようかな。ってあれ?


隣を見てみるとリマちゃんがぐっすり眠っていた。


この子はまたベッドに入って来たのか。この前お婆さんに怒られたばかりなのに懲りない子だねぇ〜。


そう思いながら頭を撫でると、くすぐったいのか頭を動かす。


でも・・・・・・この子はまだ小さいから仕方ないよね。両親が遠くに居てしかも共働きかぁ・・・・・・きっと両親もリマちゃんの事を心配してるんだろうな。


「・・・・・・私の親と違ってね」


寝ている少女に聞こえないように静かに語った。


「そんな事よりもトレーニングの準備をしないと」


そう自分に言い聞かせながら気持ちを切り替えると、スポーツウェアに着替えてから髪留めで長い髪をまとめる。


さてと、トレーニングに行きますか!


そう思いながら部屋の扉を開けた瞬間、仁王立ちしているお婆さん目が合ってしまう。


朝から嫌な物を見ちゃったよ・・・・・・どうしよう。


「・・・・・・リマは?」


「・・・・・・はい?」


「アタシャはリマはここにいるのかい? と聞いてるんだい」


「あー・・・・・・はい、いますよ」


「そうかい・・・・・・戸締りしといてやるからカギを渡しな」


「あ、はい」


ゴメンねリマちゃん。お婆さんとの力の差があり過ぎるから私じゃ止める事が出来ないんだ。


そう思いながらお婆さんにカギを渡すと、すぐさま敬礼をする。


「それでは行って来ます!」


「あいよ。アンタは今日試験なんだからね。怪我するんじゃないよ」


「イエス、マム!」


そのまま店の外に出ると準備体操をしてから走り出したのであった。





いつものトレーニング場に着いたので、軽くストレッチをしながら呼吸を整える。


「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・フゥ・・・・・・フゥ・・・・・・」


さてと格闘訓練を始めるか。


身構えてから基本的なジャブやストレートパンチ、そして蹴りの練習を始めた。


パンチも蹴りも常に理想のフォーム思い描きながら相手に打ち込むんだ。


先ずは頭の中でイメージしたフォームを再現する様に体を動行くのを何回か繰り返す。


「・・・・・・よし!」


フォームがイメージ通りになったところで本格的に殴る蹴るの練習に入る。


「ッ!?」


今ハイキックの重心が少しズレた。体重移動が少し早過ぎたな。


フォーム修正をしながら練習をして行って納得するフォームになったら練習を止める。


今日は軽めだから、これぐらいにしておこう。時間は六時ちょっと過ぎかぁ・・・・・・帰って身仕度をすれば丁度良い時間かな。


その場で2〜3回軽くジャンプした後に銀色の竜亭を目指して走り始めた。





銀色の竜亭に着くと宿のドアを開いてから中に入ると、カウンターにいるお婆さんに向かって声をかける。


「ただいま戻りました!」


「お帰り。アンタの部屋に食事と洗面道具を準備してあるから使いな」


なぬっ!? お婆さんが頼んでもないのに用意してくれただと。


「まさか、お婆さんが用意してくれるとは・・・・・・なにか狙いがありますね?」


そうだ、きっとそうに違いない!


「馬鹿な事を言うんじゃないよ! アンタは今日、試験日だから早めに出しておいたのさ!」


あ、そう言う事でしたか。お婆さんにも親戚なところもあったんだね。


「・・・・・・ありがとうございます」


「アタシャはアンタに賭けてるんだから、受かって貰わにゃ困るんだよ!」


前言撤回! このババァはヒドい人間だっ!!


「そんな顔をしている暇があるんなら、さっさと食事とか準備を済ませな。でないと遅刻で中止になっちまうじゃないかい?」


「うぬぬぬぬっ!! ハァ〜・・・・・・そうですね」


「まぁ、アタシャの金の為に頑張って貰いたいね。合格出来なかったら、その晩の飯は抜きにするよ。フェ〜ッ、フェッ! フェッ! フェッ! フェッ!」


クソォ〜、あの婆さんヒドい事を言いながら高笑いしてる・・・・・・いつか見返してやるんだからっ!!


お婆さんの高笑いを背に受けながら自分の部屋に戻って行くと、食事を済ませてから体の汗を拭き取るのと共に洗顔もやる。それが終わるを装備を整えて行く。


今回は隠密なんてやらないから、いつものPMC風の格好で良さそうだね・・・・・・それとこれ、ベルトパッドにベルトを通してから腰にキツく巻けば・・・・・・・・完成っと! !


自分の姿を鏡で見てから体を捻って動かしてみる。


少し動きずらくなったけど問題はなさそうだね。


JERICHO941PSLを仕舞う為のCQBホルスターが腰からプレートキャリアの胸部分に移ったのとカランビットナイフがレッグ方に移動したのさえ把握してれば問題ない。

回復薬と蘇生薬を入れているポーチが一つと、Mk3A2グレネードとスタングレネードの入れるポーチを合わせて二つ。残りは口がガッポリと大きく空いたマガジンポーチが、プレートキャリアとベルトパッド合わせて六つもある。


後はプレートキャリアのホルスターにJERICHO941PSLを入れてからマガジンポーチにマガジンを差し込んで、最後にサプレッサーを取り付けたORIGIN 12 SBV(12ゲージ ショットシェル使用)にスリングをつけて・・・・・・完成!!


時間も七時十分だから、ちょうど良いかな。


椅子から立ち上り、部屋の戸締りを確認すると部屋から出てドアにカギをかける。そしてそのまま、お婆さんにカギを渡しにカウンターへ向かう。


「それじゃあ、行って来ます!」


「頑張って合格するんだよ! フェ〜、フェッ! フェッ! フェッ! フェッ!」


ムカッ! としながらお婆さんにカギを渡し終えると、宿の外に出て総合ギルドに向かうのだが、歩いている途中で視線を感じたので立ち止まって辺りをキョロキョロ見回してみる。


なんだろう・・・・・・殺気じゃなかったな。う〜ん・・・・・・まぁ今は気配を隠しているな。よし!


「・・・・・・気のせいかな?」


一応こう言って油断させておこう。まぁ殺意があったらレーダーが知らせてくれるし、監視目的で後をつけられているんだったら俺が歩けば気配をまた出すだろうな。


また歩き始めたところですぐに気配を感じたけど気にせずに歩き続ける。しかし総合ギルドの前まで来たところで相手は隠れる気が失せたのか向こうから二人街角から出て来た。


「ようエルライナ、集合時間十五分も前に関心するな。ってなんだその目はっ!?」


エイドさんとラミュールさんをジト目で見てしまう。


「誰かついて来ていると思ったら、お二人共でしたか。ようがあるなら最初から会って話をして欲しいですよ」


「すまないがエルライナ、これも総合ギルドの仕事の一つだ」


「監視する事が仕事ですか?」


ラミュールさんにそう言うと彼女は頷いてから話し始める。


「そうだ。指定された時間に来るか。試験前に変な事を仕出かしてないか。とかな」


遅刻は分かるが変な事ってなんだろう? 試験前のせいで気が立っていて、なにかの拍子に感に触ってしまい暴力を振るってしまう。って事しか想像つかないな。


「そんな事よりも受けつけをここでするから銀貨二枚を出してくれ」


ボードの上に乗っかった昇格試験が書かれた紙とペンを俺に渡して来たが、その二つを渡された俺はわけが分からない状態だった。


「なんでここで受けつけするんですか?」


「ああ、なぜかは分からないが受けつけに人が結構並んでいてな。今列に並ぶと一時間ぐらい待つ」


「い、一時間も!? 何でまたそんな事に?」


「分からない。だから今日試験受ける人には個別で受け付けをやるようにしている」


「そうなんですか」


紙に自分の名前を書いてからポケットにあらかじめ入れていた銀貨二枚を取り出すと、その二つを一緒にしてラミュールに手渡しする。


「でもなんでラミュールさん達が私の監視なんですか?」


ぶっちゃけ一時間待ちの行列よりもそっちの方が気になる。


「それはな、他の連中に任せたら早々にバレると思ったから俺とギルド長がお前の監視をする事にしたんだ」


そう言う事だったのか、まぁ結果的にはバレてたんだけどね。


「その顔を見る限り我々の尾行がバレていたんだな。まぁ試験に受けられる状態か否かについては問題はない。エイド、後は任せた」


「分かりました」


ラミュールさんはエイド教官の返事を聞くと足早に総合ギルドの中に入って行った。


「亜人の迷宮に行く為の馬車を用意ある。そこに案内するから俺について来てくれ」


「分かりました」


そう返事をしてからエイドさんに付いて行くのだが、エイドさんはチラチラと横目で俺の体を見てくるので聞いてみる事にした。


「エイドさん、どうしてそんなに私を見てくるんですか?」


まさか奥さんがいるのに俺に気があるとか言う話じゃないよね?


「いやなに・・・・・・いつもながら変わった格好をしているなぁ。って思っただけだ。それに武器も変わっているしな。その武器は俺が見た武器とは何か違うところがあるのか?」


・・・・・・思い出して見ればエイド教官はACE32かACE31しか見てなかったよね。


「エイドさんが見た銃とは全く違いますよ」


だってACE32はアサルトライフルでORIGIN-12はショットガン。種類自体が違う。


「ほ〜う、それはどんな風に違うんだ?」


「う〜ん・・・・・・それは見てからのお楽しみに。って事にしておきましょう。説明するよりも実際に戦っているところを、見せた方が早いですからね」


「そうか、楽しみにしているぞ・・・・・・さぁ、もう着くぞ。あそこに見える馬車だ」


エイド教官が指をさす方向を見てみると、馬車の前にシドニールさんとミハルちゃんが立っていたのだが、少しようすがおかしい事に気づく。


「なんかミハルちゃんのようすがおかしい感じがするのは、私の気のせいですかね?」


「そうだな。もしかしたらお前が来るのが遅いからイライラしてたんじゃないか?」


「遅刻はしてないから違うと思いますよ。私の予想だと、 明日親と一緒に行く旅行が楽しみで、よく眠れなかった子供。 みたいな感じですね」


多分、違うと思うけどね。


「ハッハッハッハッハッ!! お前のその予想が合ってたら一杯奢ってやるよ! ハッハッハッハッハッ!!」


「エイド教官、流石に笑い過ぎですよ」


「悪い・・・・・・お前の予想がおかし過ぎてな。ヒヒッ!! この業界にダンジョンでの戦闘が楽しみってヤツは早々いねぇよ。ハッハッハッハッハッ!!」


エイドさんの笑い声を聞きながら馬車に近づくが、近づくに連れてエイドさんの笑い声が徐々に空笑いに変わって行き、最終的に馬車の目の前まで来ると引きつった笑みを浮かべながら無言になっていた。

なぜエイド教官がこうなってしまったか? その答えはミハルちゃんの姿だ。


「遅いわね! 今、何時だと思ってるのっ!!」


「七時五十五分だから時間には間に合ってるよ。それよりもミハルちゃん・・・・・・大丈夫?」


ミハルちゃんの顔を見てみると目が充血してて、その下にクマが出来ていた上に体がフラフラ動いているのだ。


「だ、大丈夫よこれぐらい! さぁ、亜人の迷宮に行くわよっ!!」


ミハルちゃんはそう言うと、そそくさと馬車に乗って椅子に座る。


「すまないが亜人の迷宮に行く前に、ミーティングをやらないといけないんだ。乗るのはまだ早いぞ」


「・・・・・・へぇ?」


ミハルちゃんの間抜けな返事を聞いた瞬間に、俺とエイド教官とシドニールさんは同時に呆れてしまった。


「私と同じ試験をパスしているのに・・・・・・これじゃちょっと」


あのようすを見てしまうと、 申しわけないけど今回の依頼は断念して欲しい。 言いたくなってしまう。


「シドニール、すまないがお前の弟子は大丈夫なのか?」


「大丈夫なぁ・・・・・・はずだっ!! ・・・・・・多分・・・・・・きっと」


多分って!! ・・・・・・シドニールさんに怒っても仕方ない。


「とりあえず、ミハルちゃんには横になって寝て貰いましょう」


「どうしてだ? 必要事項があるんだぞ」


エイドさんは眉をつり上げながらそう言ってくるが冷静に説明をする。


「まぁまぁ落ち着いて下さいエイド教官、私の話を考えを聞いて下さいよ」


「考えか・・・・・・聞かせてくれ」


「先ずは眠たそうなミハルちゃんには馬車で横になって貰ってですね」


「うん」


「その間に私達だけでミーティングを済まして亜人の迷宮に向かいましょう。それで向こうに着いたらミハルちゃんを起こして、必要な事だけ伝えるって形を考えているんですがぁ・・・・・・どうですかね?」


「・・・・・・なるほどな。その方法で行こう。おい、ミハル! ・・・・・・え?」


「ん? どうしたんですか? ・・・・・・ってあれ?」


馬車に目を向けて見るとミハルちゃんはぐっすり寝ていた。


「あらまぁ、寝ちゃったんですね。まぁこれはこれで都合が良いんですけどね」


「そうだな。さて、うるさいのが起きる前にミーティングを終わらせるぞ。エルライナ、話しをちゃんと良く聞くように・・・・・・良いな?」


「は・・・・・・っ!? はい、エイド教官」


危ない。大声出してミハルちゃんを起こすところだった。


「ハァ・・・・・・エルライナが俺の弟子だったら、どんだけ気持ちが楽になるんだろうなぁ〜?」


俺とエイドさんはシドニールさんに同情しながらミーティングを始めるのであった。

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