第8話
エイド教官と別れを告げた俺は総合ギルドの入り口前で、頭を振って気持ちを切りかえようとする。
「・・・・・・よし、エイド教官が言っていた通りなら、このまま左に真っ直ぐ行けばバルデック公爵様の邸宅に着くんだよね?」
バルデック公爵様の邸宅に向かって街並みの風景を楽しみながら歩いていたら、エイド教官が言っていた邸宅が見えて来た。
「あれだ」
俺はそう言った後に駆け足で邸宅の前まで近づく。
バルデック公爵様と会うのは久しぶりになるなぁ・・・・・・。
「すみません門番さん」
俺は邸宅の前で武器を装備して立っている二人に話し掛けると、二人同時にこっちを向いてきた。
多分バルデック公爵様が邸宅を守る為に雇っている護衛だよね? 邸宅を間違えてますよ。って言われたら恥ずかしいんだけど。
「ん? バルデック公爵様に、なにかようかな?」
「はい、バルデック公爵様に会いたいのですが今大丈夫ですか?」
二人はなぜか顔を見合わせてからこっちを見てくる。
「失礼と思いますが、アナタはエルライナ様でございますか?」
「は、はいそうですが」
俺の返事を聞いた二人は、なぜか二人同時に目を輝かせる。
「やっぱりっ! 今バルデック公爵様にお知らせして来ますね! 行くぞ相棒っ!!」
「おうっ!!」
護衛人達はそう言うと門を開き、二人揃ってお屋敷へ走って行ってしまった。
「え? ちょ、ちょっと!? ここの警備は・・・・・・行っちゃった。門、開きっぱ・・・・・・」
と言っていたら戻って来たよっ!! 早っ!?
「エルライナ様、どうぞお入り下さい!」
「ネルソン様がアナタを客室でお待ちしているので、私達が案内します!」
今この人、私達って言ったよね?
「あの、すみませんがここの警備はどうするんですか?」
また二人は顔を見合わせてから、こっちを向いてくる。コイツら仲が良いのか?
「大丈夫です! エルライナ様! 俺達に考えがありますっ!!」
「先ほどのようにパッと客室に行って、パッと門まで戻って来れば良いんですっ!!」
「アナタ達は私に客室まで走って行け! って言うんですかっっっ!!?」
バルデック公爵様の目の前にいきなり出て行くなんて失礼でしょうがっ!!?
またまた二人は顔を見合わせてからこっちを向いてくる。いい加減その意気の合った動作を止めて欲しい。
「「あっ!? いっけねぇ。それはそれで失礼か! どうしようか兄弟?」」
「アホかっ! 貴方達の内の一人が普通に客室に連れて行け良いでしょっ!!」
「「どっちがここに残れば良いと思いますか?」」
お前ら俺に聞くんかいっ!? もう嫌だこの人達ぃ・・・・・・なんだか疲れてきたよぉ・・・・・・。
「何を言っているんですか二人共? 来客を私に任せるのが決まりですよ」
ん? 邸宅の方から声が聞こえて来たぞ。
俺は目線を護衛の人達からお屋敷の扉に移すと、そこに黒いスーツを着たダンディーなおじさんが立っていた。そのおじさんは護衛の人より前に出た後に俺に向かって笑顔で会釈をする。
「はじめまして、私はネルソン・ディア・バルデック公爵様にお仕えしております。執事の メルディン・ガードン でございます。以後お見知り置きをエルライナ様」
「はじめましてメルディンさん。私はエルライナと申します」
名前を知られているけど、あいさつはしないといけない。礼に始まり礼に終わる。とまでは言わないが、第一印象を悪く見られてしまったら後の方が大変だから。
「それではエルライナ様、私が客室までご案内しますので付いて来て下さい」
「はい、分かりました」
うわぁー・・・・・・庭が綺麗に整備されているよ。本当に貴族の家に来ちゃったんだ。あ、あそこの芝で寝転がったら気持ち良さそう。実際に寝転がったら怒られると思うけどね。
そんな事を思いながら周りをキョロキョロ見ている内にお屋敷の扉に着いた。
「どうぞ、お屋敷へお入り下さい」
メルディンさんは扉を開けてから入り口の横に立ちこっちに顔を向けて顔を手招きする。
プ、プロだ! 熟練の兵士ならぬ熟練した執事が目の前にいるよっ!! ヤバイ、感動しちゃうよっ!!?
「お、お邪魔します・・・・・・」
俺はそう言った後に屋敷の中へと入って行く。
「ふぁ~・・・・・・綺麗なお屋敷ですね」
「えぇ、使用人が毎日掃除をしているのですよ」
「ほぇ~・・・・・・」
ホコリ一つどころか廊下の床にシミ一つ見当たらないとは、バルデック公爵様が雇っている使用人さんのレベルが高いかもしれないぞっ!!
メルディンさんは惚けている俺を余所にして、俺の立っている位置から二つ先のドアに立つ。
コンコンッ!
『なんだ?』
「ネルソン様、エルライナ様が参られました」
『通してくれ』
メルディンさんは扉を開けた後に俺の方へ身体を向ける。
「エルライナ様、どうぞ」
「あ、はい」
俺は返事をした後、客室へ入って行くと。
「ふぁっ!? これはスゴいっっっ!!?」
俺の目の前にはシンプルな机と椅子があり、その奥には広い窓ごしに庭が見えるので庭を景色を楽しみながらお茶を嗜む事が出来る。
部屋も飾り付けが少ないのでスッキリした感じがあり、しかも毎日掃除をしているのか綺麗でいて家具も整備されている。この部屋にこだわりを感じてしまう。
「フフフッ、 久しぶりだねエルライナ。どうだいこの客室は?」
「あ、お久しぶりです! バルデック公爵様っ! とても素敵なお部屋ですっ!」
バルデック公爵様は嬉しそうな顔をしながらウンウンと頷く。
「そうだろう。ここの部屋は屋敷の中で一番こだわった場所でな、我が家の自慢の部屋なんだ。喜んで貰えて嬉しいな」
バルデック公爵様は嬉しそうにしているようすを見ていたら、隣に座っている女性に今更ながら気づいた。
「あの、バルデック公爵様」
「ん、どうした?」
「隣にいらっしゃる方は奥様ですか?」
俺は赤い髪をした巨乳の美人を見つめながら言う。
この人、俺より胸デカイよ! 何カップあるんだ?
「おっと、紹介が遅れてしまったな。私の隣に座っているのが妻の アイーニャ だ」
アイーニャ様と言う女性は俺を見ながら挨拶をし始める。
「はじめまして、 アイーニャ・ディア・バルデック と申します。以後お見知り置きを」
「はじめましてアイーニャ様、エルライナと申します」
「さて、挨拶も済んだんだ。エルライナ、そこに座ってくれ」
「はい」
俺は返事をした後、バルデック公爵様の向かい側の椅子に座る。
「さてエルライナ、色々話したい事があるがまずはこの前お礼を改めて言おう。私を守ってくれてありがとう。エルライナ」
お、お礼を言われたあぁぁぁ!!?
「に、ニャイッ!!」
顔が、顔が熱いよぉぉぉおおおおおおっっっ!!?
「旦那を助けてくれてありがとう。あんたが居なかったら今頃どうなっていたか」
「みゅぅ、ひにゅぅぅぅぅぅぅ~~〜〜〜〜・・・・・・・・」
もう止めてっ!! おかしくなっちゃうよぉぉぉおおおおおおっっっ!!?
「こらアイーニャ、
「あら、別に良いんじゃないの。この子は貴族じゃないだから普段の話し方で。しかし、この子は聞いていた通りの照れ性なんだねぇ。見てて飽きないわコレ」
ひょっとして俺、遊ばれているの?
「すまないエルライナ、アイーニャは普段はこうなんだ」
「べ、べしゅにかまいましぇんよ・・・・・・はにゅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」
話しやすい方がこっちも楽だしね。でも呂律が回らないよぉ〜〜〜。
「ほら! エルライナも言っているんだし、いいんじゃない?」
バルデック公爵様は呆れた顔をしながらアイーニャを見つめる。
「ハァー・・・・・・まぁ良いか。本題に入るぞ。先ずは君に私を助けて持ったお礼を君に渡す。メルディン、あれを渡してくれ」
「はい、旦那さま」
メルディンさんはどこからか袋を出して俺に差し出してくる。多分、メルディンさんはアイテムボックスのスキルがあるんだ。
「エルライナ様、こちらがお礼の品です」
「ありがとうございます。ッ!?」
バルデック公爵様とメルディンさんにお礼を言った後に袋を受け取るが、なぜか手が震えるほど袋が重い。
「その中に金貨100枚入っている」
「金貨100枚っっっ!!?」
えっとぉ、この世界のお金のレートは下から鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白銀貨、黒金貨の順番に高くなっている。
銅貨を十枚が銀貨一枚の価値になる。つまり、それぞれ十枚づつの価値で市民の間では銀貨以下の流通が多いが、逆に商人や総合ギルド冒険科登録者の
「ちょっ!? 私なんかにこんなに大金を渡して良いんですか?」
「構わない。キミがやった事はそれだけの価値があるからな」
バルデック公爵様にきっぱり言われてしまった。
「あんたがネルソンの事を思うのなら、遠慮しないでその大金を受け取りな」
受け取る事がバルデック公爵様の為って、どういう事なの?
「なんでですかアイーニャ様?」
「貴族って言うのは体面が大事なのよねぇ」
「体面?」
「そう、体面。あたしら貴族は恩人に対してなにもしないのは 恩知らず。 とか 薄情者 とか言われるからねぇ。もし、あんたがそのお礼を受け取りなかったら、ネルソンが他の貴族から恩を返さないだと! 貴族の恥をしれ! とネルソンを厄介に思っている奴らから絶対叩かれる。ネルソンをそう困らせたいのかい?」
俺は全力で首を横に振ってしまう。
「なら、その大金を受け取りな」
う〜ん、貴族の世界って複雑なんだなぁ。
「はい、分かりました」
俺は受け取った金貨をストレージの中に袋ごと入れる。
「さてエルライナ、他にもキミに聞きたい事があるんだが、今大丈夫か?」
なんだろう? バルデック公爵様が今よりも真剣な顔つきになっている。何か重大な話しなのか?
「はい、大丈夫ですよ」
俺は姿勢を正しバルデック公爵様を見つめる。
バルデック公爵様は俺に一体どんな話しをするんだろう? 重要な話しなのは雰囲気で分かるんだけど。
俺はある程度は予想していたが、まさかこの後にバルデック公爵様の口から自分の予想を上回るような衝撃的な話しをするとは、この時までは思ってもみなかった。
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